レルスリ家の使用人 6
レルスリ家の話。
暴れていたミローは、ギークに投げ飛ばされました。ギークとナークの漫才のような会話も続きます。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「ギーク兄さん。ここ、レルスリ家だから。分かってる?」
廊下に出ようとするギークにナークが声をかける。
「……ああ。」
「本当かなあ。手加減してやってよ。頭の方は四歳児なんだから。」
「五歳児だろ。」
「一歳しか違わないだろ。とにかく、ここはレルスリ家だから。分かってるよな?ここ、軍じゃなくて、レルスリ家だから。手加減してよ、頼むから。」
「ああ、分かってる。手加減してやるよ、手が滑らなかったらな!」
最後に物騒な言葉を残し、ギークは小走りでミローに近寄る。
「おいらはつよ……。」
「何が、おいらは強いだ、この馬鹿があ!!」
「!」
ビオパ、イールク、エイドは久しぶりに命の危険を感じながら、大急ぎで壁に掛かっている絵、花が生けられている高価な花瓶、と高価な花台を大急ぎで回収し、そこから脱出した。
間一髪だった。
ミローの巨体が浮いたかと思うと、ガッシャン、と派手に天井に下がっている燭台にぶつかりながら、廊下を飛んだ。
ドッッシーン!!という音と共に建物全体が揺れた気がした。
ミローの大暴れに様子を見に来ていた使用人達が全員、呆然とした。まさか、ミローの巨体が浮いて飛ぶとは思わなかったのだ。
バラバラ…と音を立てながら、天井の燭台が壊れて落ちてくる。ナークが頭を抱えた。
「ああ、もう!だから、手加減しろって言っただろ!」
「しただろ!だから、こいつは気絶してない!」
「じゃあ、これ、どうする?」
「……ああ、壊れたな。」
「壊れたな、じゃない!」
ナークがギークの臑に蹴りを入れた。
「いって!兄に向かって何をするんだ…!」
「どうせ、半年違いだろうが。」
「七ヶ月だ。」
「一ヶ月しか違わない。」
その時、ミローがむっくりと廊下に起き上がり、大声で泣き始めた。完全に子供だ。
「えぇぇーん、いてーよう!!いてーよう…!」
ギークがじろっとミローを睨む。
「手加減…!四歳児なんだから。」
「五歳児だろ。」
「一歳しか違わない。」
「何、同じ会話繰り返してんの?」
セグが二人に突っ込んだ。今まで不仲だっとは到底思えないほど、三人は気が合っていて仲が良かった。
「とにかく手加減。ここ、軍じゃないし、うちでもないから。」
「……分かった。」
ギークは不服そうに言ってから、ミローに向き直った。
「えぇぇーん、えぇぇーん、いてーよう、いてーよう!」
「黙れ!!いつまでも、ピーピーギャーギャー泣いてんじゃねえぞ!」
目の前に鬼のような形相の、怖ーいお兄さんが仁王立ちになって立っている。
「…ひぃっ!」
ミローは引きつけたような声を上げると、必死に涙を呑んで堪えた。
「何が痛いだ、この馬鹿が!お前は、母親を殴ったんだぞ!」
「………ははおやって?」
母親の意味を知らないことに、ギークはしばし言葉を失ったが、母ちゃんと言っていたことを思い出した。
「母親は、お前の母ちゃんのことだ。お前は、母ちゃんを殴ったんだ、分かってるのか!母ちゃんを殴っておいて、何がおいらは強いだ、このあんぽんたんが…!」
さすがに記憶があるらしく、ミローは決まり悪げにうつむいた。
「お前の母ちゃんの方が、よっぽど痛いんだよ!体も痛いし、心も痛い!分かるか!お前のことで、悲しいんだよ!分かるか!?」
ミローはうむついたまま、ちらっとギークを上目遣いで見たりした。
「……おいらのことで、母ちゃんはかなしい?」
「そうだ…!これを見ろ!壊れてんだろうが!扉も壊れたぞ!」
ギークは廊下のバラバラになった燭台を指さした。
「燭台はギーク兄さんのせいだよ。」
セグが冷静に突っ込む。
「とにかく、お前が原因で壊れた。お前、母ちゃんを殴って、母ちゃんも壊す所だったんだぞ、分かってんのか!」
ミローは母ちゃんを壊すというくだりにはっとした様子で、ギークをじっと見上げた。座っているので、ギークの方が高くなる。
「……母ちゃんをこわす?」
「そうだ、お前が力一杯殴ったら、母ちゃんは壊れる…!こんな風になったら、どうするつもりだ!物は直せるかもしれない。でも、母ちゃんは壊れたら、治らないんだぞ!死ぬんだぞ…!死ぬって分かるか?」
死ぬんだぞと言ったものの、“死”の意味を理解していないかもしれないと気づいたギークは、ミローに確認した。その辺は、幼い子供達が大勢いるおかげで、とっさに判断できたのだ。
「…………まえにミンミが死んだだ。動かなくなっただ。それで、おはか、作っただ。かなしかっただ。」
ミローの両目に涙が浮かんで、うるうる潤んだ。
「分かったら、来い。お前、親切な旦那様も殴ろうとしたんだぞ…!旦那様も壊れる所だった…!だから、旦那様と母ちゃんに謝れ、分かったな!?」
「……う。」
だが、ミローはもじもじして、動こうとしない。
「……お…おいら…。できねぇだ。」
「ああ!?何ができないって?」
物凄い迫力で睨まれ、ミローはすくんで固まった。
「来い。」
ギークはミローの首根っこをつかまえると、引きずって歩き出した。使用人達はぎょっとした。
あれを引きずるのか!?今まで誰一人として、引きずってみようと考えたことはなかった。
「……う…うぅ…げほっ。ぐほっ。」
ミローの服が脱げて首に溜まり、喉がしまっている。
「ギーク兄さん、首しまってるよ。」
セグが言うとようやくギークは振り返った。
「…ぐ…ぐるしいだ…。げほっ。げほっ。」
「お前が立って歩かないからだ。苦しかったら、立って歩け。」
腕組みしてギンと睨みつけられて、ミローは縮み上がった。
「立て。」
国王軍式に短く厳しく命じられる。
「聞こえなかったのか?立て。」
隊長も教官ほどではないが、新たに隊に入ってきた者を訓練する。前からいる者達との連携が上手くいくように、徹底的に訓練する。今、訓練仕様にギークの頭が切り替わってしまったのは、誰の目にもあきらかだった。
「…あぁ、手加減ってあれだけ言ったのになぁ。」
ナークがぼやいた。
「しょうがないか…。ギーク兄さんが黙っていられるわけないし。現役の教官のイーグがいなかっただけ、ましだと思うことにしよう。」
「そうだな。元教官のシーク兄さんがいても、同じ結果になったと思う。教官時代は鬼教官だったし。これを黙っていられるわけがない。」
セグとナークは頷き合った。
星河語
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