事件の裏で、狐と狸が化かし合う。 8
ヴァドサ家の人々がレルスリ家に到着します。そして、敷地内を這っているサミアスを発見します。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
ヴァドサ家は遠いので、馬で来ても反対方向にある郊外のレルスリ家に到着した頃には、すでに辺りが暗くなっていた。昼食も終わっておやつの時間になって出てきたし、日の短くなるのが早い季節だったから余計だ。
セグを失ったばかりのユグスだったが、セグの頼みで様子を見に行く間の留守を頼むと、力強く引き受けてくれた。薬が効いているのか、以前より少し体の方は元気になっているようだ。
こうして、レルスリ家に到着して、何となく違和感を覚えた。門扉は固く閉ざされ、門灯がついてはいるが誰もいないのだ。
「いつも、門番はいないのか?」
「いいえ、そんなことはありません。」
「何かが変です。」
ギークとイーグが警戒している。
「お前様、あれを…!」
屋敷の建物に至るまでの道に灯籠が並んで立ち、灯火もついているのだが、灯りのついていない暗がりの方から、何かが動いているのが見えた。徐々に近づいてきているように見える。どうやら、屋敷の裏手の方の道なので、暗がりからやってきたことになるのだろう。
「人だ。這っている。」
ビレスが言った通りだった。誰かが這ってこちらに近づいているのだ。ビレスは一層、胸騒ぎがした。これは胸騒ぎが確信に近づいている。何かが起きている。もう、遅かったのだろうか。
「私はヴァドサ家の者だ……!大丈夫か…?一体、何があった?」
ビレスは少し遠くはあったが、静かなのでその這っている人物に聞いてみた。その人物は初めて四人に気がついた様子ではっと見上げた。急いで這う速度を上げてくる。
「馬で誰か来ます。」
ギークが言った。後ろからも誰か来たのだ。すぐにその馬は到着した。門前で馬が竿立ちになる。
「私はレルスリ家の使用人です…!ヴァドサ家の方々、どうか、旦那様をお助け下さい、お願いします!」
馬に乗ったまま、その使用人は言った。
「覚えていますか、お二人が来られた時、顔を覚えていませんか?」
ギークとイーグはもちろん覚えていた。
「覚えています。絵を回収していた。」
ギークが答えた。ギークがミローを投げ飛ばした時、廊下にかかっていた絵を回収していた使用人だ。訳ありの使用人の一人だろう。動きが素早かった。よく見れば、この使用人は左腕を怪我していた。服も泥で汚れている。
「一体、何があったんですか?」
「私はエイドと言います。私達も事情を把握していませんが、ミローがいたでしょう。ミローの家にかつて、エッタさんとミローに悪事を強制していた仲間がやってきて、ミローとエッタさんに乱暴を。そして、ミローから服を奪い、エッタさんから襟巻きを取り上げました。
私はたまたま通りかかって様子を見に行ったら、そういう事態になっていました。
なぜかガーディとヌイがいて、奮戦していたのですが、なんせ多勢に無勢な上、毒矢をエッタさんとミローに射っていた。それを防ぎつつ、逃がそうとしていましたが、なんせ、ピド族なので的が大きい。
私に気がついたガーディが、旦那様が危ないからヴァドサ家に助けを求めに行けと言うので、走って国王軍に行きましたが、あなた達はまだ喪中で家にいると教えられて、ヴァドサ家に向かう途中で、運河の対岸からあなた達を見たので引き返してきました。」
エイドはずいぶん目がいいようだ。暗がりの中、よく見極めたものである。エイドが話している間に、這っていた人物が門前に到着した。
「サミアス!」
エイドが慌てて馬を下りた。門を開けようとするが、鍵がかかっていて開かない。すると、エイドは素早く服の帯の間から数本のピンを取り出し、手を門扉の隙間から突っ込んで、ガチャガチャとしているうちに鍵が開いて門を開けた。
元々泥棒だったのだろうか。ギークは思わず、仕事のくせでエイドを鋭く見つめてしまった。
「大丈夫ですか?一体、何が?」
「……エイド、お前が話していた、ミローになりすました男が……トーハと一緒に旦那様を寝室に連れ込んで……立てこもった。私は……ミローに成りすました男に投げ飛ばされた。旦那様が……旦那様が!ああぁぁぁ!!」
サミアスは突然叫び、拳を地面に何度も叩きつけた。
「……寝室の合鍵を探しに来たビオパに話を聞いた……あの二人は……あぁ、くそ!!私がいながら!!なんてことだ!旦那様を…旦那様を……!!」
サミアスの両目から涙がこぼれ落ちる。
「サミアスさん、それで、旦那様に何があった?とりあえず、話してくれ。」
「……旦那様を…旦那様を……手込めにしていると。」
サミアスが震える声で絞り出した話を聞いた面々は、一瞬、理解できずに戸惑ったが、理解した途端、一気に青ざめた。美しいとはいえ男性である。まさか、そんなことが起きるとは思わず、ヴァドサ家の家族は驚きを隠せなかった。
「なんてことだ、くそ!早くお助けに行かないと…!」
エイドはいきなり立ち上がって走って行こうとする。
「待て!」
ビレスは急いで引き止めた。エイドはそのよく通る声で、ヴァドサ家の面々がいたことを思い出し、振り返った。
「すみませんが、確認させて下さい。つまり、話を総合すると、ミローに成りすましたピド族の男が、先日雇われた男と一緒にレルスリ殿を寝室に連れ込んで……襲っていると?」
顔見知りのイーグが確認すると、エイドは頷いた。
「そういえば、どうして来られたのですか?」
「何となく胸騒ぎがして、お助けに来たのです。甥がレルスリ殿をお助けするようにと言っていたので。」
「セグが危険だと遺言で残していたので。」
イーグがビレスの言葉を補足すると、使用人達も先日来ていたセグが死んだと聞いていたのだろう、はっとした。
「今はそれよりも、レルスリ殿をお助けしないと。ピド族に襲われたんじゃ死んでしまう。わざわざ高嶺の花を狙うなんて。」
「ギーク、不謹慎ですよ…!」
思わず本心を言ってしまったギークは、すかさず母のケイレに注意される。
「はい、申し訳ありません。母上。」
「そうですよ。」と言おうとしたエイドは急いで口を閉じた。やはり、ヴァドサ家はかなり厳しい家柄のようだ。エイドは余計なことで失言して、助けに行くのが遅れないようにしようと肝に銘じた。
「行きましょう。」
「サミアスさんは?」
「私のことは置いていって下さい。早く、旦那様を助けて下さい、お願いします!!」
イーグが尋ねるとサミアスがすかさず答えた。直後に「あぁぁぁ、旦那様ぁぁ!!」と叫びだして驚いたが、すぐにこれがニピ族なのだと気を取り直して、馬で側を通り過ぎた。
エイドの案内で屋敷内を走った。今日はケイレも帯剣している。家族四人全員が帯剣していた。
星河語
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