表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

376/582

レルスリ家の使用人 6

 レルスリ家の話。

 暴れていたミローは、ギークに投げ飛ばされました。ギークとナークの漫才のような会話も続きます。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

「ギーク兄さん。ここ、レルスリ家だから。分かってる?」

 廊下に出ようとするギークにナークが声をかける。

「……ああ。」

「本当かなあ。手加減してやってよ。頭の方は四歳児なんだから。」

「五歳児だろ。」

「一歳しか違わないだろ。とにかく、ここはレルスリ家だから。分かってるよな?ここ、軍じゃなくて、レルスリ家だから。手加減してよ、頼むから。」

「ああ、分かってる。手加減してやるよ、手が滑らなかったらな!」

 最後に物騒な言葉を残し、ギークは小走りでミローに近寄る。

「おいらはつよ……。」

「何が、おいらは強いだ、この馬鹿があ!!」

「!」

 ビオパ、イールク、エイドは久しぶりに命の危険を感じながら、大急ぎで壁に掛かっている絵、花が生けられている高価な花瓶、と高価な花台を大急ぎで回収し、そこから脱出した。

 間一髪だった。

 ミローの巨体が浮いたかと思うと、ガッシャン、と派手に天井に下がっている燭台にぶつかりながら、廊下を飛んだ。

 ドッッシーン!!という音と共に建物全体が揺れた気がした。

 ミローの大暴れに様子を見に来ていた使用人達が全員、呆然とした。まさか、ミローの巨体が浮いて飛ぶとは思わなかったのだ。

 バラバラ…と音を立てながら、天井の燭台(しょくだい)が壊れて落ちてくる。ナークが頭を抱えた。

「ああ、もう!だから、手加減しろって言っただろ!」

「しただろ!だから、こいつは気絶してない!」

「じゃあ、これ、どうする?」

「……ああ、壊れたな。」

「壊れたな、じゃない!」

 ナークがギークの(すね)に蹴りを入れた。

「いって!兄に向かって何をするんだ…!」

「どうせ、半年違いだろうが。」

「七ヶ月だ。」

「一ヶ月しか違わない。」

 その時、ミローがむっくりと廊下に起き上がり、大声で泣き始めた。完全に子供だ。

「えぇぇーん、いてーよう!!いてーよう…!」

 ギークがじろっとミローを(にら)む。

「手加減…!四歳児なんだから。」

「五歳児だろ。」

「一歳しか違わない。」

「何、同じ会話繰り返してんの?」

 セグが二人に突っ込んだ。今まで不仲だっとは到底思えないほど、三人は気が合っていて仲が良かった。

「とにかく手加減。ここ、軍じゃないし、うちでもないから。」

「……分かった。」

 ギークは不服そうに言ってから、ミローに向き直った。

「えぇぇーん、えぇぇーん、いてーよう、いてーよう!」

「黙れ!!いつまでも、ピーピーギャーギャー泣いてんじゃねえぞ!」

 目の前に鬼のような形相の、怖ーいお兄さんが仁王立ちになって立っている。

「…ひぃっ!」

 ミローは引きつけたような声を上げると、必死に涙を呑んで堪えた。

「何が痛いだ、この馬鹿が!お前は、母親を殴ったんだぞ!」

「………ははおやって?」

 母親の意味を知らないことに、ギークはしばし言葉を失ったが、母ちゃんと言っていたことを思い出した。

「母親は、お前の母ちゃんのことだ。お前は、母ちゃんを殴ったんだ、分かってるのか!母ちゃんを殴っておいて、何がおいらは強いだ、このあんぽんたんが…!」

 さすがに記憶があるらしく、ミローは決まり悪げにうつむいた。

「お前の母ちゃんの方が、よっぽど痛いんだよ!体も痛いし、心も痛い!分かるか!お前のことで、悲しいんだよ!分かるか!?」

 ミローはうむついたまま、ちらっとギークを上目遣いで見たりした。

「……おいらのことで、母ちゃんはかなしい?」

「そうだ…!これを見ろ!壊れてんだろうが!扉も壊れたぞ!」

 ギークは廊下のバラバラになった燭台を指さした。

「燭台はギーク兄さんのせいだよ。」

 セグが冷静に突っ込む。

「とにかく、お前が原因で壊れた。お前、母ちゃんを殴って、母ちゃんも壊す所だったんだぞ、分かってんのか!」

 ミローは母ちゃんを壊すというくだりにはっとした様子で、ギークをじっと見上げた。座っているので、ギークの方が高くなる。

「……母ちゃんをこわす?」

「そうだ、お前が力一杯殴ったら、母ちゃんは壊れる…!こんな風になったら、どうするつもりだ!物は直せるかもしれない。でも、母ちゃんは壊れたら、治らないんだぞ!死ぬんだぞ…!死ぬって分かるか?」

 死ぬんだぞと言ったものの、“死”の意味を理解していないかもしれないと気づいたギークは、ミローに確認した。その辺は、幼い子供達が大勢いるおかげで、とっさに判断できたのだ。

「…………まえにミンミが死んだだ。動かなくなっただ。それで、おはか、作っただ。かなしかっただ。」

 ミローの両目に涙が浮かんで、うるうる潤んだ。

「分かったら、来い。お前、親切な旦那様も殴ろうとしたんだぞ…!旦那様も壊れる所だった…!だから、旦那様と母ちゃんに謝れ、分かったな!?」

「……う。」

 だが、ミローはもじもじして、動こうとしない。

「……お…おいら…。できねぇだ。」

「ああ!?何ができないって?」

 物凄い迫力で(にら)まれ、ミローはすくんで固まった。

「来い。」

 ギークはミローの首根っこをつかまえると、引きずって歩き出した。使用人達はぎょっとした。

 あれを引きずるのか!?今まで誰一人として、引きずってみようと考えたことはなかった。

「……う…うぅ…げほっ。ぐほっ。」

 ミローの服が脱げて首に溜まり、喉がしまっている。

「ギーク兄さん、首しまってるよ。」

 セグが言うとようやくギークは振り返った。

「…ぐ…ぐるしいだ…。げほっ。げほっ。」

「お前が立って歩かないからだ。苦しかったら、立って歩け。」

 腕組みしてギンと睨みつけられて、ミローは縮み上がった。

「立て。」

 国王軍式に短く厳しく命じられる。

「聞こえなかったのか?立て。」

 隊長も教官ほどではないが、新たに隊に入ってきた者を訓練する。前からいる者達との連携が上手くいくように、徹底的に訓練する。今、訓練仕様にギークの頭が切り替わってしまったのは、誰の目にもあきらかだった。

「…あぁ、手加減ってあれだけ言ったのになぁ。」

 ナークがぼやいた。

「しょうがないか…。ギーク兄さんが黙っていられるわけないし。現役の教官のイーグがいなかっただけ、ましだと思うことにしよう。」

「そうだな。元教官のシーク兄さんがいても、同じ結果になったと思う。教官時代は鬼教官だったし。これを黙っていられるわけがない。」

 セグとナークは頷き合った。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ