事件の裏で、狐と狸が化かし合う。 9
バムスを助けようとする、シークの家族とレルスリ家の使用人達。ミローがやってきて扉を破ることに成功します。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
バムスの寝室前は、大変なことになっていた。寝室の手前の書斎の窓は破れ、一戦交えてめちゃくちゃになっていた。書類なんかも散らばり、みんなに踏まれてぐちゃぐちゃになっている。
そして、寝室の前ではギコギコ、ガンガン、ゴンゴン、ドンドン、ギィギィなどのさまざまな騒音に満ちていた。その合間に掠れた妙な悲鳴が聞こえたため、ヴァドサ家の家族はぎょっとした。
サミアスが嘘を言っていたとは思わないが……事実だとは思えなかったのだ。
思わず呆然として四人がその現場を見つめていると、人が来たことに気づいたエイドの仕事仲間達が、振り返った。エイドの他に顔見知りのギークとイーグの姿を見つけ、その他に初老の男女を見て、二人の両親だとすぐに察したようだ。
その中でも年長のジョーが壁を切って壊す手を休めて、急いで近づいてきた。
「エイド、ちょうど良かった。鍵を開けてくれ。それと、こちらはヴァドサ家の方々か?」
急いでビレスとケイレは挨拶をする。その間に、ようやく表面に切り傷が数本入った扉と格闘していたイールクの代わりに、エイドは鍵を素早く開けた。それでも、扉は開かない。
「内側から閂かかってんな。やっぱり中に入って開けるしかない。」
「くそ、やっぱりそうか……!はしごも壊されてるし、どうやって入るか……!」
イールクはのこぎりを床に打ち付けた。
「屋根裏がありましたよね?」
ギークはジョーに尋ねた。
「あります。まさか。ニピ族みたいに上から下りるんですか?」
ジョーの言葉にギークとイーグは頷いた。
「うちでも国王軍で鍛えています。縄があれば、上から下りて窓から入ります。」
“うち”ってどういう意味?とジョーは思ったが、余計なことは聞かなかった。
「父上と母上は、ここにいて下さい。私かイーグのどっちかが閂を開けます。開いたらすぐに中の危険な者達を抑えに来て下さい。」
「分かった。油断するな。当家に侵入できる者達だ。」
はい、と二人の息子達は頷いて、ジョーに案内されて屋根裏に向かう。
その間にケイレは、幾人かの使用人達を手招いた。いきなり“大工事”の音が消えたら中の男達に怪しまれるので、壁の“工事”は続いている。
「みなさん、この中に普段からレルスリ殿の身の回りのお世話をされていらっしゃる方はいますか?」
ケイレの問いに使用人達は顔を見あわせ、気まずそうにうつむいた。
「いいえ。サミアスがしていることも多いのですが、他の人も今はいません。」
「では、呼んできて下さい。」
イールクの答えにケイレは言ったが、彼らは困った表情を浮かべた。
「どうしたんですか?」
「それが……実は使用人の我々も襲われまして。妙な者達が侵入してきて、斬り合いになったんです。その時に身の回りのお世話をしている人達が怪我を。」
説明しながらイールクは気がついた。
「もしかしたら、それが手だったのかも。身の回りの世話をしている者達を怪我させる。仮に助け出せたとしても、普段からお世話をしていない俺達では、要領を得ないし……第一、旦那様がそんな姿を俺達に見せたくないかも。」
ケイレは頷いた。
「そういうことでしたら、わたし達が入ります。わたし達は年長者ですし、毎日顔を合わせるわけではありません。必要な処置をしてから、あなた達にお手伝いをお願いしようと思います。きっと、運び出す必要があるでしょうから。」
その時だった。屋根裏に行ったはずのギークとイーグがジョーと一緒に戻ってきた。その上、大きな足音がして一人の満身創痍のピド族と一緒に戻ってきた。
「父上、母上、さっき言っていたピド族のミローです。」
全身刺し傷や切り傷だらけで、下着しか着ていない。その上、全身煤け、左目は腫れ上がって見えていないようだ。
「ミロー、ちょっと待ってろ。」
ギークがミローを宥め、その間にイーグが説明した。
「窓からは帰ってきたサグさんが行きます。シーク兄さんが帰したみたいです。それで、こっちは彼が扉を壊します。」
「大丈夫なのか?怪我をしているが。」
思わずビレスがイーグに聞くと、それを聞いていたミローが吠えた。
「おいら、ガーディとヌイにたのまれだよ!!母ちゃんにもたのまれただよ!!だんなさまをお助けするだよ!こんなけが、なんともないだ!ガーディもヌイも、もっとひどいけがしただ!だんなさまは命のおんじんだ!お助けするだ!!」
それを聞いた使用人達が目を潤ませた。ピド族はそういない。もしかしたらと、少しでも疑った自分達を恥じたのだ。
「そうか、すまなかった。お詫びに叩く所を教えよう。」
ビレスは言って、扉の閂があるだろう辺りを示した。
「あそこを狙え。あそこだけを狙って思いっきり突っ込め。」
「分かっただ!!」
ミローは走り出した。ドスン、ドスン、という激しい足音の直後に、ドッカーンという派手な音がして、建物が揺れた。だが、頑丈な扉はすぐに壊れなかった。というか、閂が丈夫だったのだ。扉と同じ材質の樫材でできている。
「ぐっ!」
「お前ならできる!」
「お前は強いぞ、ミロー!」
後ろからギークとイーグが叫んだ。
「行くぞー!!」
ミローは叫ぶと、もう一度助走をつけて走って体当たりした。ドッシーン!バリッ!という音がして、扉の閂とちょうつがいが壊れ、扉が向こう側に倒れた。
だが、勢いよくいき過ぎて、ミローは自分に成りすましている男に、体当たりすることになった。
ちょうどミローの大声を聞いて、バムスを拷問していた男達は、彼を人質にするために体勢を整えようとしていた。寝台の上で膝立ちになり、服を整えていた成りすましのピド族の男の足下でバムスはぐったり横たわっている。
だが、ミローが体当たりして二人の巨体がバムスの上に倒れれば、それで彼は死んでしまう。成りすましの男もミローも、倒れないよう踏ん張った。
さすがの黒帽子の男もはっとした。これでバムスを殺すつもりはない。彼を連れて逃げ出す算段だ。八大貴族の頭である。使い道は幅広い。
「おい!」
それ以上言う前に、バアンッという派手な音が後ろの窓からしたかと思うと、目の前に黒い物体が横切り、横たわっているバムスの上に覆い被さった。それと同時に二人が飛び込んできて、「うらぁぁぁ!」と叫びながら巨人二人を寝台の向こう側に倒した。
若干成りすましの方が先に倒れて、ミローがその上に倒れる。一瞬のできごとで考えている暇もなかった。
ドッッッシーンという派手な音と一緒に地震のようにグラグラと建物が揺れた。
星河語
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