教訓、三十三。時は得がたくして失い易し。 14
時間がなかったため、昨日中には投稿できませんでした。
遠く離れた場所にいるシークは、その日の晩、奇しくもセグの夢を見た。セグは白い布包みを渡して「泣くなよ。」と言って消える。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
ヨヨ近郊のカートン家の駅で休んでいた。もう、ベブフフ家の所領にいる。旅は順調すぎるほど順調だった。
みんな旅の途中で何か事件が起きるのではないか、と心配して警戒しながら進んでいたのだが、拍子抜けするほど何もない。
「こういう時って危ないって言いますよね。嵐の前の静けさというか。」
テレム・ピンヴァーが口にした。
「余計なことを言うなよ。」
すかさずモナが注意する。
「でもさー。」
「分かってるって。気をつけた方がいいの。でも、若様が不安になるだろ。」
テレムはばつが悪そうに頭を掻いた。
「あ、確かに。ごめん。」
「いいって、たぶん、聞こえてないから。部屋、隣だし。」
若様の部屋を真ん中にして、両端に親衛隊の面々の部屋があった。若様がみんなに慣れたのもあり、近くにいてもあまり気にならなくなったからだ。
今夜は若様の部屋から向かって左がシークを含めて十名、右がベイルを含めて十名だ。昨日は逆で、毎日、くじでどう代えるか決めている。くじ運でないと、毎日、決まった行動になってしまうからだ。敵に習慣を勘づかれないためにそうしていた。
ただ、時々、若様の調子が悪い時は、夜中に悪夢にうなされて悲鳴を上げているので、それにはびっくりしながら、警戒するが。
それ以外は何もなかった。夜の番も楽なものだ。念のため、寝ずの番の係は置いているがサグもいるので楽だった。
そして、夜中。
シークは夢をみた。
どこかに続く道が一本通っている。回りは草原だ。そして、近くには親衛隊のみんなと若様達がいる。
その道を誰かが馬で走ってきた。よく見ればセグだった。セグ、と声をかける前に、セグの方から大声で叫んだ。
「シーク兄さん…!」
「セグ!どうして、ここに?」
だが、セグが次の言葉を言う前に、彼の胸に何かが突き出した。見る間に胸が赤く染まっていく。矢で射られたのだ。セグは馬の首に抱きつくように前のめりに倒れた。
「セグ!!」
叫びながら、シークは目を覚まして起き上がった。すると、寝台の上に寝ており、窓から煌々と満月の光が射し込んでいる。
(なんだ、夢か。びっくりした。)
シークがそう思った時、後ろに人の気配がした。慌てて振り返ると同時に声がした。
「シーク兄さん。」
セグだ。
「お前…どうして、ここに?今、お前が死ぬ夢をみて、びっくりして…。」
「シーク兄さん、ごめん。」
セグはそれに答えず、寝台の横に立った。
「…ごめんって、何だ?」
「半分成功したけど、最後に失敗しちゃった。でも、大事な所はつかんだよ。」
「……。」
セグはへへ、と笑った。シークはセグを凝視していた。どういうことだろう。大渦のような激しい胸騒ぎがして、治まらない。
「あのね、シーク兄さん。犯人は二人いるんだよ。」
「…え?」
何の話をしているのか、分からなくてシークは聞き返した。
「二人だからね。それと、これ。」
セグは白い布に包まれた四角い、ちょうど本が一冊ほどの物を差し出した。思わず手を出すと、セグはシークの手の上に乗せた。
「ちゃんと受け取れよ。」
「…今、だから受け取って……。」
シークは混乱したまま、セグを見つめた。
「シーク兄さん。」
セグは子供の頃のような無邪気な清々しい笑顔を浮かべた。
「泣くなよ。元気でな。」
「セグ!」
シークは慌てて起きてセグの後を追おうとした。だが、上手く体が動かなくて、セグは扉の向こうに消えた。
「セグ、待て、どこに行くんだ!セグ!」
シークは必死に叫んだ。
「隊長、隊長!大丈夫ですか!?」
隊員達、みんなの声でシークは目を覚ました。心配そうなみんなの顔が見えて、シークは急いで起き上がった。
夢だったらしい。でも、夢だとは思えなかった。それくらい、生々しい感覚がした。全身汗びっしょりだ。思わず深い息をついて、両手で顔を覆った。
「……みんな、すまん。起こしたな。」
「隊長こそ、大丈夫ですか?何かうなされて、従弟の名前を何度も叫んでましたよ。」
シークはもう一度、ため息をついた。その時、部屋の扉が叩かれ、静かに開けて誰かが入ってきた。
「失礼。大丈夫?」
ベリー医師だ。静かにやってきて、顔を覆ったままのシークの腕をとり、脈を確認した。
「…隣まで聞こえましたか?すみません。ご心配をおかけしました。」
「なんか、大変な悪夢だったみたいだね。動悸が激しいですな。」
深呼吸するように言われて、深呼吸をする。
「若様は起きてないですか?」
「うん。若様は大丈夫。それより、よほどの悪い夢みたいだったけど。」
ベリー医師に言われて、シークはため息をついた。
「……悪い夢でした。従弟が目の前で殺された夢を最初に見ました。その後、夢だったと思って安心したら、部屋にセグが入ってきたんです。
私の質問には一切答えず、本のような大きさの白い布に包まれた物を差し出して、ちゃんと受け取れと言って。犯人は二人だとか、意味の分からない事を。その後、私に泣くなと言ってから、消えました。
本当に側にいる感じがして、夢だとは思えませんでした。……まるで…別れを…言いに来たかのような…そんな感じがしました。」
みんなその話を聞いて、押し黙っていた。笑い飛ばせなかったのだ。そんなの気にしすぎだとか、どうせ夢だとか言えなかった。なぜなら、シークが毒を盛られて死にかけた時、ロルの声を聞いていたし、仮死状態から復活したロルも、シークに呼びかけたと言ったのだ。そういう経緯があるので、みんな黙って聞いていた。
「……確かにそういう感じもするね。」
ベリー医師は少し考えた後、そう答えた。本人が別れを言いに来たのではないかと感じた以上、これ以上何か言っても無駄だからだ。
「でも、今度彼に会うまでは何とも言えないよ。もしかしたら、危機を脱したかもしれないし。てっきり、別れを言いに来たんだと思ったら、生き返ったという例もあるしね、実際の所。」
カートン家の医術は進んでいる。そのため、臨死体験をする人も割といた。この当時の人々はそれを臨死体験だとは思っていなかったが、不思議な、人の命の聖なる領域で起きることだと思っていた。
「…先生がそう仰るなら、そうかもしれません。ただ、生々しくてびっくりして。」
「ま、そう気にしないで寝なさい。」
「そうですね。お騒がせしました。」
「いやいや。じゃ、お休み。それにしても、今晩は月が綺麗だな。この曇りガラスを通しても光が入ってきている。」
ベリー医師の言葉が妙に気に掛かった。月は夢でも射し込んでいた。
「私達も寝るか。」
「ああ、すまん。寝てくれ。」
みんなそれぞれ布団に入る。
やがて。静かな寝息が立って、みんなが寝静まった。
シークはその晩、寝付けなかった。
星河語
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