レルスリ家の使用人 4
レルスリ家にヴァドサ家の子息達がやってきた。旦那様であるバムスと書斎で話をしていたが、そこにミローがやってきて……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
ヴァドサ家から帰ってきて、数日後。また動きがあった。ヴァドサ家の子息達が三人やってきた。
使用人達は分かっていた。おそらくセルゲス公がらみのことだ。セルゲス公の護衛の親衛隊の隊長がヴァドサ家の子息である。その関係だろう。ヴァドサ家は国王軍に多くの子息が入隊している。きっと彼らもそうだろうと思われたが、制服は脱いで来ていた。
今日、彼らが来ることは使用人達にも知らせがあり、迎える用意はできていた。その上、応接間ではなくバムスの書斎に通すように言われていた。
十剣術の子息達なので、元○○の多い使用人達、特に腕に覚えのある使用人達は、一体、どんな奴らだと初めから少し殺気立っていた。
だが、意外にも三人は丁寧な言動で、横柄な態度は全く取らない。
「さすがだな。」
「まあ…。元々、ヴァドサ家はサプリュの主だしな。そもそも、旦那様と同じく貴族様でもおかしくない家柄だし。」
使用人達は陰で話し合った。彼らはバムスの書斎で何やらしばらく話し込んでいたが、暇な時だとミローが旦那様であるバムスに絵本を見ながら、字を習う時間がやってきた。
ミローは今日、来客があるからできないと言われていたのに、旦那様であるバムスに構って欲しくて、駄々をこねてエッタを振り切り、書斎までやってきた。
この間のおひげのおじさんの時もダメと言われ、今日もダメと言われているので、ミローは不満だったのだ。
この日、ビオパはガーディと一緒に部屋の前で見張りをしていた。他にイールクもエイドも近くにいた。
彼の体格には小さな絵本を持ったミローがやってきたので、イールクとエイドは慌てた。みんなで旦那様は今日は来客中だから、字は習えないと言い聞かせるが、体の大きな子供は不満げに唇を尖らせた。
「ミロー……ダメだ、お客様だって。言ったはずだ。」
はあはあ言いながら、エッタは走ってきた。エッタの顔色が悪かった。
「エッタさん、大丈夫ですか?」
ガーディが尋ねる。
「大丈夫だ。」
とエッタは言ったが、そこに座り込んだ。
「先生に診て貰った方が良さそうです。」
「今はそんな暇もねぇ。少し休めば大丈夫だ。後で診て貰うだよ。先にミローを連れて行かねぇと。」
実際にその通りだった。エッタといえば、ミローがこの間の王様の時みたいに、何か粗相しないかと不安に駆られていたのだ。それで、心配のあまり具合悪くなっていた。
「ほら、母ちゃんの具合が良くないぞ。帰るんだ、ミロー。」
みんなに言われて黙り込んでいたミローは、突然、大声を出した。
「いやだ…!いやだ!なんでダメばっかり言うだ!!おいらばっかり、何でもダメばっかり言うだ!!」
「……ミロー!お客様だ…!旦那様はお忙しいだ!静かにするだ!」
エッタも釣られて大声でミローを叱る。
「いやだ!いやだ!ガーディもイールクもここにいるだ!それなのに、おいらだけ、いつもダメだって言われるだ!ダメばっかりだ!」
ミローは叫ぶと地団駄を踏んだ。ドスン、ドスン、と地震でも起こったかのように床が揺れた。
「おいらだけ、なんでダメばっかりだ!ダメばっかりだよ!」
これだからダメなのだが、子供と同じなので分かっていない。今さら、思春期の反抗期が来たのか分からないが、ミローは言うことを聞かずに叫んで腕を振り回した。天井に拳が当たり、ゴスン、と激しく揺れて天井に下がっている燭台が揺れた。
エッタは青ざめた。昔、お祭りの屋台のお菓子を食べられないと大騒ぎして、大暴れしたことがあったが、その時と似ている。
「おやめ…!」
エッタは大きな声を出し、立ち上がってミローの腕をつかんだ。
そのちょっと前、バムスの書斎ではヴァドサ家の子息達、ギーク、ナーク、セグの三人がレルスリ家の状況を見て話し合っていた。セグが懸念した通り、レルスリ家のサプリュの屋敷の警備は驚くほど手薄だった。少し見ただけで分かる。
そのことをバムスに指摘すると、家族が住んでいるティールや領地の方に多く護衛の兵士を送ったという。自分が仕事のために利用するサプリュの屋敷の方は、必要最低限しかいないというのだ。しかも、四人いるニピ族のうち、一人はシークがいるセルゲス公の元に置いてきている。
「それにしても、手薄すぎです。レルスリ家は郊外にありますし、何かあった時に手遅れになってはいけません。」
セグが心配すると、バムスはにっこりした。
「大丈夫です。ここにいる使用人達はみな、元やくざ者もいたりして一癖あります。剣術に自信のある者もいますし、故郷の国では将軍をしていた者もいます。そういう意味では機転が利く者が大勢います。」
そういう意味で機転利いたら、かえって危なくない?バムスの容姿にふらついて、おかしな考えを持つ者がいないんだろうか、と三人は思ったが黙っていた。さすがに口に出して言えない。
そもそも、なんでそんなに一癖ある者ばかりがいるんだろう。しかし、それで屋敷に入った時に飛ばされた殺気に合点がいった。そういうことなら、どういう対処をすればいいかも分かる。国王軍式だ。
つまり、力技である。
バムスがセグの話に乗ったのは、おそらくそういうこともあってだろう。何かあった時のため、ヴァドサ家の子息達と一癖ある使用人達と面識があるようにしておく。面識があるだけでなく、ヴァドサ家なら何かあった時、頼りになると思わせるためだ。
だから、この屋敷にいる間に、どこかで自分達の実力を示しておかないと意味が無かった。
「屋敷の間取りが分かるように、案内しましょうか?」
バムスが言ってくれたので、三人は頷いた。その時だった。部屋の前で大きな声で、駄々っ子が駄々をこね始めた。嫌だ嫌だと叫び、ドスン、ドスン、と地震でも起きたような地揺れが生じた。
星河語
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今日は忙しくて遅くなりました。




