事件の裏で、狐と狸が化かしあう。 7
今度はヴァドサ家のシークのお父さんであるビレスです。彼は意外に心配性。そして、彼の勘は当たるのです。霊感が強い方?シークもその血を引いているようです。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
ビレスはその日、なんだか落ち着かなかった。妙に胸騒ぎがしていた。
セグが亡くなって、葬儀も終わっていた。先祖代々、訳も分からず密偵をさせられていた、ソドの息子のライクの娘も取り返した。
セグの葬儀の時、バムスが弔問に訪れた。
「私のせいです。総領殿が心配なさった通りの結果になってしまいました。申し訳ありません。誰の葬儀もさせないと大見得を切って、大言壮語したのに、セグ殿を死なせてしまった。取り返しのつかないことに……。」
そう言って、バムスは涙を堪えた。ビレスは確かにバムスに会うまでは、彼に対して多少の腹立ちは持っていた。でも、そうやって悲しんでいる姿を見ると、文句をつけるのは憚られた。
「セグ殿は…これからの人でした。いい若者だったのに…。とても、残念です。残念でなりません。」
手巾で涙を拭いている姿を見て、ビレスは演技ではないと判断した。おそらく、本心から言っている。
「いいえ。レルスリ殿のせいではありません。…確かにあなたに会う前までは、少し腹を立てていました。でも、それは八つ当たりです。本当は私の責任です。誰かに当たりたかっただけです。相手の方が一枚上手だった。確実にセグを殺すつもりだった。」
その後、セグが死んだ日のことを詳しく説明した。
「ナーク殿は無事ですか?」
「幸い、ナークの怪我は大したことはありませんでした。」
「それは良かった。どうも心配です。ガーディかヌイをナーク殿の元に送りましょうか?」
バムスがそんなことを言い出したため、ビレスは慌てた。
「少しお待ちを。いけません、レルスリ殿。生前のセグは繰り返し言っていました。次はレルスリ殿だと。今、強力な戦力であるニピ族の護衛を、私達のために減らしてはいけません。」
ビレスが強く固辞したため、バムスはようやく納得した。
それから、幾日も経っていなかったが、妙な胸騒ぎが治まらなかった。セグが生前、ギーク、ナークと一緒にレルスリ家に行っていた。その際に言っていたことを思い出す。
ニピ族の護衛が一人、減っている。セルゲス公の元に置いてきた、という話だ。その上、屋敷の警備に当たる領主兵達も、ティールや領地の方に送り、家族がいる方の警備を強化したという。
つまり、肝心の当主であるバムスの警備が、一番薄い状態なのだ。その点についてセグは心配していた。だが、実際にノンプディ家で危険な組織の暗躍ぶりを目にしてきたバムスが、家族の安全を図りたいというのを止めることはできない。
もし、相手がバムスでなかったら、ちょっと様子を見に行って来よう、ということもできるがバムスである。八大貴族であるというだけでなく、女性に大層モテる上に、男性にもモテているような人だ。ビレスでも彼がサリカタ王国一の美男子に選ばれなくとも、色男に選ばれることくらいは分かっている。
下手に行って、何か問題視されたら困るし、時間的にもまずかったりしないだろうか。なんせ、ヴァドサ家は遠い。馬で行けば早いが、それでも夜に行って失礼になったりしないものだろうか。
どうしたものかと、しばらく腕を組んでうろうろ部屋の中をうろついて考えたが、やはり落ち着かない。いい考えも浮かばない。
「お前様。」
その時、突然部屋の引き戸が開いて、ケイレが入ってきた。思わず悪いことをしていた訳でもないのに、びくっと飛び上がりかけた。
「?どうなさったのです、うろうろと。」
ケイレは畳んだ洗濯物を持ってきたのだ。たんすの引き出しにしまっている妻の姿を見て、ビレスは突然ひらめいた。
妻と一緒に行けばいいのだ。夫婦で行けば、妙な噂も立たないだろう。それに、万一、何かあったりした場合、ケイレの機転が役に立つ場合もあるかもしれない。そんな、万一はない方がいいが。ビレスはすぐに決めた。
「ケイレ。今から出かけるから、用意をして欲しい。」
引き出しを閉めながら、ケイレが振り返った。
「どこへ行かれるのです?」
「レルスリ家だ。」
「レルスリ家ですか?」
ケイレが驚いている。
「妙な胸騒ぎがする。先日、セグが言っていたことが頭から離れない。」
ケイレがまっすぐビレスに向き直って座り直した。
「セグはなんて言っていたんですか?」
「もし、万が一、自分に何かあった場合、その次はレルスリ殿だと。だから、必ずレルスリ殿を助けて欲しいと言っていた。自分が死んでも家族が悲しむだけで済むが、レルスリ殿が死んだら国が動くと。だから、必ず助けて欲しいと。」
ケイレはじっとビレスを見つめていた。
「今度は失敗したくない。シークを助けて下さった恩人だ。」
「分かりました。それで、お一人で行かれるんですか?」
「いや、ケイレ、お前にも来て欲しい。道場のことはコンバさんに、家のことはユグスに頼もうと思っている。」
今、エンスとアレスはシークの所に行っている。留守中に何かあるかもしれないので、万一に備えてだ。
「分かりました。他には?」
「ギークとイーグにも来て貰おうと思っている。ギークはレルスリ殿の屋敷に出入りしているから、門番なども知っているだろうし、万一、何か起きていた場合、屋敷の内部を知っている分、有利になる。」
「では、わたしがギークとイーグに伝えます。」
「コンバさんとユグスには私から話す。…それで、どんな格好で行ったらいいもんだろうか?それに、理由も見つからないし。」
行くことに決めたものの、理由もなく訪れるわけにもいかなかった。すると、ケイレがふふふ、と笑い出した。
「まあ、お前様。そんな理由で悩んで、うろうろしていたんですか?」
「……。」
いや、行くか行かないかという、根本的にもっと前の段階のことだ、とは言えなかった。
「そんな理由なんて、なんとでもできますよ。先日、弔問に来て下さったお礼でいいのでは?それなら、家族で行ってもおかしくありませんし、ついでと言ったらおかしいかもしれませんが、シークのことのお礼を申し上げるということもできますし。」
確かにきちんと礼を言っていなかった気がする。目からうろこが落ちた気分だった。
「……確かにそうだな。」
「……服装なんていつもの装いでいいのでは?セグの葬儀開けですし、私的に行くのですから仰々しくしてもおかしいでしょう。それに、あのお方なら文句は言われないはずです。理由を説明すれば理解して下さるはずです。
そもそも、何かあるかもしれないと万一のために、様子を見に行くのですから、動きやすい服装の方がいいのでは?」
全くその通りだった。
「そうだな。お前の言うとおりだ。」
ビレスは頷いた。妻に相談して良かった、と心底ビレスは思ったのだった。
星河語
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