事件の裏で、狐と狸が化かしあう。 3
レルスリ家で起きた事件の真相。訳アリの使用人たちは旦那様を助けることができるのでしょうか。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「そういう態度なら、仕方ない。お前にとって悪夢の再現となる。いいんだな?」
男は腰につけている物入れから、小瓶を取り出した。ニピ族も帯やなんかに物入れをつけている。やはり、セグの言うとおりニピ族なのかもしれない。
「答えろ…!それで、いいんだな?」
バムスはその小瓶を見つめた。どんな薬が入っているかは想像がつく。頭やなんかがおかしくなる薬だ。
「お前は子どもの頃から、この顔のせいでさんざん嫌な思いをしてきたはずだ。ニピ族の護衛達が一体どれほど、お前につこうとする虫を払い落としてきたか数が知れない。
しかも、二十年ほど前は隣国の王がお前に食いついた。いいのか、嫌な思い出だろう。答えれば嫌な思いはしなくて済む。」
確かに嫌な思い出だ。でも、いつまでも過去に縛られていては、前に進めない。今日を新たに進むための新たな門出としよう。バムスは自分に言い聞かせた。震えそうになるのを必死に堪える。
「どんなに脅されても、知らないものは知らない。」
「おい。本当に知らないんじゃないのか?体が微かに震えている。」
バムスを押さえつけているピド族の男が口を挟んだ。
「分かった。薬を飲ませる。そうすれば、賢いお前の頭も朦朧として本当のことを答えるだろう。そのまま、手足を押さえてろ。」
男はピド族の男に命じると、バムスの口に小瓶を近づけた。バムスは必死に抵抗した。何とか体を揺らし、意地でも顔を横に向けて飲めないようにしようとする。男の指をかじった。
「く!」
男はバムスの上に馬乗りになり、さっき殴った腹をもう一回叩いてきた。思わず痛みに喘ぐと、そこを抑えられて無理矢理、薬を嚥下させられる。何度かむせたが、全て飲まされた。
バムスはぼんやりと天井を見上げた。頬被りをしたピド族の男の顔が見える。薬の効きが早い。頭がなんとなくぼーっとしてきた。絶対絶命の状態なのに、なぜか急に不安と緊張が解けていく。
「薬が回ってきたな。」
バムスの顔を観察していた男が呟いた。
「おい、ヴァドサ・セグの残した冊子はどこにある?目線でも何でもいい、どこにあるか示してみろ。」
もう隠さなくてもいいような気分になってきたが、必死になって理性を引き戻した。つまり、うっかり隠し場所を見てしまったらそこでおしまいだ。まだ、残っている理性で考える。そこで、バムスは目を閉じた。このまま、眠ってしまおう。そうすれば、苦しみを感じなくて済む。
「おい、眠るな…!薬の量が多かったか。仕方ない、やっていい。ただし、そっと優しくな。たとえ、冊子のありかを聞き出せなくても、まだ使い道はある。こいつが持っている情報網と情報源を、聞き出さないといけない。死なれたら困る。」
しばらくして、かすかに悲鳴が聞こえ始め、扉の外で耳をくっつけて様子を伺っていたイールクは青ざめた。
「くそ、旦那様に何をしている!貴様ら、絶対に許さないからな!」
イールクは剣の柄で扉をガンガン叩いた。頑丈な扉がそれしきでびくともしないのは、先日のミローの一件で分かっている。樫の木でできているらしいのだが、それにしても頑丈だ。
「おい、どうなっている?」
その時、エイドを探しに行ったビオパと応援に走ってきた、仕事仲間達が走ってきた。
「みんな、無事だったか?途中で抜けたから少し心配だった。」
「心配いらん。もう一人、元剣奴のリーゲルがいたし、元海賊のニオベムもいた。怪我をしたものはいるが、死んだ奴はいないぞ。休憩所においての話だが。」
ジョーの話にイールクは、少し安堵して頷いた。そっちは安心でも、こっちがダメだ。
「エイドはいたか?」
「いいや、いない。どうやら、ミロー達の所に行ったらしい。嫌な予感しかしないだろ。」
ビオパの言葉にイールクは唸った。元盗賊集団の頭をしていたエイドなら、鍵を外から開けられるかと思ったのだ。
「じゃあ、サミアスの合鍵は?」
サミアスが投げ飛ばされたことは、分かっていた。既に助けに行っている。
「飛ばされている途中で、どっかに行ったらしい。サミアスはかなりの重傷だ。なぜ意識があるのか分からない。ニピ族の意地だろうな。」
「はしごは?外から上る。」
「はしごは壊されてた。」
「くそ…!」
思わずイールクは毒づいて、床を蹴った。
「イールク、疑問なんだが、さっきから微かに聞こえる、この妙な声はなんだ?」
一番の古株のジョーが尋ねた。みんな聞きづらかったのだ。なんとなく分かっていた。
「…旦那様が、ピド族に手込めにされてる……!くそ!目の前で連れて行かれた。」
みんな一斉に青ざめた。
「ピド族って、ミローか!?」
「違う、旦那様が違うと断言してた。何かトーハと名乗っていた男が、旦那様から何か聞きだそうとしていたが、旦那様は知らないと言い続けてた。それで、拷問に襲わせてる。」
「下品だ。」
リーゲルが吐き捨てた。
「つまり、非常に早くお助けしないと、旦那様がもたないことだけは分かり切ってる。」
ビオパは言って、持ってきていた大工道具を床に置いた。みんなそれぞれ、大工道具を持ってきている。
「とにかく、壁でもどこでも破壊しようと思ってな。旦那様を人質に取るだろうことは、下にいても想像がついたからな。いらないことを願ったが、そうは問屋が卸さなかったか。」
ジョーが説明した。みんなはそれぞれ、大工道具を手に取った。イールクはその一つに目がとまった。
「なんだ、この丸いのこぎりは?」
「これは円形状に穴を開けるためののこぎりだ。こうやって回すと、刃の部分が回転して、切れていく。」
「!これだ!鍵とかんぬきの辺りの場所に穴を開ければ、手を突っ込める。」
「よし、やるぞ!」
こうして、使用人達は旦那様であるバムスを助けるために行動した。
その二時辰後。(この当時のサリカタ王国の時間で、一時辰二時間ほどにあたる。だから二時辰は四時間。)
レルスリ家の屋敷は炎に包まれ、焼け落ちた。
星河語
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