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教訓、三十四。樹静かならんと欲すれども風やまず。 5

 若様がやってきて、突然、セルゲス公バージョンになって悲しんでいるシークとベイルに思いを伝えます。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 トントン、と軽い扉を叩く音がして、三人は振り返った。扉は安全のために開けてある。

 ずっと同じ施設にいると危険だというので、エンス達が来た時の施設より、少し広い別の建物に移動していた。そこでも貸し切り状態になっている。

「若様。どうしましたか?」

 フォーリが途端に優しい表情になる。若様がベリー医師と一緒に部屋の戸口に立っていた。

「……あのね、ヴァドサ隊長、それと、ベイル副隊長、あのね…その。何て言うんだっけ?」

 ベリー医師に後の方は小声になって尋ねる。耳元で何か教えて貰い、もう一回向き直った。

「……こ……。」

 若様は途中で止まってしまったが、じっとうつむいて考えた後、急に顔を上げた。

「…と、突然の訃報(ふほう)にさぞかし、気落ちしていることと思う。仲が良かった従弟なら尚更だ。二人の親族が亡くなったと聞き、私も胸を痛めた。だが…あまり悲しむのは、亡き従弟の気持ちを汲むことにはならないのではなかろうか。

 確かに親しい者の死は、身を切られるように痛く、切なく、悲しい。私も共に悲しむから、だから、二人にはあまりそのことで、自分を責めて苦しまないで欲しい。二人が苦しんでいる様を見ると、私も苦しくなる。二人共自愛してくれ。

 セルゲス公として、二人に哀悼の意を表する。」

「……。」

 フォーリでさえ(おどろ)いていた。若様はこうして時々、突然“セルゲス公”に切り替わる。直前までおろおろしていたのが、嘘のようだ。みんなで成り行きを見守っていたので、みんなも驚いていた。特にエンスとアレスは、初めて目にしたので驚きもひとしおだった。

 驚きから冷めたシークとベイルは立ち上がると、若様の前に敬礼した。

「セルゲス公殿下。亡き従弟のためにそのように言って頂き、感謝致します。それだけで、悲しみが()えるような気が致します。心からお礼を申し上げます。」

「…よい。(むずか)しいとは思うが、それより、二人とも早く元気になって欲しい。」

「は。」

 二人が返事をすると、若様はふうと息をついて、腕で額の汗を拭った。

「……ね、ねえ…ベリー先生、だ…大丈夫だった?」

 ベリー医師はにっこりする。

「ええ、上手でしたよ、セルゲス公。素晴らしいできばえです。」

 若様は()めて貰えて嬉しそうだ。

「……ねえ。」

 若様はシークとベイルの前にやってきた。シークの肩の辺りのマントを少しだけ引っ張る。

「あのね…悲しかったら泣いていいよ。でも、あんまり泣いてたら心配になる…。みんなが…私が泣いてた時、心配していたの、分かる気がする。」

 そう言って、ちょうど二人の間の前にしゃがんで、二人の手を片方ずつ握って膝に抱えた。

「ヴァドサ隊長の手もベイル副隊長の手も、大きくて固いね。」

 なんとかして、二人を(なぐさ)めようとしているのが分かって、かえってシークもベイルも胸が詰まった。最近ようやく上手く話せるようになってきた子が、懸命に慰めてくれている。その気持ちが温かくて、嬉しかった。若様の優しさにシークは涙を堪えきれなくなった。いや、本当に最近、涙もろくなってしまった。前はこんなに涙脆くなかったのに。

「…どうしたの、悲しくなっちゃったの?」

 若様が途端に心配する。

「そうではありません。」

 シークは空いている手で涙を拭った。

「…若様のお気持ちが嬉しいのです。うれし涙です。悲しいのではありません。」

「……そっか。」

 若様は本当かな、という表情を浮かべたものの、それ以上追求せずに頷いた。

「…ね、ベイル副隊長もうれし涙?」

 涙を拭いていたベイルは話を振られて、苦笑した。

「……そうですね、感動の涙です。」

「…感動した時も涙って出るの?」

「ええ、出ますよ。若様がこういうこともできるようになられたので、感動して涙が出てきたんです。」

 ベイルの言い訳に若様は首を傾げた。

「ふーん。」

「嘘じゃないですよ。」

 ベイルが念を押すと若様は頷いた。

「うん。まあ、いいや。…ねえ、後でみんなで鬼ごっこをしようよ。」

「鬼ごっこですか?」

 そんな気分ではないが、きっと気分転換のために提案しているのだろう。

「前に悩んでいる時には、体を動かした方がいいこともあるって、ヴァドサ隊長、言ってた。」

 確かに以前、そんなことを言ったような気がする。

「だから、みんなで鬼ごっこをしよう。」

 若様は困ったようにシークを見つめた。

「分かりました、若様。でしたら、今からしましょうか?私の叔父や兄も一緒に。」

 すると、若様は目を丸くした。

「え?ヴァドサ隊長の叔父さんもするの?お兄さんも?」

 素直に驚いているのがかわいい。

「ええ。私とベイルは今、こんな状態で何時もにも増して、弱い状態です。ですから、剣術の猛者の叔父達に入って貰えれば、それを補えます。」

「……え、でも。」

 若様にしてみれば、叔父のエンスはかなりの高齢のお爺さんに見えているのだろう。兄のアレスもシークより十歳は年上だ。四十代に入っているので、おじさんだと思っているだろう。

「…若様が気になるなら、側で見ていて貰いましょうか。」

「うん。」


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

 最近、投稿が遅れがちですみません。ただ、もっと面白くしようと、ちょっと勉強中です。

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