レルスリ家の使用人 8
ミローはギークのことは強いと認めたので従うことにしたものの、セグとナークは弱いと馬鹿にした結果……。デジャブのようなことが起きます。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「教育が行き届いたみたいだな。」
ギークとミローを眺めていたセグが呟いた。
「ああ、確かに。完全にギーク兄さんの部下みたいになった。」
しばらく大きな声が響いていて、ミローが立ったり座ったり繰り返す地響きがしていたが、ようやく治まりつつあった。
「…まあ、いいだろう。来い。ちゃんと旦那様とお前の母ちゃんに謝れ。分かったな?」
ミローは厳しく言われて、ギークの言うことを聞いて、後について歩く。
「気をつけ…!礼…!」
完全に軍隊式だ。ギークが仁王立ちになってミローを監視している。
「………お…お…おいら……ご……ごめんなさいだ。」
「やり直し!」
すかさずギークのダメ出しが入る。
「そんな謝り方があるか!」
「ギーク兄さん、手加減してやってって、何度も言っただろ。五歳児なんだから、頭の方は。」
ナークが言ってもギークは知らん顔をしている。つまり、きちんと謝るまで許すつもりがない。ナークとセグは顔を見合わせてため息をついた。
「仕方ないな、手伝ってやるか。」
「ほら、それじゃ、いつまでたっても許しが出ないよ。正座して謝るんだ。」
「ほら、膝を曲げて座って。」
セグとナークが言ってやってみせるが、ミローは突っ立ったままだった。
「名前ミローだよな、お前、聞こえてる?」
ナークが確認すると、ミローは頷いた。
「なんで、しないわけ?膝でも怪我して痛いのか?」
「ち……違うだ。いたくねぇだ。」
「じゃ、なんで?」
ミローはうつむいていたが、ふん、と笑った。なんだか、五歳児より悪そうだ。
「お前ら…おいらより、下だ。」
ナークとセグは顔を見合わせた。
「下って…念のため聞くけど、どういう意味で言った?」
「おいらの方がつよいだ。おいらの方が上だよ。おまえら下だ。おいらの方がつよいだ。」
ナークとセグは同時に左右からミローの腕を掴み、膝の裏に蹴りを入れてミローに膝をつかせた。
「んなわけあるか、この馬鹿野郎が!」
「ちっとも反省してないな!」
ドッシーン、と音がしてミローが膝をついた。
「結局、お前らも同じじゃないか。」
ギークがぼやく。
「い…いてぇーよ…!」
「何がいてーだ、お前みたいなのは強いとは言わない!」
「強いというのは、お前の母ちゃんみたいな人を言う!」
てっきり、ギークだけができるのだと思いきや、ナークとセグの動きを見て、使用人達も含めニピ族の二人も驚いた。バムスもびっくりしてセグとナークを見つめた。頭脳派の二人だが、文武両道のようだと改めて思ったのである。
「強い奴の前でだけペコペコする奴は、強いとは言わない、分かったか!」
「だったら、おいらもあたま、さげねぇ。」
「この馬鹿たれ!お前は頭下げるんだよ!お前は恩のある旦那様を殴ろうとした!お前を助けて下さったんだろうが!」
「その上、育ててくれた母ちゃんに何やってんだ、お前は!母ちゃんも殴ろうとしたんだろうが!」
格下だと見下しているミローに腹を立てた、ナークとセグに頭を押さえつけられ、それでもミローは抵抗した。
「…や…やだ!」
「なんだと!」
「なんで、嫌なんだ!?」
「お…お前らには…投げられてねぇだ。」
「私達に投げられてようが、投げられまいが、お前が旦那様と母ちゃんにしたことは別だ。謝れ。」
「…い…いやだ!おいら…だんなさまが好きだよ。だから、おいらの言うこときかすだ…!」
一瞬、みんなの思考が停止した。
「…母ちゃんは……年とったら、おやは子どもの言うこときくだよ。里ではそうしてただよ…!」
「!!み…ミロー、お前!覚えていたのか!?」
エッタが青ざめて叫んだ。
「おいら、ばあちゃんが好きだっただ。でも、父ちゃんが好きなものは、力で言うこときかすって言っただ。じぶんの力で言うことをきかすのがピドぞくの男だって言っただ。好きなものは、自分の力でおさえこめって言っただ。
父ちゃん、ばあちゃんをなぐっただ。おやでも年とったら、言うことをきかせるって言っただ。ばあちゃんがしんだあと、父ちゃん、母ちゃんとおいら、すてただ。つよいものしかいらねぇって言っただ。おいら、つよくなって父ちゃんのところに行くだ。父ちゃんをなぐるだ。」
エッタは青ざめてブルブル震えた。どうやら、ピド族の村では女性は虐げられているらしい。その上、強さが一番だという教えがされているようだ。
「だから、何だ、その言い訳は!」
「お前の村の掟なんか、どうだっていいんだよ!」
ナークとセグに同時に怒鳴られ、ミローは唸った。
「おまえら、おいらにかってない。」
ミローが言うことを聞かなさそうだと分かり、二人は一旦、頭を押さえつける手を緩めた。
「じゃ、一度、立て。一人ずつ、投げ飛ばしてやる。」
「立てって言ってるだろうが!!」
大人しそうでも、怒れば迫力がある。もしかしたら、国王軍式なのではなくヴァドサ家式なのかもしれない、とふと思ったバムスだった。
さっきのギークの教育が良かったので、ミローは素早く立ち上がった。途端、セグが足技をかけてミローを投げ飛ばした。ドッシーーンと派手な音を立てながら、後ろに倒れた。
「おかしいだ、何でたおれるだー?」
投げられた感覚が無いらしい。ミローは今度は言われなくても立ち上がった。だが、今度も立ち上がった途端、ナークが腕を掴んで素早く倒したため、何をされたのか分からないまま、横倒しになって壁に激突しながら、床にうつぶせになった。
「なるほど、これはヴァドサ流の特徴ですね。」
「…この柔術技が、ピド族相手にこんなに通用するとは。」
バムスが呟くと、サミアスも隣で頷いた。
「いいか、ミロー。」
二人は倒れているミローの側に立つと、わざと剣を抜いてみせた。
「名乗るのが遅れたが、私達はヴァドサ家の者だ、三人とも。ヴァドサ家というのは、古くからある剣術流派の一派だ。」
「これが何か分かるか?」
ミローはもぞもぞと起き上がって座ると、二人を恐る恐る眺めた。剣も見つめる。
「…け…剣だよ。」
「そうだな、剣だ。もし、これが実戦だったら、お前は何回も死んでた。ヴァドサ流には、ピド族の殺し方が何通りもある。」
「さっきのうつぶせ。完全に終わりの体勢だった。ピド族は体が大きい分、素早く動けない。だから、まずは倒すことに専念する。倒したもん勝ち。」
「倒れたら、後は切り刻むだけだからな。まあ、突き刺す技の方が多いけど。」
二人に代わる代わる説明されて、ミローはさっきの自信はどこへやら、レルスリ家に来た最初の頃のように小さくなった。
「自信と傲慢は表裏一体なんだよな。」
ギークがぼやいた。
「おいら…よわいのか?」
「そうだな、弱い。」
三人に同時に言われて、ミローはしゅーんと萎むように縮こまった。
「おいら……つよくなったら、何でもできると思っただ。だから、つよくなりたかっただよ。」
「強いということをお前は勘違いしているんだ。何でも力でごり押しすればいいってものじゃない。」
「分かったら、旦那様と母ちゃんに謝れ。」
「……おいら、謝り方、しらねえだよ。」
「初めから素直に言えよ。」
こうして、ようやくミローはヴァドサ家の三人に習って謝ったのだった。
ギーク、ナーク、セグの三人は壁なんかも引っ込ませてしまったので、バムスに屋敷を破壊してしまった謝罪をした。だがバムスは軽やかに笑う。
「いいえ、こちらこそありがとうございます。ミローの目を覚まさせてくれました。さすが、国王軍です。軍式だったのではありませんか?」
「ええ、まあ…。」
言葉を濁して、三人は笑った。
「ところで、皆さんにお願いがあるのですが。」
バムスに言われて、ヴァドサ家の三人の若者は顔を見合わせた。
「ミローを教育してやってくれませんか?強くなりたいと言っていますが、適切な先生が見当たりませんでした。今日、適切な先生達が見つかりました。」
三人はびっくりしたものの、シークの命の恩人である。仕事の後でいいなら、と引き受けた。主にギークが行い、時間のある時にセグとナークも一緒にすることになった。
その後、遅くはなったが、一応の目的を果たして三人は帰ったのだった。
使用人達は、ヴァドサ家の子息達の様子を見て、ミローを投げ飛ばしたことを噂しあった。
そして、後で彼らと知り合いになっていて良かったと、つくづく思うのだった。しかし、今はまだ分からない。少し先の未来の話である。
星河語
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