教訓、三十三。時は得がたくして失い易し。 13
セグは助かるのでしょうか。それとも、間に合わないのでしょうか……。どっちなのでしょうか?
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
セグが地面に倒れていると、駆ける馬の振動が伝わってきた。さっきから通り過ぎる馬や馬車の振動はある。だが、馬だけの道はふさがっているため、今、振動は止まっていた。
その馬専用の道から振動が伝わってくる。
「道を空けろ!」
「道を空けてくれ!」
聞いたことのある声が、張りのある大きな声で叫んでいた。人々が夢から覚めたように振り返り、慌てて道を譲る。大街道の中では、人が少なかった。数人がよければ、まっすぐにセグが見える状態だったのだ。
セグのぼんやりする視界の向こうに、馬の脚が何本も見えた。
「!」
男が急に動いて、何か払った。
カシッ、と音がして棒状の物が地面に転がる。矢だ。セグは助けが来たことが分かり、動かない体を必死に動かして、腹這いになった。なんとか、男から逃れようとする。その時、見上げた空に満月が浮かんでいた。雲がその下をゆっくり流れている。風流な景色に一瞬、みとれる。
「セグから、離れろ!」
伯父のエンスの声が聞こえた。セグは激痛に耐えながら、伯父達の方に向かって進もうとした。
「!?」
「セグ!!」
「セグさん!」
複数の悲鳴が聞こえた。自分に何が起きたのか、セグは分からなかった。何だか急に熱い感じが右の腰辺りにした。何だろうと思う間もなく、体から力が抜けた。
「やめろ!」
馬が目の前に迫ってきて、男が去って行く。去り際にセグの腰に何かした。途端に痛みが走り、セグは自分が刺されたことを知った。短刀を抜いていったのだ。熱い血が体を支えている右腕に流れてきた。痺れているが、まだ感じられた。
馬が駆け抜ける。側に馬を乗り捨て、セグにエンスが駆け寄ってきた。
「セグ!!大丈夫か、しっかりしろ!」
大丈夫なわけないのに、人はこういう時、そんなことを言ってしまうものだった。急いでセグを抱きかかえて起こす。急いで傷口を誰かが押さえ、叫んでいた。
「早く、誰か医者を呼んでくれ…!!」
「セグ!すまない、間に合わなかった!」
「エンス伯父上…。」
泣きながらセグに謝ってくる伯父にセグは語りかけた。
「どうした、セグ、喋らない方がいい。」
「敵が盗んでいった冊子は偽物です。」
エンスがはっとした。
「セグ、今はそんなことはいい。」
「……エンス伯父上。急所を刺されました。もう、無理です。」
セグには分かっていた。急速に体から温度が抜けていく。寒くてたまらなかった。力も入らない。眠くなってきた。
「伯父上、敵は二人いて……。確認したかったんです……。本当に…ふたり…なのか。」
話すのもきつくなってきた。ぼんやりする。目がかすむ。満月が見える。自分が死ぬんだと思うと急に怖くなった。
「……セグ、分かった。他に何か言うことはないか?」
伯父のエンスがセグの最期が間近なことを悟り、涙声で尋ねた。
「シーク兄さん……。シーク兄さんに謝りたかった……。」
「そうか。でも、シークは分かっている。大丈夫だ。心配いらない。」
エンスはセグをしっかり抱きしめてくれていた。それで、少し恐怖が和らいだ。
「大丈夫だ、セグ。何も心配するな。」
伯父がセグの額を撫でてくれる。その間に、セグは自分の人生を振り返っていた。自分の人生が頭の中に流れていた。なんだか、すーっと気持ちよくなっていく。
シークの困った顔が思い出された。本当はずっと仲直りしたかった。
「……シーク兄さん、ごめん…。」
セグは意識を手放した。エンスの体にセグの体重がかかり、地面に伸びていた手から力が抜けた。
「セグ……。」
エンスをはじめ、ヴァドサ家の人々は泣いた。
誰も動けずに泣いていた。やがて、遅れて走ってきたユグスとコンバが追いついた。
人垣をかきわけ、ユグスが目にしたのは、地面に倒れたセグと抱きかかえて泣いているエンスと、道場の人達だった。
「…セグ!」
ユグスは悪い足で必死の思いで駆け寄った。途中で転び、助け起こそうとしてくれる手を振り払い、這ってセグの元に近寄った。
「……!」
大量の血にユグスは心臓が止まるような気がした。
「セグ…!セグ…!」
ユグスはセグの体を揺すった。まだ、体温が残っていた。でも、生きているには冷たくて。
「セグ、父が来たぞ。セグ、私を呼んでくれ…!セグ…!」
エンスが足の悪いユグスにセグを抱かせてくれた。セグの背中がぐっしょり血に濡れている。濃厚な血の臭いがした。それでも、ユグスはセグの体を抱きしめた。
「セグ……。」
まさか、今日、息子が死ぬとは思わなかったユグスは、慟哭した。
大勢の人が立ち止まり、呆然と言葉もなくその場面を見つめていた。ちなみに最初に刺された人の命に別状はなかった。やがて、大街道の警備担当の国王軍の隊がやってきた。シークの同期で友人のジルカ・グラップスだ。
ヴァドサ家の面々に驚き、死んだのがシークの従弟だと知って、驚愕した。そして、友人のシークを案じた。きっと、彼がセルゲス公の護衛になったことと関係があるに違いない。
ジルカは満月の空を見上げた。煌々と青白い光が辺りを照らしている。
シーク、今夜、お前の従弟が死んだ。お前は無事でいるよな。心の中でジルカは思い、これ以上の悲劇が起きないことを願ったのだった。
星河語
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