表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

362/582

教訓、三十四。樹静かならんと欲すれども風やまず。 1

 シークは不安だった。なぜなら、約束した日にセグが来なかったからだ。従弟に何かあったのか、あの日、見た夢は現実だったのか、不安になっている中、叔父と長兄がやってきた。そして……。

 涙なくして読めないシーンじゃないかという場面です。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 約束の日になっても、伯父のエンスとセグはヨヨにやってこなかった。ヨヨのカートン家の施設で待っている。

 さらに数日経ち、シークは伯父達に会うのをあきらめて、出発するかどうか考えていた。

「いや。待った方がいい。」

「私も同意見だ。」

 フォーリとベリー医師が、少し(むずか)しい顔をしている。

「こういう時は、大抵、何かが都で起きている。だから、確認した方が無難(ぶなん)だ。」

 二人とも、シークが数日前にみた夢について話さなかったが、それも念頭に入っているのは分かった。

 何よりシーク自身が一番、このまま出発するのが不安だった。大人達が不安そうなので、若様も少し不安そうだ。外が寒くなってきて、気を紛らわせるために、隊員達を相手に室内でできる遊びをしている。

「!あぁーまた、やられた…!若様、結構、強いですね…!」

「ほんとですよ、意外な才能を発見した。」

 歓声が上がって振り返ると、若様が得意げに笑っている。気がついたら、誰かが賭け事にも使う札遊びを教えていた。だが、楽しそうなので黙っていた。

 シークは黙ってその様子を眺めていた。若様は最初に出合った頃に比べると、かなり回復した。生き生きして子供らしくなって、笑顔もよく出るようになった。

「ヴァドサ隊長。」

 ベリー医師の声がして、戸口を振り返ると手招いていた。

「来られたよ。君の伯父上方。」

 ベリー医師の声と表情は(かんば)しくない。しばらく前に、ベリー医師は呼ばれて部屋を退室していた。戻ってきた時にちょうど来たらしく、案内してくれたようだ。

 隣の部屋に案内される。若様は特別に小さな屋敷のような建物に泊まっていた。そこに親衛隊も一緒にいるので、関係者以外に誰かに見られたりする心配は無い。ただ、こじんまりしているので、今、空いている部屋は隣しかなかった。

「お久しぶりです。エンス叔父上。」

 部屋に入ってそう言ったものの、シークは嵐のような不安に(おそ)われた。

「…久しぶりだな、シーク。少し()せたな。」

 そう言う叔父のエンスもやつれていて、疲れているようだった。

「…兄上。お元気でしたか?」

 ヴァドサ家では兄弟姉妹の親族が多いので、単純に“兄上”と言った場合、長男アレスのことをさしていた。シークが十一歳の時に、アレスは二十一歳で結婚して子供が生まれた。

「…私は大丈夫だ。お前の方こそ、大変だったらしいな。先日、陛下とレルスリ殿が当家に来られて、色々と事情を教えて下さった。」

「!陛下が…来られたんですか?」

「そうだ。」

 シークの問いに二人は(うなず)いたが、どこから何を話すべきなのか、考えのまとまりがつかない様子だった。

「…セグは?セグはどうしたんですか?」

 シークが尋ねると、二人は困ったように顔を見合わせた。それに、二人とも表情が暗く、悲しんでいるように見える。

「シーク…。落ち着いて聞いてくれ。」

 エンスが切り出した。シークは不安に駆られて先に口走った。

「…もしかして、セグは死んだんですか?」

 一瞬(いっしゅん)、時が止まったように、三人の間に沈黙が降りた。外で北風が吹いて、ビョーという寒そうで寂しそうな(うな)りを上げている。晴れていて、日差しは暖かく窓辺には日が射しているが、時折、雲がそれを遮り、部屋の中に影を落としていた。

「セグは、死んだんですか?!もしかして、殺されたんですか!?」

 エンスとアレスの表情が即座に強ばった。血の気が失せ、まっすぐにシークを見つめる。

「…どうして。」

 エンスの声が(かす)れている。

「どうして、それを知っている?」

 驚愕(きょうがく)のあまり、二人は話す言葉を失ってしまったようだった。

「ほ…本当に、死んだんですか?」

 シークはエンスとアレスを見つめた。否定して欲しいのに、半ば事実だと受け止めている自分がいる。心臓が(はげ)しく鼓動している。悲しみのせいで苦しくてたまらない。気がついたら手が(ふる)えていた。

「なぜ、知っている!?」

「叔父上。」

 びっくりして、シークに知っている理由を問い詰めようとした叔父を、アレスが止めた。

「……夢を見ました。」

 呆然(ぼうぜん)としながら、シークは震える声で答えた。

「セグが…馬上で矢に射られて死ぬ夢を見た後、今度は部屋に入ってきて、話をしたんです。なぜか、犯人は二人だとか、半分は成功したけど、失敗してしまったとか、よく分からない話をして。白い布にくるんだ本のような物を差し出して、ちゃんと受け取ってくれって。その後、私に泣くなよと言って…消えたんです。」

 シークが話している内に、エンスとアレスの顔が真っ青になった。

「…シーク。その夢を見たのは、いつだ?」

「ちょうど…この間の満月の夜です。」

 シークが震える声のアレスの質問に答えると、二人の双眸(そうぼう)が揺らいだ。

「……セグは…お前に……別れを言いに行ったんだな。」

 エンスの声も震えていた。もう分かっていた。分かっていたが、確認した。

「…じゃあ…セグは……。」

 涙で目の前が揺らぎ、最後まで言えなかった。アレスが深く頷いた。

「…セグは…お前が言ったとおり、この間の満月の晩に、死んだ。殺された。」

 本当に胸を刺されたかのように、胸が痛かった。喉も締め付けられるように痛くなり、上手く声も出せない。力が抜けてそこの椅子に座り込んだ。

「…セグに接触してきたという謎の組織の男がいた。セグは、なぜかレルスリ殿にはそのことを話した。それで、結局、総領を始め、ギークやナーク、イーグまで知るところとなり、みんなで捕らえる算段をつけた。

 セグは賢い子だ。ナークとも相談して、計画を煮詰め、実行した。実際に接触してきた男を捕らえた。敵の裏をかいたはずだったし、ヴァドサ家内部にいた、その組織の密偵も捕らえることに成功した。」

「そこまでは良かった。謎の組織の男を捕らえたことを確認したセグは、お前に直接話に行くと、今なら敵の裏をかけるに違いないと踏み、屋敷を抜け出してお前に会いに行った。

 大街道を走り、でも、そこには敵が待ち受けていた。セグが来るのを待ち伏せしていた男がいて…それが、捕らえたはずの男がいて、セグを刺した。」

 アレスとエンスが交互に説明した。

「……間に合わなかった。セグが一人出て行ったことに気がついて、大急ぎで後を追った。セグを(おそ)おうとしている男に矢を射ったが、矢が届かなかった。私の目の前で、セグは刺された。助けられなかった。急所を一突きだ。

 男は私達が来たことに気がつくと、セグが持っていた資料を取り上げ、走って逃げた。何人かに後を追わせたが、取り逃がした。

 私は慌てて地面に倒れたセグを抱き上げた。セグの体から血が(あふ)れ出て、あっという間に体が冷えていくのが分かった。死にそうなのに、セグは言った。あの男が持っていった資料は偽物だと。本当に敵は一人なのか、確認したかったのだと言った。

 敵が二人いるからくりに、セグは勘づいていた。だから、無謀なことを。」

 エンスは涙を拭きながら、説明した。

「…セグの最後の言葉は……シーク兄さん、ごめんだった。」

「!」

 呆然と涙が流れるままに説明を聞いていたシークだったが、目の前の机に突っ伏して泣いた。勝手に声が出ていた。息が出来ないほど、しゃくり上げた。エンスとアレスが側に来て背中を()でてくれながら、一緒に泣いていた。

「…すまない。目の前にいたのに…助けられなかった。もっと早く気づけば…!」

 当然、ことの顛末(てんまつ)をシークの隊員達は、固唾(かたず)を呑んで聞いていた。みんな、廊下に出て話を聞いていた。

 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

 星マークありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ