教訓、三十四。樹静かならんと欲すれども風やまず。 6
若様と一緒に鬼ごっこをすることになり、シークの叔父エンスと長兄のアレスも一緒にすることになった。それはいいのだが、じゃんけんすることになって、若様はちょっとびっくりして……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
鬼ごっこをすることになり、エンスとアレスに事情を説明する。その時に、シークは二人に若様が“年の人”に子供の遊びに付き合わせたらいけないと思っていることを告げると、二人とも複雑な表情を浮かべた。年齢の割に体力のある二人である。
「一緒にしましょうか?」
エンスが言い出したため、若様はびっくりしてフォーリとシークの後ろに隠れ、シークのマントを引っ張った。
「……ねえ、ほんとにヴァドサ隊長の叔父さん、鬼ごっこをするの?しても大丈夫なの?走ったら苦しくなったりしないのかな?」
小声で聞いてきたが、聞こえている。アレスが吹き出しそうになるのを堪えていた。普段は若様と呼ばないといけない話をしてあったので、隠れている若様の前にしゃがんで、エンスはこう言った。
「若様。こう見えても、そこらのおじさんよりも断然走れるんですぞ。」
そう言って、アレスを見上げたので、アレスはむっとして言い返した。
「…な、エンス叔父上、言いましたね。私だって負けてはいませんよ。」
そもそも武道の道で生きている人達なので、元々負けず嫌いでもあった。負けたら死ぬので、負けてもいいかとはならない。
いい大人がそんなことを言って、張り合っているので、若様は不思議そうにしていた。
「それでは、鬼を決めるじゃんけんをしましょうか。」
「…じゃ…じゃんけん?」
エンスの言葉に聞き返している。本気で鬼ごっこをするらしいと分かって、戸惑っているのだ。だが…一番、戸惑っているのはシークの部下達だった。
なぜ、こんな展開に?隊長と副隊長の親族がいるだけで気を使うのに、なぜ、鬼ごっこをすることになってるんだ……!!
「おや、じゃんけんを知りませんか?」
「…う…ううん。…知ってるよ。」
シークとベイルの身内だと知っているためか、初めてのエンスとアレスでも、あまりどもらないでいる。
「そこからでいいんですか?」
若様はフォーリとシークの間に隠れている。
「……うん、いいよ。」
フォーリとシークの間から手を出していて、じゃんけんはしたいけど、出て行くのに勇気がいるという若様の心情が出ていた。
「若様。それでは、気合いが入りませんぞ。じゃんけんも拳術ですからな。」
「え?拳術なの、じゃんけんが。」
「ええ、そうです。しっかり気合いを入れてしないと。」
言われて若様は、少しだけ前に出た。しかも、エンスがしゃがんでいたせいか、自分もしゃがむ。フォーリが若様のマントを引きずらないように、さりげなく持ち上げる。
若様は右利きなので、つかまっていたフォーリのマントを離していて、左側にいたシークの足に左手でしがみついた。まるで、木立の間に隠れて、木の幹に掴まっているかのように太腿の付け根につかまられて、少し微妙だ。ちょっと微妙な位置…なんですけど。たぶん、若様が成長したので、つかまる位置も高くなった。
しかも、隣のフォーリから殺気の籠もった目線を送られる。若様、もう少し下の方にしませんか、それに、掴まる相手をフォーリにしないですか?という合図を送ろうとしたが、若様は気合いの入ったじゃんけんをしようと、懸命になっている。
指と目線と顔の動きでフォーリから、
「おい、どういうつもりだ?若様のお手が…。まずいだろうが!万一、触ったらどうするんだ!許さん…!!」
という意味合いの殺気丸出しの睨みが送られてきた。
「仕方ないだろう…!私だって、せめてもう少し下の方につかまって貰いたいし、引き剥がすわけにもいかないじゃないか…!というか、試みているが、若様はますますしがみついてきている…!」
という意味合いの指と目線と顔の動きなどでシークも言い返した。フォーリとシークはしばらくそれで言い合う。
「じゃあ、練習をしますよ。はい、じゃんけんぽん…!」
エンスはフォーリの殺気に気づいているだろうに無視して、若様とじゃんけんを始めた。若様の動きで、ちょっとお顔の位置が微妙な所に来るから、放してくれた方がいいんですけど。
殺気を放つフォーリと困っているシークを見ていたアレスが、とうとう吹き出して笑い出した。釣られて今まで我慢していた、隊員達がみんな同時に笑い出す。
「?」
若様がきょとんと振り返る。シークが急いで若様に手を放して貰うように頼もうとした瞬間、エンスが言った。
「若様。それくらいで集中力を乱してどうしますか?もっと集中しないと。」
「若様…。ちょっと…。」
シークはそれでも、手を放して貰うように頼もうとしたのに、エンスがシークを睨んだ。
「シーク、今は黙って立木をしておれ。」
(えー、立木って…!)
シークが困り切っているのを見て、またアレスが笑い出した。隊員達はもう遠慮なしで笑っている。ベイルも笑いを噛み堪えていた。不機嫌なのはフォーリとシークだけだ。
そこに遅れてベリー医師もやってきて、見た途端に吹き出して笑い出した。
「若様、ちょっとこっちの左手ね。」
ようやく笑い終わったベリー医師によって、助けて貰ったシークだった。
星河語
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
いつの間にか90,000PV超していました。皆さん、ありがとうございます(*'▽'*)




