表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
389/582

事件の裏で、狐と狸が化かしあう。 11

 バムスはサグに、黒帽子の男を殺さないように指示します。せっかく、自分を囮にして捕まえたのだから……。拷問はされても殺されはしない、という計算があったのでした。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

「サグ…!私が……あの男を釣った。せっかく釣ったのに、逃すわけにはいかない。」

 その場にいた者は、全員、聞き違いかと思った。“釣った”?

「……だ…旦那様……もしや。まさか、自らを(おとり)になさったと?」

「そうだ。そうなるように誘導した。今日、こんな形でくるとは思わなかった。……でも、動きやすくなるように、兵の数を減らし……ガーディとヌイをできるだけ、外に出しておいた。

 ……その前に、怪しげな者を雇ったのも、きっと黒帽子の手の者だと思ったからだ。だから……サグ……耐えて欲しい。」

 サグはようやく(うなず)いた。「分かりました。」と苦しそうに声を絞り出す。

「なるほど。実に上手く入り込めたと思った。さすが、バムス・レルスリ。我々を誘導していたとは。賢い男だ。」

「……罠にかけるのが、自分達だけの専売特許だと思ったのか?」

 バムスは苦しそうにしながら、男に返した。男はくくく、と喉を鳴らして笑う。

「いいや。さっきまで(あえ)いでいたのが、嘘のようだな。しかも、なかなか骨がある。

 本当は発狂したくなるほど、薬の作用でおかしくなっているはずだ。まだ、理性を保っているとは。あの拷問に耐え抜き、結局助けが来てしまったのだからお前の勝ちだ。私達の負けを認めよう。

 だが、これで終わりではない。そろそろ、知らせが来るはずだ。この屋敷のあちこちで火事が起き、幾人かの使用人は助からないだろう。色々と計算外が生じたな。こんなに計算を狂わされたことがない。」

 男は言って舌を()んで自害しようとしたが、その動きに気づいたビレスが直前に気絶させた。仮面が床に落ちて転がった。普通の顔の男だ。ヴァドサ家で捕らえた男とは違う男だった。ギークが急いで猿ぐつわを噛ませる。

 それを見届けた途端、バムスがぐったりして目を(つむ)った。

「旦那様、旦那様!ああ、どうしよう!早く医者に診せに行かねば!」

 サグが叫び、急いで布団ごと抱きかかえようとした。

「待ちなさい。それではいけません。布団が取れたら丸見えになってしまいますし、体が冷えます。」

 ケイレが急いで制止した。部屋の入り口に向かい、使用人達に尋ねる。

「どなたか、衣装箪笥(だんす)がどこにあるかご存じですか?」

「わたしが。」

 金(づち)を持っていた侍女の一人が手を上げた。()いだ壁紙の一部が頭についている。

「こちらです。」

 ケイレは案内された衣装部屋から、毛皮のマントを二枚出した。

「これを前と後ろからかけて。」

 ケイレはサグに手伝わせて、先に床に落ちていたガウンをバムスに着せ、さらに前後からマントを着せた。その時に、出血があるのを発見し二人は息を呑んだが、何も言わずにそっとバムスを動かす。

 そして、これまた床に落ちていた靴下もはかせた。その上で布団にくるむ。

「……だんなさま、びょうき?どうしただ?」

 おとなしくしていたミローが尋ねた。

「旦那様は病気になった。だから、今から医者に連れて行かないと。」

 イーグがミローに説明していた時だった。

 パアン!と突然、何かが()ぜるような音がした。それと同時にどこかから、煙の匂いが漂ってきた。

「一体、何だ?」

「見てくる…!」

 使用人のうち二人が走って行った。さっき、男が言っていた通りだ。火事になるように手を回していたのだろう。

「…た…大変だ!」

 一人が血相を変えて戻って来た。

「俺達以外、屋敷にいたやつは死んだかも……!」

「!」

 その知らせを聞いて、みんな絶句した。

「そんな!騒ぎに気づかないで、部屋で休んでた奴は死んだってのか…!?」

「確認はしてない、でも、もう火が回って近づけない…!下の応接間も燃えてる!さっきの音は、応接間の何かがはじけた音だったらしい…!」

「先に妻子持ちを帰しておいて正解だったな。」

 イールクが苦々しく言った。

「本当に……家族がいる人は全員、帰ったのか?」

 意識を失ったかと思ったバムスの声がして、みんなびっくりして振り返った。

「旦那様…!えーと、そうです。戻ってきていない限りは、私が把握している時点でそうしています。何者かが襲撃(しゅうげき)してきた後、これはヤバいと思ったので、先に妻子持ちを帰しました。

 襲撃に気づかず部屋で休んでいた者もいるはずです。ただ、襲撃を受けた際、執事のグフェアさんと副のバエルさん、それと侍女頭のティーマさんが怪我をしました。それで、別室にいて貰い、カートン家に行って医者を呼びに行ったんです。国王軍にも知らせに走らせました。」

「…そうか。おそらく、三人はもう死んでいる。もし、三人のうちの誰かが生きていた場合、その人物が黒帽子の密偵だろう。その三人のうちの誰かが手引きしたはず。」

 その時、バムスは苦しそうに息を繰り返して、体を小さく丸めて身もだえた。

「……サグ。短刀を貸してくれ…!早く!」

 サグは(おどろ)いていたが、言われた通りに短刀を抜いて差し出した。バムスはそれを取ると、左手の甲に斬りつけた。

「旦那様!」

「……心配ない。正気を失わないようにするためだ……。つまり、ここに残っているのは、計算上、十三人だな?」

「…はい、そうです、旦那様。」

 イールクはびっくりしながら答えた。使用人の数を全て把握していることに、今さらながら驚いていた。しかも、変な薬を飲まされて、さんざん妙な拷問を受けた後だというのに。そのバムスの額には玉のような汗が浮かんでいる。

「時間がない…。みんな、私がこれから言うことを聞いて欲しい。誰か、亡くなった者の内、男性三人分の遺体をここに運んで欲しい。」

 バムスの言葉にみんなはびっくりしたが、さすがは訳ありの使用人達である。すぐにその場にいたほとんど全員が動いて走り出した。

 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ