教訓、三十五。敵を騙すには身内から、というのを身内も分かっている必要がある。
バムスの子飼いのニピ族達。主人のバムスが死んだとは思えず、毎日探し回っている。瓦礫の山と化した屋敷跡を……。つまり、内心では死んだ可能性を考えている?しかし、彼らは主人が死んだとは思いたくないのだ。そして、彼らはある物を発見する。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
バムスが行方不明になった、という知らせは国中にあっという間に広まった。国中の女性達が彼のことで悲しんだという。そして、その衝撃は男性にもあった。当時、多くの人がその知らせに驚愕した次第を日記に書き残した。
レルスリ家の屋敷跡には、フラフラした二人のニピ族、ガーディとヌイが毎日亡霊のように現れ、その辺をうろつきながら大声で泣き叫びつつ、バムスを捜して歩いた。
がれきの山をかきわけ、国王軍が公警や民警と一緒に、彼らが検分して調べている最中にもお構いなしに、崩れ落ちた屋敷の跡を彷徨っていた。
バムスの寝室があった部分の焼け跡から、一人のピド族の骨になった遺体、近辺に三人分の骨になった遺体が発見された。火の勢いが強く、また、郊外にあったため消火活動が遅くなり、火は屋敷中に燃え広がった。
国王軍はガーディとヌイに、何があったのか一応聞いたが二人はまったく答えなかった。
昔から言われている。主を失ったニピ族には近寄らないようにと。八つ当たりで殺されるかもしれないからだ。八つ当たりされなかっただけ、ましである。
それで、国王軍は二人の行動を見張ることにした。もしかしたら、二人が何か手がかりを発見するかもしれないからだ。
そして、それは正解だった。ある日、二人はがれきの山を「旦那様ぁぁ!どちらに、いらっしゃいますかぁぁぁ!」と叫びながら、ほっくり返していたが、鉄扇を発見したのだ。国王軍はきっと、助けに炎の中に飛び込んだというサグの物だと思った。
それで、証拠としてそれを渡してくれるように、二人に頼んだ。すると、言ったのだ。
「これは、サグのじゃない。」
そして、ぽいっと投げ捨てた。そして、相変わらず「旦那様ぁぁぁ!」と叫んでいる。普通、ここのがれきの山にいるということは、死んでいると思うはずだが、「きっと、どこかで生きておられるはずだ!!!」と叫びながら捜している。
言っていることとやっていることが矛盾している。しかも、仲間のサグのことは捜さないのか、と見ている人達は思った。が、みんなニピ族なら仕方ないと分かっている。
サグのじゃないとはどういうことだろう、と調べている人々は疑問に思ったが、分からなかった。この事件は不可解だった。なぜなら、ピド族の使用人の家も燃えていた。明らかに何か関係があると思われたが、手がかりがない。
こうして、幾日も過ぎた、ある日の夜中。
ガーディとヌイは怪我が完治していないため、毎日、焼け跡の屋敷に来ては、夕方にカートン家からやってきた医師とニピ族達に連れ戻されるという、毎日を過ごしていた。
ところが、ほぼ怪我が治った頃、夜中に二人はカートン家から抜け出して、レルスリ家の屋敷跡にやってきた。もう、そこは屋敷跡という表現がふさわしいくらいに、焼け落ちてしまっていた。
ガーディとヌイは、寝室のあった場所付近の一階に、寝室のあった場所の下は応接間だった…が、床が抜けて一階になんでも落ちていた。燃えた寝台も、書斎にあった机も本棚も何もかも。一応、寝台跡にはバムスらしい遺体もあったが、燃え尽きていて誰か分からなかった。
すでに遺体は回収されていたが、他の物は残っていた。二人は書斎にあったはずの机を発見していた。そして、その付近からバムスが、緊急時に持ち出す貴重品を入れる小箱があるのを知っていて、その小箱が転がっているのを見つけていた。
小箱はバムスが出て行く時、机の引き出しの中にしまっており、燃えずに残っていた。その上、一階に落ちた衝撃で外に出ていたのである。床が抜け落ちたのは、消火がだいぶ進んで水をかけている頃、耐えきれなくなって落ちたのだ。そのため、外に出た小箱も燃えなかった。
がれきの下になって、一見分からないようになっていたが、ガーディとヌイは探し回り始めて、三日目に見つけていた。だが、怪我も治っていないし、国王軍も人々の注目もあったので、しばらく放置していた。
その他に主であるバムスが、本当は死んでしまったかもしれないという悲しみのあまり、現実から目を背けたかったのもあって、そのままにしていたのだ。
だが、怪我も治り、少し冷静になったのもあって、二人はこの日、その小箱を確認することにした。そして、小さな灯りの元、その小箱をがれきの下から拾い上げて中身を確認した。
「!!」
中身がなかったので二人は喜びのあまり、小箱があたかも主人のバムスであるかのように、抱きしめようとして取り合ったが、小さすぎてできなかったため、分解して壊れてしまった。仕方なく、二人は分解した小箱をそれぞれ胸に押し抱いて、歓喜の涙を流した。
「……旦那様……!やはり、生きておられたのですね。」
「ああ、旦那様……!そして、サグ、一人だけ許せない……!」
「勝手に帰ってきて、いいところだけ持っていった……!」
「……もし、本当に旦那様が襲われたのなら……許せない!」
二人は焼き餅を焼いて、サグに今度会ったら、ただではおかないと誓い合おうとしたが、そんなことをしたら、旦那様に叱られるかもしれないと思い直した。せっかく、再開できた時に、旦那様に叱られるのは嫌だ。
そこで、二人は相談して、すっごく心配したが旦那様の考えを慮り、物凄く仕方なく…仕方なーくサグに焼きを入れるのはやめておく、というように演出することに決めたのだった。
とにかく…その日を境に、ガーディとヌイは姿を消した。自分達の隠れ家に引っ込み、サグが接触してくるまで、ふて寝をする毎日を過ごした。
うさぴょん質屋の店主が思っていた通り、ニピ族とはやっかいな珍獣なのだった。もとい、不器用な人達なのだった。
ところで、バムスが生きているだろうということは、サミアスには知らされなかった。ガーディとヌイは、自分達にも知らせずにバムスが行動したということは、突発的に緊急事態が発生したか、予想はしていたが時期はつかめなかったか、もしくは、分かっていたがわざと自分達には教えなかった、の可能性があることを分かっていた。
そのため、もしかしたらわざと教えない可能性もあると考えていた。なぜなら、もし、用事がある場合は、さっさとサグから接触があるはずだ。それがない、ということは接触してくるな、という主人であるバムスからの言づてだということも分かっていた。
だから、サミアスには伝えずに、自分達だけ生きていると安心しつつも、連れて行って貰えなかった不運を呪いつつ、毎日、仲間の経営している旅館の隠れ家でふて寝をしていたのだ。
そして、サミアスはただ一人、カートン家で旦那様を救えなかった自分のふがいなさに憤怒し、主人であるバムスを失ったかもしれない悲しみに、押しつぶされそうになって悲嘆に暮れながら、療養していた。
目を覚ますたびに「旦那様ぁぁ、今、お助けに参ります!!」と叫びだして出て行こうとするため、サミアスは、ほとんどの時間を怪我が治るまで薬で眠らされて過ごしていた。シークがベリー医師に盛られた…ではなく、処方された薬と同じである。
星河語
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