レルスリ家の使用人 5
レルスリ家の使用人の話の続きです。
ピド族のミローが暴れており、切れたギークの教育の前にバムスが静かにさせようとしたが……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「!?」
ヴァドサ家の三人はびっくりして、扉の方を振り返る。
「…あれは?」
セグが尋ねると、バムスは困ったように微笑んだ。
「ピド族の使用人です。ただ、彼は五歳ほどの知能しか無いのです。」
母親が来客中だから、やめるように言っているらしい。しかし、嫌だと駄々をこねるばかりだ。
「まるっきり、駄々をこねる幼い子供ですね。」
「ええ。いつもなら、私が字を教える時間です。今日は来客があるからできないと教えておいたのですが、最近、自我が発達してきたせいか、急に母親の言うことも聞かなくなってきたのです。」
「レルスリ殿、差し出がましいようですが、あれはただ、甘えているだけでは?」
ナークが眉根を寄せて指摘した。
「もし、そうだとしたら私が甘やかしてしまったのでしょう。あまりに不遇な人生で、前にいた所ではひどい扱いを受けていたので。父親にも捨てられて可哀想だと思ったのです。」
訳ありの使用人ばかりがいるのも解せなかったが、セグとナークはなんとなくバムス・レルスリという人が、噂よりも優しい甘ちゃんなのだと分かってきた。
だから、多くの女性にモテるのだ。きっと、本人はモテようと思ってしていることではない。全て善意によるものだろう。
外からは「やめるだ、やめるだ、ミロー!」という母親の声、他にも使用人達やガーディがやめさせようと大声を張り上げて、宥めようとしている声が聞こえてくる。だが、いっこうに大きな駄々っ子が暴れるのをやめる気配がない。
「私が言い聞かせます。」
バムスが立ち上がった。だが、それより一瞬早く、ギークが立ち上がった。
「限界だ…。」
ギークの額に青筋が浮かんでいる。
「レルスリ殿、私が出て行っていいですか?」
ギークが出て行ったら、国王軍仕込みになると分かりきっている。国王軍は最も多くのピド族がいる場所だ。当然、この三人に怖いという思いはないだろう。しかも、ヴァドサ流の剣術流派の子息達だ。丁寧な物腰で謙虚にしているが、実際には自信に満ちあふれている。
ミローは五歳くらいの幼い子と同じだ。その上、シークとは違い、ギークは激しい性格をしているようだとバムスは見抜いていた。いきなり、怖いお兄さんの教育が始まるのも可哀想だと思ったのである。
バムスの表情が曇ったのを見て、ナークが提案した。
「それでは、まず始めにレルスリ殿が言ってみて、それでもダメだったら、ギーク兄さんが出て行ったら?レルスリ殿、どうでしょうか?」
「では、そうしましょう。」
黙って控えているサミアスも含めて五人が歩いて行き、サミアスが取っ手に手をかけた瞬間、ドンッ、ガガッン…!という激しい音がして、サミアスがバムスを後ろに庇った。ギーク達三人も、咄嗟に後ろに飛びながら下がった。
後ろに下がった途端、さらに極めつけのように「母ちゃん、じゃまするなだ…!!」「やめるだ!」「やめなさい!!」などの大声の直後、ドゴン!という音「エッタさん!!」「ガーディ…!?」という悲鳴が同時にして、目の前に大きな固まりが飛び込んできた。
ドッスーン!!という派手な音がする。目の前に大きな女性のエッタとその上に鉄扇を広げて、彼女の顔に拳が的中しないように守ろうとしたニピ族のガーディが倒れた。壊れた扉は彼らの下敷きになっている。ちなみに扉の板はそれでも壊れなかった。壊れたのはちょうつがいの方だった。
「……ううう。」
エッタは|呻《うめ|》いた。だが、ガーディが直撃を避けてくれたおかげで、気絶するのは免れた。かわりにさすがのニピ族でも、ガーディの方が気絶した。エッタの上で伸びている。
「エッタさん、ガーディ!」
慌ててサミアスとバムスはエッタに駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
「……も、申し訳ありません、旦那様。ミローが言うことを聞かなくて、お客様が来られているのに…。ガーディさん、おいらに拳が直撃しないように代わりに受けてくれただ。」
呆然としていたヴァドサ家の三人だったが、急いで彼らの元に近寄った。サミアスが気絶しているガーディの首筋に指を当て、脈を確認する。
「息はあります。」
バムスがほっとした表情を浮かべる。セグはそれを見て、バムスという人は、知れば知るほどお高くとまっている貴族達とは違うと感じた。
「おいらはつよいだ!!」
「ミロー、お前、母ちゃんに何をしている!!この馬鹿が!」
「おいら、ばかじゃないだ!!おいら、ばかじゃないだ!おいらはつよいだ!」
ミローが叫んでいる。バムスは立ち上がり、ミローに近寄って戸口で見上げた。
「ミロー!ミロー、こっちを見なさい!やめなさい!ミロー!」
いつになく厳しい声で、声を張り上げる。
「!」
サミアスが走ってバムスを抱えて床に転がった。そうでなければ、殴られていたかもしれない。あんな一発を食らえば即死だ。
「…だ、旦那様!おけがは!?」
廊下の使用人達から声が上がる。
「大丈夫だ、怪我はない。」
バムスが答える。サミアスが手を取って立たせた。いつも冷静に淡々としているようにしか見えないのに、動揺しているように見え、セグは意外な一面を見たと思った。
「…旦那様、申し訳ねぇだ。極たまにミローはあんななるだ。」
エッタが泣き出した。
ギークは無言でバムスの無事を確認し、エッタの涙を見ると歩き出した。
廊下に向かうギークを見ても、バムスは何も言わなかった。もう、怖いお兄さんの教育確定である。
星河語
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