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事件の裏で、狐と狸が化かしあう。 10

 シークの家族達はバムスの救出に成功しそうです。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

「旦那様!お気を確かに!旦那様!私です、サグです!帰って参りました!」

 サグは寝台の上に横たわっているバムスの上に覆い被さり、万一巨人が倒れてきた時に備えたのだ。だが、それはギークとイーグが二人を向こうに倒したので回避された。

 サグはバムスに声をかけるが、意識を失っていて反応がない。体はぐったりしていて、呼吸が浅く速い上に体が熱い。熱があるようだ。その上、全身に(あざ)やらなんやら……。

 主人であるバムスがされたことを見て取り、サグは憤怒に全身を震わせ、守れなかったことにも憤慨した。

「旦那様、旦那様……!くっ…!」

 サグの両目から涙がぼろぼろと溢れる。サグは男達を振り返った。成りすましの男はミローが必死に押さえていた。もう一人の男は、ビレスに窓という逃げ道を(ふさ)がれ、出入り口もギークとイーグに立ち塞がれて、立ち止まっている状態だった。

「貴様ぁぁ!許さん!!」

 サリカタ王国ではニピ族について、こう言われている。決して、ニピ族が護衛についている者に手を出してはならない。死にたくなかったら、手を出さないことだと。もし、手を出した場合、激昂したニピ族に殺されることを覚悟せよ、と。

 サグは急いで布団でバムスをくるみ、寝台から下りた。

「お前達、絶対に許さん!!!」

 サグが獣のように咆哮(ほうこう)を上げた。

 ヴァドサ家の家族もレルスリ家の使用人達も、いささか主人愛が行きすぎているものの、普段大人しくしているニピ族がぶち切れているのを見るのは初めてだった。

 サグは成りすましの方の男に近寄り、ミローの肩に手をかけた。

「どけろ、ミロー!!」

 ミローは怒り狂うサグの形相に恐れをなし、すくんで固まった。

「こっちだ、来い、ミロー。」

 急いでイーグが呼ぶが、呆然としている。このままではぶち切れているサグに、なりすましと一緒に殺されてしまうかもしれない。

「ほら、こっちにおいで。お利口さんね。よくやったわね。」

 その時、ケイレが部屋の中に飛び込み、幼い口調で話していたミローに、優しく幼い子どもに語りかけるように語りかけた。耳元で優しく話しかけられ、ミローはようやく動いて立ち上がった。

 だが、堪忍袋の緒が切れているサグは、ミローをドンと押しやった。

「母上!」

 慌ててギークとイーグがケイレを助けに走り、ギークがミローを支え、イーグがその間にケイレを救出した。ミローを支えるのには、イールクとエイドも走ってきて一緒に支えた。直後にミローが尻餅をついた。ドスン、と床が大きく揺れた。

 その間にサグは剣を抜いた。鉄扇ではない。剣だ。成りすましの男は、ミローという巨体がなくなったので、起き上がって腕で(かば)おうとした。しかし、サグの方が早かった。剣でニピの踊りを踊る。あたかも踊りのようだが、素早い。容赦なく成りすましの男の急所に剣を突き立てた。

「ぐぁぁぁ!」

 成りすましの男は、断末魔の叫び声を上げて絶命した。

「……まさか、こういう展開になるとは思わなかった。使用人達が壁を破壊し始めたのも意外だったが。助けがやってくるとは。」

 一人になった黒帽子の男は、絶体絶命の状況であるにも関わらず、淡々と感想を述べた。

「ずいぶん余裕こいてんじゃないか。次はお前の番だろう?その余裕の理由は何だ?答えた方がお前の身のためだぞ。」

 犯罪者の取り調べのように、ギークが男を(にら)みつける。すると、男はくくく、と喉を鳴らして笑い出した。

「職業病だな。すぐに殺すと言わない所が、国王軍の街の警備隊のくせだ。」

「……殺せるものなら、すぐに殺す。お前は、セグを殺したんだろう?お前がセグを殺したのなら、許したくない。」

「そういえば、そうだった。ヴァドサ・セグを殺したんだった。」

 忘れていたという男の態度に、ギークは怒りに震えた。

「ギーク、待て!」

 ビレスの声に、剣の柄に手がかかっていたギークは、仕方なく拳を握って耐えた。

「この男を殺すと、何があったのか分からなくなる。それでもいいのか?」

「分かっています、父上…!」

 ギークは怒鳴り返した。

「レルスリ殿、気がつかれましたか?」

 その時、ケイレの声が(ひび)いた。

「大丈夫ですか、レルスリ殿?」

 再三のケイレの呼びかけに、バムスがようやく(かす)れて震える声を出した。

「……ヴァドサ夫人ですか?……なぜ?」

「お助けに参りました。主人も息子のギークとイーグもおります。」

 ケイレは素早く説明すると、急いで殺気立っているサグを振り返った。ミローに成りすましたピド族の男の体から剣を抜き、血が(したた)る剣を持って、もう一人の黒帽子の男を睨みつけている。部屋中に鉄さびような臭いが充満し始めた。

「サグ殿、早くこちらにお出でなさい。あなただけでなく、ヴァドサ家の全員があの者を殺したい衝動に耐えているのです。一人、敵は討ったのですから、あなたの大切な旦那様をお守りするのです。」

「……サグ?」

 ケイレの言葉にバムスが反応した。

「サグ、いるのか?」

 バムスの呼びかけにようやくサグが振り返った。目が合った瞬間、駆け寄ってその場にひざまずいた。

「旦那様!申し訳ありません!」

 サグの両目から涙が滝のように流れ落ちた。

「……どうして、帰ってきた?」

「……シーク殿が…帰るようにと……。元来、旦那様の護衛なので、レルスリ家にも危険が生じるかもしれないから、帰るようにと言ったのです。」

 サグは泣きながら説明した。

「申し訳ありません…!旦那様のご命令に反して、勝手に帰って参りました。……ですが、もっと早く帰ってくれば良かった……!!」

 バムスはそんなサグを見て、優しく微笑んだ。震える手を布団の中から出し、サグの右手を握る。

「…お前の判断を責めたりしない。シーク殿の判断だったのだから。彼らしい。でも、そのおかげで私は助かった。お前が来てくれて良かった。」

「ですが、旦那様…!おいたわしい。こ…こんなお姿に……!今すぐ、あの男を殺したい。許せない!殺してやる…!!」

 サグは怒りが再燃して、勢いよく立ち上がった。

「サグ…!」

 バムスがサグの手を握った。

「……やめなさい。耐えてくれ。捕らえなければ意味がない。」

 バムスの声は掠れていて、ずっと微かに震えていた。話すだけで辛そうだ。

「ですが、旦那様!!」

 サグは全身を震わせながら泣いた。ニピ族はこんな時、感情を爆発させても恥ずかしいとは思わない。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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