事件の裏で、狐と狸が化かしあう。 4
今度は王宮に場面が移ります。ボルピス王の視点です。王様は息子にひどく嫌われ(ほとんど憎まれている。)そして、甥には恐れられていますが、本当は何を知っているのでしょうか。敵からメッセージが送られて来ました。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
ボルピスは仕事で遅くなり、ようやく入浴して上がった所だった。この日は面倒なので髪は洗わなかった。王という仕事柄、誰かと会わない日はないが、次の日は公式の面会などは入っていない。
明日は呼び出したバムスと話をする予定だ。ヴァドサ家で起きた事件について、詳細に話を聞こうと思っていた。シークの従弟のセグが急死し、何か裏があるに決まっているからだ。
「陛下、大変です。」
ナルダンの右腕の侍従テルバが慌てて入ってきた。
「何事だ?」
ナルダンの右腕をしているだけあって、テルバは普段から“慌てて”何か言うことは、めったにない。急用に違いなかった。
「市街地で火事があり、それが、レルスリ家だという知らせが入ってきました。」
確かに急用だ。嫌な予感がした。
「何?バムスは無事なのか?」
この時期に火事とは、実に見計らったようである。
「…それが、詳しいことは分かっていませんが、屋敷は焼け落ち、死者も出ているとか。」
さすがのボルピスも、不安を隠しきれなかった。
「火は鎮火したのか?バムスはどうなった?」
「火はまだ消えていないそうです。レルスリ殿については何とも。」
まだ情報が入っていないということだ。ボルピスは、バムスには四人もニピ族が護衛についている、だから、そう簡単に殺されるまい、と自分に言い聞かせた。
「陛下。レルスリ殿には、四人も護衛にニピ族がついております。」
ナルダンがボルピスの内心を見透かしたように、横から言った。
「…いいや。三人だ。先日、一人減っておったわ。グイニスの所に置いてきたと。まったく。護衛させながら、グイニスの様子もしっかり把握しようということだな。」
バムスはそういう所が油断ならない。というか、しっかりしていると評するべきか。
「それに、バムスの所には、ピド族もいた。子どものような者だったが、大好きな旦那様が窮地に陥るとあれば、懸命に励むだろう。他にも、くせ者ばかりがあの屋敷にはいる。」
ボルピスは自分に言い聞かせる。きっと、大丈夫だと。だが、ボルピスの目の前で別の侍従が走ってきて、テルバに何か耳打ちした。結構長い時間が過ぎる。思わずテルバが相手を凝視して、小声で確認を重ねた。
「陛下、逃げ出した使用人の話によりますと、大変なことになりました。レルスリ殿の存命は見込みが少ないかもしれません。」
「どういうことだ?」
知らず表情が険しくなり、声も厳しくなる。
「陛下。まず、サミアスは重傷だそうです。ずっと燃えさかる屋敷の方に、レルスリ殿を助けに行こうとしていたので、駆けつけたカートン家の医師達の手によって、気絶させられて運ばれたそうです。」
「!…サミアスが…重傷なのか?」
サミアスが重傷で…主人の側にいつもいるサミアスが、燃えさかる屋敷の方に助けに行こうとしていた。それは主人であるバムスが、まだ中にいたことを示している。その上、サミアスは何者かによって、重傷を負わされたことになる。
「ガーディとヌイの行方は分かっていません。いつもなら、たとえ用事で外に出ていたとしても帰っているはずですが、現れていないそうです。
それと、もう一軒、レルスリ家の側で火事があり、そこはレルスリ殿が雇ったピド族の親子が住んでいる家だそうです。」
「……何?」
先日の親子だろう。いかにも裏がありそうだ。
「そして、レルスリ殿が新たに雇った使用人の男と、ピド族の男がレルスリ殿を寝室に連れ込み手込めにした上、火を放ったようです。」
ボルピスは考え込んだ。先日のピド族がそんなことをするようには、思えなかった。
「その男には仲間がいたようで、使用人達は盗賊のような者が侵入してきたので、その場にいた者達で応戦した後、主人であるレルスリ殿を助けに向かったようですが、間に合わなかったと。男はレルスリ殿から何か聞きだそうとしていましたが、できなかったようです。
使用人達は壁や扉を壊そうとしたそうですが、火を放たれて間に合わず、妻子持ちから先に逃げるようにして、先に逃げた者達は助かりましたが、後に残った者には助からなかった人もいるようです。」
さすがのボルピスも、呆然としてすぐには言葉が出て来ない。
「…それと、サグを見た者がいるようです。サグが帰ってきて、燃えさかる屋敷の中に飛び込み、戻ってこなかったと。」
それはつまり、主人と共に死んだ可能性を示していた。なぜ、サグが帰ってきたのかはさておき、主人を助けようとしたのだ。ボルピスは怒りと共に悲しみもこみ上げてきた。
ボルピスは壁を拳で殴りつけた。
「!陛下、手を痛めます。」
慌ててナルダンが止めようとする。
「……一体、誰が…誰がバムスに手を出した!だから……言ったではないか、気をつけろと…!私の忠告を聞かないからだ!」
バムスに対しても腹が立っていた。これからという時に、使用人に裏切られて殺されるとは…!しかも、恩人であるはずのバムスに対して、よからぬ思いを抱いて襲ったのだ。
ボルピスの一時の激情が去ったのを見計らい、ナルダンが提案した。
「陛下、とりあえずお休みになられた方がよろしいかと。」
「とてもじゃないが、眠る気にもならん…!」
「陛下、ごもっともですが、とりあえず体を横にするだけでも。そうでないと風邪を引いてしまわれます。眠れなくとも横になって、体を温めなくては、湯冷めしてしまいますので。」
「……分かった。」
確かに一理ある。ボルピス達は寝室の手前にいた。寝室と書斎に行くまでの間にある、控えの間、と呼ばれている部屋だ。そこで着替えたりすることもあるし、何かと便利な部屋である。そこで立ち話をしていたが、さらに進んで寝室まで行くことにした。大して変わらない距離である。
星河語
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