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教訓、三十四。樹静かならんと欲すれども風やまず。 3

 シークのセグとの思い出です。親しい人との別れは、心の準備ができていても悲しいものですが、突然の別れは余計に悲しくなります。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

「シーク兄さん。気をつけて。親衛隊配属はいいけど、セルゲス公殿下の護衛は大変だろうから。事件が続いてる。」

 笑い合った後に、セグが真面目な顔で言った。

「…事件?」

 戦略部門では何か聞いているのだろうか。そう思いながら聞き返した。

「……うん。たぶん。私の推測に過ぎないけど。上司に言ったけど、気のせいだとか言われて、取り合って(もら)えなかった。本当に気のせいだといいけど。」

 セグは困ったような表情を浮かべた。

「分かった。気をつける。気合いを入れてやる。」

 シークが(うなず)くと、セグが慌てた。

「待てよ、シーク兄さん。あんまり、気合いを入れすぎても駄目だ。」

「なんでだ?」

「シーク兄さん、セルゲス公がどんな方か考えないと。一年半、幽閉されていたせいで、気持ちが落ち着かないと聞いている。

 それに、両親を早くに亡くした上に、たった一人の姉は、遠い戦地にいる気の毒な方だ。大人の事情で理由も分からず、たった十歳で全てを失った。

 シーク兄さんが幼い子に接する時みたいに、優しく接してあげないと、気合いを入れすぎたら、きっと気後れしてしまう。」

 セグに指摘されて、シークはようやく少し考える余裕が出来てきた。なんせ、急な抜擢(ばってき)の任命だったものだったから、ゆっくり考えている(ひま)もなかったのだ。

「確かに、お前の言うとおりだ。バタバタしていて、よく考えていなかった。威圧してもいけないな。」

「そうだよ。シーク兄さんの場合、気合いが抜けてるくらいがちょうどいい。あ、でも、何か忘れて慌ててるのがいいか。」

「……。」

 時々、肝心なものを肝心な時に忘れたりするため、そういう意味では信用がない。普段はしないのに、極たまにそういうことをしてしまう。

「護衛は相手の方との信頼関係が大事な任務だ。相手に信用して貰えなければ、意味が無い。だから、シーク兄さんは、何が何でもセルゲス公の信頼を勝ち取らないといけない。

 そして、もう一人、護衛のニピ族だ。護衛のニピ族の信用を勝ち取らないと、警戒されっぱなしだとやりにくいぞ。

 それから、あと一人カートン家の宮廷医の信用も得ないと。こいつは怪しいと思われて、毒でも盛られたら一巻の終わりだし、笑うに笑えない話になる。

 陛下の面目を潰すことになるから、絶対に失敗できない任務だ。だから、シーク兄さんは、どんなことがあっても任務を成功させるんだ。」

 セグが助言してくれていることは、分かっていた。彼の真剣な目を見て(うなず)いた。

「…分かった。ありがとう、セグ。」

「シーク兄さんが、任務を成功させられる方法がある。」

 セグはじっとシークを見つめた。

「そんな方法があるのか?」

 するとセグは重々しく頷いた。

「うん。簡単なことだ。」

 そう言われても、シークには分からなかった。

「シーク兄さんはシーク兄さんらしく、自然体でいればいい。いつものシーク兄さんだったら、任務を成功させられるよ。」

「?」

 思いがけないことを言われて、シークは目をしばたかせた。

「下手に何かしようと思わなくていい。私はシーク兄さんは、セルゲス公の護衛の任務に適任だと思っている。いや、シーク兄さんが、だな。シーク兄さんでないと、無理じゃないかな。」

「…そう…なのか?」

 セグはシークの顔を見て、軽くニヤリと笑った。

「そうだよ、だって、子守の経験値が長い。」

「えぇ?そんなことで判断したのか?」

「シーク兄さん、忘れたのか?セルゲス公はまだ子供だよ。しかも、おませな子ではなく、どちらかというと奥手な子。生意気なことは、たぶん、あまり言われないと思う。あまり詳しくは言えないけど。」

 やはり、戦略部門にいるから、入ってくる情報もあるのだろう。

「分かった、セグ。自然体で行く。セルゲス公と面会する時に、転んだりしないようにしないとなー。」

「親衛隊の隊長が正装でずっこけたら、絵にならないぞ。冗談でなく、現実に起こりそうな気がして怖いな。肝心な所で失敗するなよ。なんていうか、命に関わらない儀式みたいな重要な所で、シーク兄さんは失敗することがあるから、気をつけろ。」

 だから、伯父上がピリピリするんだよな、とかぼやいている。

「セグ、お前の忠告はみんな守る。」

「…とにかく、気をつけろ。じゃあな。」

「一緒に帰らないのか?」

「……。うん。まだ、仕事が残ってる。」

 嘘だと分かっていた。でも、その嘘にシークは付き合った。

「分かった。仕事をしすぎて体を壊さないようにな。」

 するとセグは苦笑した。

「お互い様だろ。シーク兄さんは事務仕事が遅くて、ベイル兄さんの苦労をお察しするよ。」

「…痛いところを突いてくるな。でも、お前も溜まってるんじゃないのか?」

 悔しかったので、言い返してみる。こんなことを言い合える時間が楽しかったのだ。

「言っとくけど、私は仕事が早くて他から回される方。」

「…う、分かってる、わざわざ言うな。」

 セグはシークを見て、いたずらっぽい表情で笑った。

「…あ、思い出した。カートン家のお医者さん方って、扱いにくいらしいから言動に注意した方がいいよ。」

 シークは頷いた。

「そうなんだ、カートン家の医師と付き合ったことがないから、どんな人達かよく分からない。なんか、傲岸不遜(ごうがんふそん)だとか陰湿な毒使いだとか言われてるけど、実際にどんな人達なんだろう。人に聞いても、(おど)されるばかりで分からなかった。」

「私も宮廷医の一人に会ったことがあるだけだから、何とも言えないけど、私の印象だと物腰は丁寧だ。」

(うわさ)と真逆だな。」

 セグは苦笑した。

「シーク兄さんも。まあ、話は戻すけど、宮廷医になっているだけあって、教養はあるし知識は豊富だし、腕も確かだ。ただ…。」

「ただ?」

「医学や医術のことになると、妥協しない。例えば、その医師達の中で一番若くても、間違っていると思ったら、決して妥協しない。面子をたてないんだ。だから、他の医師達の不興を買う。」

「……。」

「どこかで聞いたような話だ。ヴァドサ家も同じようなことを言われる。上司でも間違っていたら、それも重大なことだった場合、妥協せずに伝えるから。カートン家はさらに徹底しているようだ。妥協すれば患者を死なせるから、らしい。そういう教えをカートン家で学ぶと受けるらしい。

 その上、自分は天才だと毎日、最低でも三十回は言うらしい。」

「え?」

「真面目な話、そうらしい。元カートン家で学んだ同期がいて、その人の話によると大真面目に、カートン家では天才をいかに多く輩出させるか、真面目に研究していて、その結果出てきた答えらしい。」

「……はあ。」

 考えたこともないというか、本当にそんな話があるのか、不思議でそんな言葉しか出て来なかった。

「とにかく、そんな変わった人達の…だけど、実力は確かな先生方だから、気をつけて。なんせ、ニピの踊りができるんだから。たぶん、カートン家の先生の怒りを買うのと、ニピ族の怒りを買うのと同じくらい、やばいと思う。」

「……分かった。気をつける。」

「まあ、シーク兄さんなら、大丈夫だろうけど。さっきも言ったように、シーク兄さんらしくしていれば、大丈夫さ。じゃ、またな。」

 セグは言って、先に帰っていった。

 まさか、それがセグと…生きて会う最後になるとは、思ってもいなかった。

 セグ…!何で死んだんだ……。もっと会って話しをしたかったのに。もう、会えないのは苦しすぎた。

 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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