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事件の裏で、狐と狸が化かしあう。 5

 ボルピス王視点、後編ですね。誰にも理解されない。王様は大変でございます。何かと戦っているのは明白です。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

「何か、新たな情報が入り次第、お伝え致します。」

 三人は寝室の中に入った。そして、同時に緊張してある物を見つめた。

 暖炉の前に書架が立っており、絵のようなものがあって、黒い布がかけられているようだ。火の明かりで色は見分けがつきにくいが、おそらく黒い布だろう。

「あれは、何だ?」

「分かりません。さっきまでなかったのに。」

 ナルダンもテルバも(おどろ)いて緊張している。何者かが知らぬ間に、王の寝室まで侵入したということだからだ。

 ボルピスは黙って暖炉前の書架に近づくと、布を取った。

「!」

 思わず三人はその絵を凝視(ぎょうし)してしまった。そして、次の瞬間(しゅんかん)、気まずい思いをすると同時に苦々しい気分になる。

 あられもない格好をさせられた若い頃のバムスの絵だった。しかも、ボルピスの兄ウムグとボルピス自身が口にすることも禁じた事件の時の絵、おそらくロロゼ王国で描かれた絵だ。

 たとえ女性が描かれたのだとしても、下品で下劣だと評されただろう。それくらい、あまりにも美しいが官能的な絵だった。

「誰がこんな物を!!」

 ボルピスは久しぶりに激しい怒りが、腹の底から沸き出てきた。

 絵を取り上げると額縁ごと床に叩きつける。二、三度叩くと額縁が壊れて裏板が取れた。裏板を乱暴に取り去ると、絵の裏に何か書かれていることに気がついた。赤い字で何か書いてある。

『お前が言うことを聞かぬから、お前の右腕を折った。右腕を折られた痛みをとくと味わえ。』

 ボルピスは怒りに震えた。そして、暖炉に絵を投げ入れた。裏板も額縁もみんな暖炉にくべる。油や絵の具が焼ける臭いがして、煙がたった。

 ボルピスは力なく、寝台に腰掛けた。膝の上に肘をつき、両手で顔を覆う。

「しばらく一人にしてくれ。」

「はい。ただ、警備は厳重にします。」

「分かった。」

 ナルダンとテルバは下がった。

 ボルピスは先日、ヴァドサ家に向かった時のことを思い出した。馬車の中でのことだ。

「バムス。私を恨んでいるか?」

 唐突なボルピスの問いに、バムスは慎重に聞き返してきた。

「陛下…。一体、どのようなことで、私が陛下を恨むと?」

「分かっておるだろう。封印したあの一件だ。」

 バムスは少しの間、視線を床に落としたが、すぐに戻していつものように笑顔を浮かべた。

「いいえ、陛下。陛下を恨んでいません。それに、陛下を恨むなどお門違いです。」

「……バムス。私の前では本心を言っていい。私はお前の本心を聞いても、罰したりはしない。それに、賢いお前なら全て分かっているはずだ。全て、分かっているだろう。」

「陛下。本当に陛下を恨んでいません。それに、私はあの当時、若かった。陛下の(きび)しい処置がなければ、私は耐えられなかったでしょう。今の私があるのは陛下のおかげです。それなのに、恨むことなどできません。」

 ボルピスには分かっていた。あの二十年前の事件の後、あの後からバムスは変わった。あの頃のバムスは、まっすぐで正義に反することはしなかった。純粋に国に尽くすことを考えていた。

 だが、あの事件の後から、バムスは利益で物事を考えるようになった。何より、権力者、権力の頂点にいる王を信用しなくなった。彼は常に笑顔を浮かべ、ほとんど本心を見せなくなり、時々、微笑みとその目の奥にある冷たさの落差に(おどろ)くことがあるほどだ。

 あの事件以来、バムスは時に無情なこともできるようになった。何より、女性との遍歴を重ねた。正妻のシャノンの他に、第二夫人、第三夫人が(またた)く間にできた。そして、他に愛人が幾人もできた。彼が本気で異性関係にのぞめば、そうなるのは目に見えている。

 多くの男性から恨みを買っているが、気にしていないようだ。それよりも、女性が自らバムスの方に寄っていく。

 分かっている。バムスを変えてしまったのは、ボルピスのせいだ。

「……まさか、あのようになるとは思わなかった。バムス。すまなかった。」

 すると、バムスが意外そうにボルピスを見つめた。

「陛下。どうか、謝らないで下さい。陛下に謝られると、私の方がどうしたらいいのか、分からなくなります。」

 本当に困惑した表情を浮かべたので、久しぶりに彼の素顔を見た気がした。いつも完璧なまでの微笑みの仮面をつけているから。

「分かった。もう、言わぬ。」

「…はい。」

 バムスはほっとしたように微笑んだ。ボルピスには分かっていた。久しぶりの、彼の本当の笑みだ。彼が素顔の笑みを浮かべることは、本当に珍しい。

 そういえば、シークには本当の笑顔を見せていたようだった。バムスにしては珍しく、からかったりしていた。それだけ、シークが信用できる人間であるということでもあった。

(……バムス。必ず生きていてくれ。本当は生きているのだろう?)

 ボルピスには、なぜか死んだとは思えなかった。気がつけば、頬に涙が一筋流れていた。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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