教訓、三十四。樹静かならんと欲すれども風やまず。 9
シーク達はやってきたベリー医師に、男が言ったことは本当かと確認していると……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「一体、あの男が言ったことは、本当なんでしょうか?」
男が去ってから、シークはベリー医師に尋ねた。
「カートン家の先生方はご存じなのでしょう?」
ベリー医師は深いため息をついた。
「若様のいらっしゃる前で、そんな話はできない。あまりにも……。」
ベリー医師は男が後から言っていた、封印された方の話を言っているようだった。
「先生、その話ではなく、その前のレルスリ殿が生死不明という情報の方です。」
ベリー医師がはっとして、表情を曇らせた。
「…そっちの方か……。確かに生死不明という話のようです。」
「…まさか、本当に生死不明なんて。」
隊員達もみんな驚いて、顔を見合わせて一斉に言い合った。
「ねえ、レルスリの秘密って、このお話のこと?」
若様が突然ベリー医師に尋ねたので、みんな話をやめた。
「何の話ですか、若様。」
ベリー医師が聞き返すと、若様は深刻な表情でさらに言った。
「…あのね、前にレルスリが言ってた。私と同じで閉じ込められたことがあるって。嫌な思い、いっぱいしたことがあるって。」
思わず、一同は一斉に息を止めて若様を見つめた。人には言えないバムスの秘密を、彼は若様には話していたのだ。その理由は、明らかだろう。美しい容姿をしているからだ。同じ目に遭わないようにするために。
「隣国のロロゼ王国の当時の王が、他の回りの国々との間で結んだ約束を全て破り、レルスリを拉致して監禁したって、言ってた。その時に……とても嫌な思いをしたって。……毎日、毎日、辱められたって。」
若様は一番最後の部分は、とても小さな声で言ったが、みんなに聞こえた。話の内容を知らなかった一同は、心臓が止まるかと思うほど驚いて、若様を見つめた。
信じられない話だ。王がするとは思えない所業だ。しかも、他国の貴族を相手にしたこととは思えない。その上、話の内容からいって、正式に他国も含めてロロゼ王国に行ったようなのに。
「若様、その話をレルスリ殿から直接お聞きになったのですか?」
フォーリが慌てて若様に確認した。その慌てようから、現実に起こった事件だったのだと分かった。
「……うん。前にレルスリとノンプディが、フォーリもサミアスもみんな部屋の外に出て行って貰って、三人だけでお話したことがあったでしょ。その時に言ってた。
後でこっそり、ノンプディが言ってたけど、黙って屈辱に耐えていなかったら、随行していった三百人ほどは、みんな殺されただろうって。
それに、その時にレルスリが頑張ったから、フェイジュやその近郊の街々、グルハト山脈のほとんどがサリカタ王国の領土になったって。
国のために頑張ったから、父上や叔父上は決して、レルスリのその事件のことを噂にさせなかったんだって。そう、言ってた。」
一同は驚いたまま、その話を聞いていたが、ベリー医師の問いにみんな、我に返った。
「…若様。どうしてレルスリ殿は、その話を若様にしたのか理由を話していましたか?」
「……うーんと。」
若様は可愛らしく首を傾げて考えていたが、やがて思い出したようでぱっと頷いた。
「うん。あのね、秘密は秘密にしておくから、都合が悪くなる。だから、秘密を明らかにしてしまえば、何も弱みにはならないって。それに、私には必要だからって言ってた。
その時に嫌なことされたりしなかったかとか、聞かれた。絶対に秘密にしておいたらだめだって。何か嫌なことをされたら、恥ずかしくてもフォーリやベリー先生、ヴァドサ隊長には言いなさいって。」
大事な教えだ。何もそれに限った話ではない。全てに置いて、秘密にしてしまったら、それが弱みになってしまう。若様のために、バムスは恥を忍んで自らの過去を話したのだ。その勇気に敬服した。そんな話は、誰だって明らかにしたくない。一生、秘密にしておきたい話だ。
「……ちょっと、待った…!」
突然、モナが大声を出した。
「なんだ、スーガ、びっくりした。大事な話の最中に。」
思わずシークはモナを諫めた。
「すみません、隊長。でも、若様、もう一度、さっき一番最初に言ったことを繰り返して言って貰えますか?」
若様は首を傾げた。
「何て言ったっけ?」
とフォーリを見上げている。だが、フォーリは優しく微笑むだけで、答えるつもりはないらしい。若様にそんな話をそれ以上させたくないからだろう。こうやって考えてみると、結構、ニピ族って自分本位かもしれない。
「秘密の話ですよ。」
フォーリの代わりにシークが助け船を出すと、若様はあっ、と思い出して目を輝かせた。
「えーと、秘密は秘密にしておくから、都合が悪くなる。だから、秘密は明らかにしてしまえば、弱みにならないって。」
ちゃんと思い出せて、少し嬉しげに答えた若様に対し、モナは深刻な表情で考え込んだ。
「……やっぱり。やっぱりそうなんだ。きっと、そうだ。」
一人でぶつぶつ何やら呟いている。
「スーガ、今、重要なことか?」
シークの代わりにベイルが尋ねた。
「……あぁ、すみません。まだ、確証はないけど、もしかしたらと思ったことがあったので。」
「もしかしたら?」
はい、とモナは頷いた。
「本当にもしかしたら……ですけど、もしかして、いや…やっぱり。」
モナは言って、頭をかいたりしている。
「…ああ、でも、本当だったら、出し抜いたことになるけど。でも、そこまでするかな。いや、でもな、その可能性もあるし。」
「おい、スーガ。」
一人で呟き続けるモナにベイルが催促した。一人で呟くのをやめるか、話すかのどっちかだ。
「ああ、すみません。本当に確証はないんですけど、本当に可能性の一部でしかないんですけど。」
「分かった、それでいい。一人で何やら呟かれるよりはいいから。」
シークが許可を出すと、ようやくモナは腕組みをしつつ、考えを口にした。
「もしかしたら、今回の事件、レルスリ殿は分かっていたのかも。」
一同は顔を見合わせた。
「ほら、だって、秘密は秘密にしておくから、都合が悪くなって弱みになるという考えをレルスリ殿がしているのなら、自分の過去の事件が明らかに、弱みになるって分かってたはずです。
さっき、あの男は世間にレルスリ殿の過去の事件を公開すると言っていた。
もしかしてと思うのは、レルスリ殿は謎の組織の男を引っかけるため、わざと領主兵を減らし、怪しげな男を雇ったのではないのかと。あのレルスリ殿が、そんなに下心を持っているような男の魂胆も見抜けず、うかうかとやられる訳がないと思います。
たぶん、まさかその…そういう意味で襲われるとは思ってはいなかったとは思いますが、十分考えられるのではないかと。そうでないと、ニピ族の数にしろ、上手く事が運びすぎじゃないですか?」
モナの推測を聞いて、みんな考え込んだのだった。
星河語
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