レルスリ家の使用人 3
昨日、あらすじを間違えたようです。申し訳ありませんでした。(;゜ロ゜)
レルスリ家に王様がやってきた。そして、そこにピド族のミローがやってきます。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
トーハが馴染んできたある日のことだった。秋になり始めた頃のことだ。
約束もしていないのに、朝から地味だが立派な馬車が屋敷に乗り付けてきた。
旦那様は朝食を食べた後、しばらくぼんやり考え事をしてから仕事に取りかかり、昼食を軽く食べた後で仕事の続きをし、それから終わって散歩をしたり、読書したりゆっくり過ごす習慣になっている。
その“ぼんやり考え事”の時間に、その馬車がやってきて暗号めいた名乗りをした。その名前を聞いた途端、旦那様であるバムスが血相を変えて立ち上がり、急いで身支度を調え、使用人達に応接間を整えさせ、お茶やお茶菓子に至るまで指示を出した後、慌てて出迎えた。
サミアス達も慌てていたから、よほど重要な人物だと思われた。使用人達もほとんど全員、粗相しないように緊張してお出迎えした。
馬車から威風堂々とした、やたらと威厳のある髭を生やした男性が下りてきた。使用人達は目を丸くした。旦那様がその威厳のある男性の前で敬礼したのだ。
「急に来てすまない。だが、サプリュに帰ってきたのに、なかなか来ないからだぞ。だから、私の方から出向いてやったわ。」
「陛下。お久しぶりでございます。そして、ご足労感謝申し上げます。わざわざ御足を当家に運んで頂き、恐悦至極でございます。細々したものが片付いてから、ご報告に上がろうと思い、参上が遅れておりました。申し訳ございません。
粗末な屋敷ではございますが、どうぞお上がり下さい。」
使用人達は目を丸くしていた。「今、旦那様、確かに“陛下”って言ったよな!?」そんな目でお互いにちらっと目配せする。つまり、王様がやってきたのだ。
「ふむ。今日はずいぶん、堅苦しいな。まあよい。お前が雇っておる使用人達が、訳ありだということは話に聞いている。見本を示すのも必要だからな。」
王が言った時、ドシドシとした足音が聞こえると同時に、びっくりするほどの大きな声が響き渡った。
「みんな、どこに行ったかと思ったら、みんなこっちにいただ…!母ちゃん、みんなこっちにいるだ…!だんなさまもいるだ…!りっぱなお馬と馬車もいるだよ!」
すると、もう一つ慌てたようなドスドスという足音と、さっきより小声の大きな声が響いた。
「ダメだよ、ミロー…!旦那様は大事なお客様が来られてるだ!早く、こっちに来るだ…!お前はこっちにいるだよ…!ご迷惑をおかけするだ…!早く戻って来るだよ…!」
「母ちゃん、青色のふくの兵たいさんがいるだよ…!赤色じゃないだよ…!はじめて見るだよ…!」
青色の制服の兵士は王の身辺を護衛する、親衛隊の制服の色である。藍色の制服だ。一般の国王軍の兵士の服の色は臙脂色をしている。
「青色の服の兵隊さんは、王様の側にいる兵隊さんが着る服だよ。!!た…大変だ、ミロー、早く戻ってくるだ!早く来るだ!」
体の大きな親子のやり取りと姿を王は呆然として、バムスはさすがに少し顔色が青ざめて見つめた。
「母ちゃん、だんなさまがおひげのおじさんといるだ…!」
先に息子のミローが到着した。残念なことに母親の制止もむなしく、引き返さなかったのである。ミローは立派な馬車とおひげのおじさん、青色の服の兵隊さん達に目を奪われていたのだ。カートン家の医師に五歳児くらいの知能しか無いと言われていた。
「ミロー、おひげのおじさんは、王様だよ…!失礼のないうちにこっち来るだ!」
大慌てで母親のエッタは走ってきて、息子のミローの腕を引っ張った。
「おいらもみんなと並ぶだよ…!おひげのおじさんを見るだよ…!」
どうやら、ミローはおひげのおじさんと青い服の兵隊さんを見るために、並んでいると思っているらしかった。
「違うだよ、見物じゃなくて、お出迎えしているだ…!帰るだよ…!」
エッタが言っても、ミローは不満げだった。
「ミロー。母ちゃんの言うとおり、部屋に一緒に戻っていなさい。」
バムスがいうと、ようやくミローは不承不承頷いた。
「……分かっただ、だんなさま。」
「旦那様、申し訳ねぇだ。申し訳ねぇだ。」
慌ててエッタはミローの腕をつかみ、威厳のある男性と旦那様に向かって頭を下げ、急いでのしのしと連れ帰った。
それを見送ってから、王がくくくと肩を揺らして笑い出した。
「吹き出すのをようやく堪えておった。吹き出せば、あの母親の立つ瀬が無い。」
そう言ってから、バムスを見つめる。
「よもや、お前の口から“母ちゃん”という言葉が出て来るとは思わなかった。」
王は拳を口元に当てて笑う。
「バムス、お前が“猛獣使い”だということは分かっていたが、まさか、あんな型破りな猛獣まで飼っているとは思わなかったぞ。」
バムスは王の反応に苦笑する。
「分かっている、そう困ったような顔をするな。どうせ、人を獣扱いするなというのだろう。冗談だ。」
「実はシェリア殿にも同じ事を言われました。」
バムスが告白すると、王はとうとう声を上げて笑った。
「やはりな。シェリアはもっと辛辣だっただろう。舌が剣かと思うほど切れ味が良いからな。生半可な奴は切られる。それにしても、先ほどのピド族は…。」
そう言って、バムスを見つめた。バムスは王に歩くように促し、屋敷の中に案内しながら答える。
「山に住んでいたピド族の生き残りです。純血を守るために近親結婚を繰り返していたそうです。彼女の夫は実の兄だそうで。」
王はそれを聞いて頷いた。
「なるほど。それで息子はあのように。」
「はい。それで夫に捨てられたので山を下り、後は各地を転々としていたそうです。そして、とうとう悪い者達に捕まり、馬車に体当たりして貴族などから金品を巻き上げる悪事に荷担を。」
王はまた肩を揺らして笑った。
「分かった。お前の馬車に体当たりしたな。それで、拾ったと。本当にお前はよく人を拾う。以前、失敗したのに懲りていない。」
そう言って、ふと真面目な顔つきに戻り、廊下の途中で歩みを止めてバムスを正面から見つめた。
「バムス。お前のしていることに文句をつけるつもりはない。お前のことだ。これも世の中をよくするための実験をしているのだろう。悪事を犯した者でも、やり直す機会を与えれば改心してやり直せるだろうと。
そのこと事態は王としてはありがたく思う。だが、全員がやり直せるわけではない。その上、人は機会だけではなく、人に惹かれるものだ。私の目から見れば、お前の所にいる使用人達は、お前のために力を尽くしているのであって、本当に改心したかどうかは分からんぞ。
お前の子供達が手に負えないものは、残してはならん。あの親子だってそうだ。お前がいなければ、どうなる?お前のことだから考えているとは思うが、多少、心配だ。
君子、危うきに近寄らず。お前にはこれからも働いて貰わないと困る。小事で命を落とすことにならんかとな。」
「陛下。ご心配をおかけして申し訳ありません。ですが、私にとっては小事ではありません。
ただ、陛下の仰ることはもっともです。そのため、ティールに送れる者はティールに送り、より使用人として精進できるようにしています。あの親子についても、カートン家と話はついています。もし、私に万一のことがあれば、カートン家が引き取ると。」
王は頷いた。
「やはり、杞憂に過ぎたか。老婆心ながら口にしたまでだ。気にするな。」
「いいえ。陛下のご指摘はもっともです。」
王と旦那様であるバムスはそんな話をしてから応接間に入り、しばらく話し込んだ。
そして、その後、馬車に乗ってどこかに出かけた。馬車の御者をしているジョーはどこに行ったか分かっていた。ヴァドサ家である。
星河語
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