事件の裏で、狐と狸が化かしあう。 12
バムスは使用人たちが戻ってくるまでの間に、ミローに話を聞きます。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「ミロー。エッタさんは……お前の母ちゃんはどうした?」
バムスはその間にミローに尋ねた。
「…だんなさま、母ちゃん、たおれただ。こいつ、まえのまえの、おいらたちいたところの、見せものしのところにいたやつだよ。いつも、母ちゃんを泣かせてたわるいやつだ。こんど、だんなさまにもおなじことしただ。わるいやつだ。」
ミローはサグに殺された、成りすましのピド族の男を指さした。
「こいつ、くろい服のやつらをつれて来ただよ。くろいやつらと、こいつ、おいらたちの家に入ってきただよ。母ちゃんは家に入るなって言っただよ。でも、入ってきて、母ちゃんをなぐっただ。おいらもなぐっただ。
おいら、母ちゃんをたすけようとしただよ。でも、こいつ、強かっただよ。いすやしょくだいで母ちゃんとおいらをなぐっただよ。いたくて泣いてたら、おいらの服をとられただよ。
そしたら、そこにガーディとヌイが来ただよ。いっしょににげられるように、助けようとしてくれただよ。にげられそうになっただよ。でも、くろいやつらが矢をいってきただ。矢がささったところ、母ちゃんのうでが赤くなっただ。
おいらにもささっただ。ガーディとヌイが、どく矢だって言っただ。二人がおいらと母ちゃんに矢がささらないように、かばってくれただ。そこにエイドが来ただ。ガーディが助けをヴァドサ家の人に呼びに行けって言っただ。エイドはそれで行っただ。
しばらくしたら、くろいやつらは家から出て行っただ。その間に、ガーディとヌイがくろいつぶつぶをこびんから出しただ。母ちゃんとおいらにのめって言っただよ。でも、母ちゃんはまず、ガーディとヌイが必ずのめって言っただ。
でも、二人が母ちゃんにのめって言うから、母ちゃん、おこって二人にのませただ。そしたら、母ちゃんはじぶんはいらねぇから、おいらにのませろって言っただ。母ちゃん、じぶんはもうむりだって言っただよ。
母ちゃん、おいらに言っただ。母ちゃんはしんぞうがわるいって、カートン家のお医者に言われたって。長くないって言っただよ。それで、おいらに言っただ。だんなさまに恩をかえすだ、かならずおたすけするだ。
そしたら、ガーディとヌイが、それを聞いて、おいらにもってたつぶつぶ、ぜんぶのませただよ。おいら、しばらくしたら、しびれてたうでがしびれなくなっただ。足にも力が入っただ。
ガーディとヌイが、必ずだんなさまをおたすけしろって言っただ。お前ならできるって言っただ。だから、おいら、火の中を走ってきただ。そしたら、みんなに会ってここまで来ただ。」
ミローの話から、ミローの母のエッタが、自分の命は長くないと知っていたので、ミローに解毒薬を飲ませたと分かる。もしかしたら、ガーディとヌイは解毒薬が足りなかったのかもしれない。ミローの力に賭け、そのために彼に解毒薬を飲ませようと考えたから。
バムスはその話を聞いて、深くため息をついた。
「分かった、ミロー。よく頑張ってここまで来てくれた。ありがとう、ミロー。」
礼を言われて、ミローは涙を手の甲でぬぐった。
「母ちゃん……ミンミと同じになるだ。おいら、分かっただ。母ちゃん、死ぬんだって、分かっただ。でも、母ちゃん、だんなさまをおたすけするだって言っただ。おいらもおたすけしたいだよ。いえもしごともくれただ。母ちゃん、うれしくて泣いただ。」
ミローの説明の間も、火が燃え広がっていた。パチパチと音が迫ってきている。ヴァドサ家の四人が心配し始めた時、使用人達が走って戻ってきた。
「旦那様、旦那様の予想通り、グフェアさんとバエルさんは亡くなっていました。」
そう言って、二人の遺体を運んできた。さらにもう一人、別の遺体も並べた。
「ニオベムは、二人を助けようとして死んだみたいです。」
「…そうか。ティーマが密偵だったか。」
バムスはサグにつかまって、辛そうに上半身を起こした。
「……ミロー。まだ力はあるか?」
バムスの問いにミローは立ち上がった。
「あるだよ、だんなさま。」
「私を運んでくれ、ミロー。サグ、お前はあの男を連れてきなさい。ニピ族の可能性がある。お前しか見張れない。もう、起きているはず。絶対に逃がしてはならないし、死なせてもならない。」
「分かりました。」
サグは男を起こして立たせる。ミローはバムスを抱きかかえた。
「…ミロー、三人の顔が見えるように向いて欲しい。」
バムスが何をしようとしているのか、訳ありの使用人達も、ヴァドサ家の面々もなんとなく分かっていた。バムスは三人の顔を順番に見つめた。
「……三人とも、今までありがとう。こんな最期を迎えさせて本当にすまない。」
バムスは三人の亡骸に謝った後、深く息をついてから、使用人達に命じた。
「グフェアを寝台の上に、バエルは窓辺にニオベムは扉の前にそれぞれ寝かせなさい。」
もう、みんな分かっていた。自分の死を偽装しようとしていると。
「サグ、その男がニピ族なら、鉄扇を持っているはず。その男から鉄扇を奪い、ニオベムに持たせなさい。それから、ミロー、私を机の前に連れて行ってくれ。」
ミローがのしのしと歩いて連れて行くと、何かしてから床板をはずし、中から必要な物を取りだし、それは資料だけでなく何かの鍵束も入っていた。さらに小箱を取り出し、サグに中の手形を一枚ずつ、そこに残っている使用人達に渡した。
「お前達に頼みがある。ロンデ、特に重要だ。お前はサグが燃える屋敷に飛び込んで行ったと、証言しなさい。それだけでいい。他に何を聞かれても、それだけを見たと言いなさい。他には何も言わなくていい。
そして、お前達はこう言いなさい。私を助けようと、壁や扉を壊そうとしたが、火が迫ってきて間に合わなかったと。国王軍の取り調べでもそう言いなさい。
その手形は私がいない間の生活費の足しにして欲しい。イールク、残りはお前が管理して、渡していない人達に渡しなさい。
それから、サミアス、ガーディ、ヌイには私が生きていることを言ってはいけない。サミアスはしばらく動けないだろうが、ガーディとヌイは戻ってくるかもしれない。きっと、私を捜し回るはずだ。でも、私が生きていると教えれば、敵に私が生きていることが知られてしまう。
だから、三人には悪いが言わないで欲しい。どんなに発狂しそうなほどになっているのを見たとしても、そうして欲しい。
サグ、お前はしばらく私と一緒に姿をくらます。もう、分かっているとおり、私は自分の死を偽装する。陛下も含めて国中を欺くつもりだ。後で陛下にはきつくお叱りを受けるだろうが、やるしかない。」
国中を欺く。しかも国王も欺くというバムスの言葉に、その場にいた全員は息を呑んだ。びっくりするが、それがバムス・レルスリという人だ。
「……だんなさま、おしりがぬれてるだ。おしっこ出ただか?」
普通だったら、口に出して言えないが、五歳児の知能のミローは口に出した。だが、それでみんなは気がついた。真綿の布団を通して、血が滴り落ちていることに。
ミロー以外、全員、ぎょっとしてバムスを見つめた。ケイレとサグは気づいていたが、出血が早まったことに驚いたのだ。
バムスは苦しそうにぐったりして意識を失ったようだった。彼はレルスリ家の当主として、必死に気を失わないように保っていたのだ。
拷問を受けていたのだから当然ではあるが、止血できない箇所の出血というのが問題だった。
星河語
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