教訓、三十四。樹静かならんと欲すれども風やまず。 7
シーク達の前に謎の組織『黒帽子』と思われる男が現れ、驚愕の事実を伝えてくる。だが、それが本当に正しいのか全く分からない。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
若様のおかげで、気持ちが少し明るくなったのは事実だった。こんなに優しい子を傷つけたくないし、傷つけさせたくない。
セグ言っていたことも、そういうことだった。セグはセルゲス公の周りで起きていることは、事件だと言っていた。実際にコニュータに行って、ベリー医師に話を聞いて事件だと理解した。
だから、どんなことがあっても、守り切りたい。
シークは気合いを入れ直した。ベイルを呼んで気持ちが落ち着いたか確認すると、ベイルも若様のことで気持ちが明るくなれたと言った。
実は鬼ごっこは途中で終わってしまった。というのも、近くの森からカートン家の施設の庭園の木立の間にリスがやってきていて、若様は可愛い動物に目が釘付けになってしまったのだ。
目をキラキラさせて、大きな房のようなしっぽのリスが、どんぐりを頬張り、頬袋に詰め込んでいるのを見つめて観察していた。野生動物なので、そっと少し離れて観察して、とても嬉しそうだった。しかも、一匹だけでなく、三匹いたので余計に嬉しそうだった。
「若様は本当に動物がお好きなんですね。リスがいて良かった。私達のことで、随分、ご心配をおかけしていましたから。あれで若様が喜んでおられたので、私もなんだか心が晴れました。」
ベイルが心底嬉しそうに言ったので、シークもほっとした。
「そうか。それなら良かった。任務に戻れそうか?」
「はい。隊長の方はどうですか?」
ベイルは心配そうにシークを見つめた。
「私も大丈夫だ。なんとか心の折り合いがついたと思う。」
「…それにしても昼間。微妙な所でしたね。若様がつかまってた所。」
ベイルがニヤリと笑った。シークも苦笑した。
「…ああ、まったく、エンス叔父上、分かってるくせにわざと無視して。後で文句を言いたい。フォーリの殺気が今までで一番、凄かった。いや、さすがにちょっと冷や汗かいた。」
「ずっと、フォーリの手が鉄扇にかかってましたから。いつ、抜くかっていう状態でしたもんね。」
「誰も助けてくれなかった。フォーリはあの時、本気だったぞ。あれ。」
シークが恨みがましく言うと、ベイルは少し決まり悪そうに苦笑した。
「大丈夫ですよ。抜く前に止めようと思ってましたから。みんなそうです。アレス従兄さんもいたんですし。」
そんな軽口をたたけるくらいに二人は回復した。
「!」
シークとベイルは同時に、振り返って剣に手をかけ、窓辺から距離を取って、外から窓を開けた男を見つめた。
「誰だ!」
シークの声に、一斉に隊員達がやってきて、臨戦態勢になる。
「ベイル!ここはいい。」
「分かっています。ただ、隊長、エンスおじ上達もいます。」
瞬間的に忘れていた。そうだった。二人がフォーリと一緒に若様の側にいる。二人はなんか若様に簡単に受け入れられた。たぶん、シークの身内で、さらに、じゃんけんと鬼ごっこで仲良くなったからだろう。
「若様をお守りしろ。」
「そう、殺気立つな。話をしにきただけだ。どうせなら、隣のセルゲス公達も呼んで共に話を聞けばいい。どうせ、遅かれ早かれ耳にする話だからな。私は先にお前達に教えてやるために来ただけだ。」
男は声を張り上げた。
「…何?」
シークは警戒しながら、相手の男を見つめた。真っ黒の装束を着ている。手紙でセグが文句をつけていた通り、黒帽子、ではなく黒マントを着用している。
「……お前が、セグを殺したのか?」
セグのことを思い出したら、急に怒りを含んだ激しい感情がわき上がってきた。
「若様、危険です。なりません。」
その時、部屋の入り口でフォーリが厳しい声で若様を止める声がした。
「どうなっている?」
シークは男から目を離さず、ベイルに尋ねた。
「若様が来られています。フォーリが止めていますが…。」
「若様、来てはなりません。何かの罠かもしれません。どうか、お下がり下さい。」
シーク振り返らずに言うと、若様が大きな声を出した。
「ダメだよ…!私も話を聞く。聞こえた。私にも話を聞かせるって。わざとだって、分かっているけど、猛者がいる場所にわざわざやってきて、話をすると言ってる。
それに、カートン家の施設には、ニピ族がいるのは分かっている話だよ。しかも、カートン家の医師はニピの踊りが出来る戦力だ。
さらに、ヴァドサ隊長の親戚の叔父さん達が来ていると知っているはずなのに、やってきたのには、何か理由があるはずだもん。
横暴なことはできないはずだよ。だから、この人が話をするというのは、本当のことだと思う。」
分かってはいるが、若様は聡明である。だが、いつも幼い所ばかり目にしているので、突然の切り替わりにびっくりするのだ。
男が笑い出した。
「…なるほど。まさか、その王子の口から正解が飛び出すとは思わなかった。私が説明しようとしたことを、全部説明してくれた。王妃が殺そうとするわけだ。」
男は肩を揺らして笑っていたが、頷いた。仕方なく、若様も中に入り、フォーリも入ってきた。エンス達は中には入ってこなかった。外なんかを気にしているかもしれない。その辺は安心して任せることにした。若様を守る体勢で男と向かい合う。
「さて、準備も整ったようだ。話の本題に入ろう。」
男は言って、ゆったりと辺りを見回した。
「サプリュでこんな事件が起きた。間もなく国中にこの知らせが届く。国中が驚愕し、嘆くだろう。特に…女達が。いや…男もか?」
男の妙な言い回しに、一同は首を傾げた。
「もったいぶるな。」
シークは男を睨みつけた。
「少しでも隙を見せたら死ぬと思え。」
知らず冷たい声になっていて、一同に注目されていた。
「分かった。さすがに今の状況で冗談を言っている暇はない。」
「分かったなら、早く言え。」
シークはいつでも剣を抜けるように身構えていた。一挙手一投足を見逃すことのないように、男を見据える。
「バムス・レルスリが死んだ。」
「!?」
一同は息を呑んで、男を凝視した。
「正確には行方不明…か。でも、死んだも同然だな。屋敷は火事で焼け落ち、死者も出た。犯人は路頭に迷っている所を憐れに思い、雇った使用人だ。何ということか、主君であるバムス・レルスリに欲情して襲った上、屋敷に火を放ったそうだ。まさに飼い犬に手を噛まれるとはこのことだ。」
「ふざけるな!」
「そうだ、レルスリ殿には四人もニピ族がいるんだぞ!」
ウィットとジラーが叫んだ。
「だが、四人ともいなかった。というか、サミアスはやられて重傷だ。二階の窓から投げ飛ばされ、落下した。サグはいなかったし、残りの二人もたまたま主人の命に従い、外に出ていていなかった。」
ニピ族のサミアスがやられたという事実に衝撃が走る。シークは五対一で戦ったが、サミアスを投げ飛ばせる自信は無い。
バムスを思い出す時、一番にふんわりとした微笑みが思い浮かぶ。シーク考案の鬼ごっこを興味深そうに見ていたり、シークの反応を見て、おかしそうに笑っている姿、困ったような微笑み、そんな笑っている姿を多く思い出した。
「美しいと年齢や性別を超えてしまうようだな。まさか、使用人に欲情されているとは思わなかっただろう。」
星河語
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