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事件の裏で、狐と狸が化かしあう。 6

 今まで名前だけ出てきた八大貴族の一人、アジアス・ナルグダ殿の登場です。彼は自然と出てきました。少しは自分の出番が欲しかったのでしょう。彼の視点です。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 アジアス・ナルグダは、レルスリ家が焼け落ちたという知らせを受けて、持っていた杯を落としかけた。自分の屋敷でゆっくり、好きな酒をたしなんでいた時に知らせが入った。

「本当か?間違いないのか?」

「間違いありません。国王軍に入っている私の息子からの知らせです。」

 アジアスの侍従をしているグリスが答えた。

「バムスは無事なのか?」

「それが、行方不明だと。詳しいことは全く分かっていないそうです。」

 アジアスは自分の密偵に詳しい話を聞かせに走らせた。そして、夜が明ける前までには、おおよその話が見えてきた。

 密偵から詳しい話を聞いて、アジアスは呆然としてから苦々しい気分になった。

(…馬鹿め!だから、前にも注意しただろうが!慈善事業もいいが、気をつけよと…!二十年前にも同じようなことに巻き込まれたのではないか…!なんで、もっと警戒しなかった、バムス!)

 思わず、机の上に拳を叩きつけた。机の上に両肘をつき、両手を組んで額を乗せる。考え事をする時の体勢だ。

 二十年前の事件は、アジアス自身もその当事者だった。もし、あの時、アジアスが大使だったら、暗殺されていた。しかし、バムスだったから生きている。

 その代わり、バムスは生涯を持ってしても、癒えないような心の傷を受けた。バムスが身を(てい)して…というか犠牲にして、彼自身の名誉も尊厳も全てを犠牲にして守ったから、あの時、随行していた約三百名の命が助かった。

 アジアスにとって、バムスは(まつりごと)のいろはを教えた優秀な弟子だ。だが、あの事件後、バムスは変わった。全てにおいて、変わってしまった。前は女性との浮名を流すようなことはしなかったのに、多くの女性と浮名を流した。たまに同性との関係も(うわさ)されるほどになった。

 アジアスには多くの噂を作ることによって、心の傷を隠すための(よろい)を作っているように思えた。

 だが、その一方で政の手腕は鋭さを増していた。できるだけ、利用することを避けていたバムスが、事件後は利用するようになった。

 ボルピス王が王位を取りに行くと決めた時、お膳立てしたのはバムスだった。まさか、幼いグイニス王子にそこまでするとは思えず、信じられない思いを抱いたのは間違いない。

 なぜだ、アジアスは疑問を抱き続けた。カルーラ王妃が幼い王子に虐待をしているようだというのは分かっていた。自分も同じ経験をしたのに、なぜだ。まだ、王子は幼いのだ。お前が傷を受けた時よりも、遙かに幼いのだ。その疑問を彼にぶつけることもできなかった。

 そんなある日、バムスが首府議会の後、話があると言ってきた。

「話とは最近にしては、珍しいではないか。何やら奥の資料室を整理整頓している様子だが、一体、何を企んでいる?」

 皮肉たっぷりに尋ねると、バムスは笑顔の仮面をつけたまま、にこやかに答えた。

「いつか近いうちに、王太子殿下がグイニス王子を助けるので、協力して欲しいと言ってくるはずです。そうなったら、手助けしてあげて下さい。」

 思わずアジアスはバムスを凝視(ぎょうし)した。やはり、何が起きているか知っているのだ、アジアスは確信した。

「いつか、近いうちとはいつだ?」

「王太子殿下が、ニピ族の護衛を見つけてからです。殿下がニピ族の護衛を見つけたら、すぐに動いてくるでしょう。賢いお方ですから、気を逃すつもりはないはずです。その時、速やかに動けるように備えて置いて下さい。出遅れることのないように。」

 アジアスはバムスを見つめていたが、淡々とした瞳からは、何も読み取れなかった。

「そのためか、王宮の見取り図なんかをせっせと整理整頓していたのは。」

「……。」

「殿下が見つけやすいようにするためだろう。それにしても、お前に言ってくるかもしれん。それなのに、なぜ、私だと分かる?」

「簡単なことです。殿下は私のことを、陛下の右腕だと思っている。私に言えば、陛下に全て話が筒抜けになり、グイニス王子の救出が不可能になると思われるからです。」

 バムスの答えにアジアスは軽く笑った。

「その通りだな。でも、王太子になれば、その王宮の見取り図を見ることができると、お伝えしたのはお前だろう?」

「……何の話です?」

「しらばっくれるな。なぜ、助けようとする?お前がああなると分かっていて、死地に入れたようなものなのに。」

 アジアスはわざとバムスの感情を逆なでするように、尋ねた。二人…いや、それぞれの護衛が一人ずついるから、四人きりだ。二人の護衛はニピ族だから、周りに人がいないとほぼ確信できた。

 実際に隠れる所のない渡り廊下で、人はほとんど来ない。王宮を詳しく知っている者しか知らない、貴族や王族でさえ、知る者はほとんどいないだろう場所である。

「……。ナルグダ殿。それを私に尋ねますか?」

 バムスはうつむいて、(かす)れた声で聞き返してきた。

「……確かに…確かに、グイニス王子を死地に入れたのは私です。でも…まさか、妃殿下があそこまで、されるとは思いませんでした。さすがに、陛下に遠慮すると思ったんです…!まさか、幼い王子に……!」

 バムスが感情をむき出しにして怒ることは珍しい。バムスは両肩を震わせ、後ろを向いた。指で目頭を拭う。それも、アジアスだから心を許してくれたのだろう。共にあの難局を乗り切った仲であるから。

「分かった。悪かった、私が悪かった、バムス。最近、お前は感情をどこかに置いてきたのかと思うようになってな。心配になったのだ。お前の言うとおり、王太子殿下が助けを求めてきた場合、すぐに手伝う。」

 アジアスはそう言って自分より十歳以上年下の、今は王の重鎮の肩を叩いた。

「バムス。お前はあの事件から、変わってしまった。それを見るにつけ、もっと私は何かできなかったのかと、後悔がつきない。何もできなくてすまなかった。」

 涙を拭ったバムスは、顔を上げてまっすぐアジアスを見つめた。

「ナルグダ殿。あの時、屈辱に耐えるという最善の一手を選ばれました。屈辱に耐えたから、私はこうして帰国できました。もし、ナルグダ殿が別の手段を執られたら、きっと私は帰国できなかったでしょう。身も心もボロボロで、今頃自害して果てていたはずです。

 おそらく、陛下は私達が窮地(きゅうち)に陥っても、最善の一手を打てると信じて、託されたのでしょう。」

 バムスの最後の一言に、アジアスはぎょっとした。

「お前、まさか…。」

「ナルグダ殿、まさか、あなたが気づいていないということはないでしょう?」

「ああ…いや、それは……。」

 思わずアジアスは言葉を濁した。

「お分かりでしょう、陛下はこの結果を望んでおられた。あの事件で、得をした国は一国しかない。このサリカタ王国です。」

「……。」

 アジアスには否定も肯定もできなかった。この一件で、王に何か言って意見できるのは、バムス一人しかいないのだ。

「ご存じでしたか?あの和平交渉が行われる直前、陛下の密使がウェルテニス帝国に行っていたのです。そういえば、このウェルテニス帝国も漁夫の利を得ましたね。実に折良く、ロロゼ王国に攻め入ったものだと思っていました。」

「お前はやはり、あの事件で陛下に怒っているのだな。」

 すると、バムスは首を振った。

「私のことはどうでもいい。ただ、幼いグイニス王子が気の毒です。妃殿下のことを分かっていませんでした。私の失策です。」

「なるほど、分かった。」

 アジアスは頷いた。

 そして、バムスが言ったとおりになったのだ。

 だから、今回、セルゲス公になったグイニス王子のために、親衛隊の隊長が信頼できるかどうか、自ら確かめに行った。そして、信頼できる者だったらしいことは分かった。

 帰ってきてからは、ヴァドサ家と親交を深めている様子だった。しょっちゅう出入りがある。

 ヴァドサ家と繋がりがあるなら、大丈夫だろうかと思った矢先だった。きっと、先日、ヴァドサ家の軍人が急死したことと関係あるのだろう。調べたら、セルゲス公の親衛隊の隊長の従弟だった。

 一体、何が起こっているのか、アジアスはまだ把握していなかった。だが、きっとバムスは把握していたのだ。だから、殺された。

 いや、とアジアスは首を振った。本当に殺されたのか。まだ、遺体は出ていないではないか。“生死不明”が正しいのに、殺されたと思ってしまっている。

 アジアスは立ち上がった。こうしてはいられない。まだ、夜が明けてすらいないが、焼けたというレルスリ家に向かおう。そして、困惑しているだろう、使用人達の世話などをしてやろう。そして、彼らから直接話を聞かなくては。

 焦る気持ちを抑え、アジアスは急いで外出の支度を始めたのだった。

 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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