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教訓、三十四。樹静かならんと欲すれども風やまず。 2

 シークもベイルも、セグが死んだと聞いて泣いた。ベイルはもっと自分が大人だったら良かったと後悔する。そして、シークはセグと最後に会った時のことを思い出していた。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 ベイルも(ほお)に流れる涙を拭った。しょっちゅう行き来があった従弟ではない。でも、知っていたし、子どもの頃は遊んだこともある仲だった。軍に入ってからも、困ったように何か話をしたそうに、やって来てたたずんでいる事があった。でも、シークのことで頭にきていたベイルは、きちんと話をしなかった。いつも、無視していた。

「……ちゃんと…話を聞いてやればよかった。もっと…!」

 ベイルは壁を向いて涙を拭った。後は言葉にならない。しゃくり上げるのを何とか(こら)えようと努力する。

「あの…。」

 隊員の一人が、廊下の向こうの人影に気がついた。施設の人に案内されてやってきた、国王軍の飛脚である。彼らも一応、国王軍の隊員だ。つまり、郵便だ。隊員の一人が対応に当たった。

「あの、副隊長宛です。」

 ロモルが気の毒そうに声をかけてきた。

「なぜか、隊長の弟さんのギークさんの名前で、副隊長宛に来ています。」

 ベイルは急いで涙を拭うと、飛脚に向き直った。荷物を見れば、確かにそうである。何か小箱だった。名前を書いて手続きを済ませた。

 なんとなく分かったような気がした。ベイルは隣室に…若様とフォーリがいる部屋に戻り、小箱を開けた。隣の部屋の声が聞こえてくるので、何が起こっているのか若様も分かっていて、じっと神妙にしていた。

 箱の中から手紙と白い布に包まれた本のような物が出てきた。

「!」

 心臓が止まるかと思うほど、(おどろ)いた。先日、シークが見た夢を話してくれたが、セグが手渡したという白い包みではないのか。手紙を見ると、本当の差出人はセグだった。荷物が盗まれるのを怖れ、ギークの名前でベイル宛てに送ったと書いている。シークに宛てた手紙も一緒に入っていた。セグの手紙はまるで遺書だった。死ぬのを予感していたようだ。

 ベイルは急いで涙を拭い、手紙と白い布に包まれた物を持って、シーク達の部屋に入った。泣いている三人を目の前にすると、ベイルもまた涙がこみ上げてきた。

 エンスがベイルに気づいてはっとした。

「…ベイル。すまない、お前にとっても従弟の話なのに。気が利かなかった。」

 ベイルは首を振った。

「……いいえ。それよりも…これを。」

 ベイルは涙を堪えながら、手の物を机に突っ伏しているシークに差し出した。エンスとアレスがぎょっとした。

「隊長…セグから荷物が今、届きました。」

 ようやくシークが動き、涙でぐしゃぐしゃの顔を上げた。

「これを…。ちゃんと受け取ってくれって、セグが言ってた物じゃないですか?」

「!」

 シークがベイルの震える手の物を見た瞬間(しゅんかん)、息を呑んだ。なんとかそれを受け取ると、また泣き崩れる。

「……セグ…。」

「それから、手紙も。隊長宛です。置いておきます。」

 ベイルは涙を堪えられなくなった。

「……まさか、死ぬなんて…!ちゃんと話をしておけば良かった…!私がもっと…大人だったら……もっと早くに、隊長と仲直りできたかもしれないのに……!私がセグと…話をしようとしなかったから…!」

「お前のせいじゃない。」

 エンスがベイルの肩を叩いて力強く言った。

「お前のせいじゃない。いいな。お前が責任を感じる必要は無い。」

 しばらく、悲しむ声は止まらなかった。


 シークは思い出していた。親衛隊に任命された日の事を。王に拝謁(はいえつ)した後、忙しくしていて、帰りが遅くなっていた。暗くなって蝋燭(ろうそく)に灯火がつけられてから廊下を歩いていると、影からぬっと人影が現れてびっくりした。

「………シーク兄さん。」

「!……びっくりした。セグか。誰かと思った。」

 シークは胸をなで下ろしながら、少し警戒(けいかい)して答えた。ずっと不仲になっているので、何を言われるかと思ったのだ。

「…ごめん。」

 シークはじっとセグを見つめた。セグの表情は明るくない。不仲になってから、ずっとセグはどこか暗かった。本当は清々(すがすが)しい笑顔の持ち主なのに、軍に入ってからもあまり笑わないため、あいつは根暗な奴だと思われていたほどだ。

 ある日、突然、セグはシークに対して母親のチャルナと同じように冷たい態度を取るようになり、不仲になった。

 何の謝罪なのか、問いただすことはしなかった。もろもろの謝罪だと分かっていたから。でも、今、思えば自分達がしたことの謝罪を先にしたのかもしれなかった。

「それから……シーク兄さん、親衛隊への配属おめでとう。」

 うつむいていた顔を上げて、勇気を振り絞って何とか思いを口にした様子だった。そんなに気を使う間柄でもなかったのに。でも、弟達より誰より早く言ってくれたことが嬉しかった。そのために、シークが来るのを待っていたのだろう。しばらく待ったはずだ。

「うん、ありがとな。」

 シークは言って、両手に荷物を持っていたので、肩でセグの肩にポン、と軽く体当たりした。

「!うわ、何するんだよ。」

「何って、いいだろ、別に。両手が空いてたら、抱きしめてやった。」

「やめろよ、気色悪いし、誰かに見られたら恥ずかしいだろ。」

「つれない奴だなー。どうせ、いとこ同士じゃないか。」

 からかって笑うと、セグもとうとう釣られて笑った。久しぶりに、わだかまりなく素直な気持ちで笑い合った。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

 本棚登録ありがとうございます。

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