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教訓、三十三。時は得がたくして失い易し。 12

 セグは『黒帽子』の男達を出し抜いたと思っていたが、実は逆だった。男はセグを待ち伏せし……。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 こうして、セグは家を出た。

 剣士達と別れた後、大街道を目指して馬を進めた。夜だが真夜中ではなく、ヴァドサ家周辺よりも人通りは多い。大街道は便利な道路なので、商人が馬車や馬を走らせる。夜中でも人通りは絶えない。サリカタ王国の経済の大動脈の一つだ。

 セグは馬用の道を走らせた。多くの人がいるので、セグ一人よりも安全だし、何よりたとえ黒帽子だったとしても、暗いのでセグ一人を探し出すのは困難なはずだ。

 半時辰(この当時のサリカタ王国では、約一時間ほどに当たる。)ほど走らせて、馬を休ませた。

 実はセグは誤算をしていた。いや、ほとんど彼の推測は当たっていた。だが、もう一人の男は外で待ち伏せしていたのではなく、中にいてソドを口封じしようとして失敗し、冊子の回収もできないで屋敷内に隠れていた。

 ソドに呼び出しをさせたのは、セグが出て行くときに、他の人と一緒に出て行くのを想定し、一緒にヴァドサ家を出るためだ。出入りを激しくして警戒(けいかい)を緩めさせようと考え、それは成功した。一番最後に少し遅れて出発し、途中から道をそれて別の道から戻った。セグは大街道に向かうと剣士の一人に言ってしまったのである。それを聞いていたので、途中から合流するのは簡単だった。

 男にはソドにセグを呼び出させた後、ソドを素早く殺して冊子を回収し、セグが出て行く時に一緒にどさくさに紛れて出て行く自信があったのだ。結果として、それは失敗に終わったが、まだ男にとっては最大の計画の中心のセグがいる。彼に”死んで(もら)う”ことが一番の目的なのだ。

 セグが出て行った後を追いかければいい。もし、待ち伏せを選んでいれば、見つけられなかっただろう。だが、シークの時に待ち伏せで失敗していたので、ヴァドサ家に関わる際には慎重になっていた。

 セグが動いた後を追う。潜入している分、見つかる危険度も高くなるが、早めに行動をしかけた分、セグも早めに行動してくれた。

 人が結構いるので、セグは男に見つかりにくいと考えていたのだが、逆に男がセグに見つかりにくい状況になっていたのだ。

 セグは気づかないまま、走り続けた。そして、半時辰ほどして駅で馬を休ませている間に、男はセグが駅にいることを確認してから、通り過ぎた。その先の停留所の近くで馬を休ませながら、それこそ待ち伏せする。

 セグが馬を休ませている頃、エンス達は大急ぎで馬を走らせていた。人々が何事かを振り返りながら、道を空けたり、端に寄ってくれたりした。

 それもそのはず、ヴァドサ家はめったに使わない特権を使っていた。“王の許可無く武装し、武力を行使していい特権”である。特別な通行手形でもあった。めったにその特権を使うことはない。十年に一回も使わない。使ったのはおそらく二十年ぶりくらいだろう。二十年前は、当時サプリュを騒がせていた強盗団を捕らえるため行使した。 

 今はセグの命がかかっている。その上、セグが命を狙われた理由が、セルゲス公の護衛をしているシークに動揺を与えるためだと分かっている。もし、シークが動揺して、任務を失敗したら、セルゲス公の命が危うくなる。緊急事態だと判断したので、ビレスが許可を出した。

 ヴァドサ家の特権で、大街道の道を国王軍のように譲って貰いながら走り抜ける。一人当たり二頭の馬を操りながら駆けていく。一頭には自分が乗り、もう一頭の手綱を引いていた。馬が疲れたら走らせながら、もう一頭に乗り替えるのだ。

 こうして、休みなく馬を走らせ続けた結果、人に気を使いながら走ったセグに大幅に追いついていた。だが、惜しいことにセグが出発して、しばらくしてからセグが休んだ駅を通り過ぎた。


 一方、セグは気をつけながら、馬を走らせていた。夜でも人はいるし、本当に謎の組織の黒帽子を出し抜けたのか、分からなくて不安だったからだ。

 そして、停留所を通り抜けようとした時、暗がりの道の端っこの影に、黒いマントを被った人影を発見した。『黒帽子』という割には帽子ではない。これでは『黒マント』ではないか、と内心でセグは文句をつけた。前々から思っていた不満だ。

 セグは咄嗟(とっさ)に考えて、気づかなかったフリをして他の人達と一緒に、そのまま通り過ぎようとした。が、男が突然、馬の前に走り出てきて、慌てて馬の手綱を引いて衝突を回避(かいひ)する。

 夜だとはいえ、大街道には灯籠(とうろう)がたくさん立っている。そのため道は明るかった。

「危ないな…!」

「飛び出してくるな…!」

 セグと一緒に馬を止めざるを得なかった人達数人が、男に文句を言った。

「そこの若者に用がある。」

 男は言うなり近づいてきたので、セグは思わず馬を後ろに下がらせた。

「一体、何なんだ…!」

 セグは真ん中辺りに位置していたため、下がれば後ろの人と当たりそうになる。逆走もできない。セグは馬を下りると、走った。だが、男は追いかけては来ずに、側の人を馬から引きずり下ろし、首に腕をかけて短刀を抜いて突きつけた。

「おい…!これを見ろ!」

 周りの人々が声を上げた。

「おい、ヴァドサ・セグ…!」

 呼ばれてセグは思わず振り返った。

「関係ない奴が死ぬぞ…!」

 セグが躊躇(ちゅうちょ)している間に、男はいとも簡単にその人の腹部を刺した。そして、素早く呆然としている人達の一人を捕まえ、さらに短刀を突きつけた。停留所で止まっている馬車もあり、人々は気づきだした。馬の道を走っている人も、暗がりの中の事件に気づく。

「やめろ!」

 セグは叫んで、走り寄ると男の腕に掴みかかり、柔術技で腕を(ひね)って一度は短刀を取り落とさせることに成功した。だが、相手はニピ族らしいという疑惑があることを思い出した。鉄扇すら男は使っていない。だが、使っていないうちに完全に取り押さえなくては。

 セグは男の腕を(つか)み、地面に倒そうとした。だが、普通の人なら…というか柔術技に慣れていない人ならば、完全に倒れる所なのだが、倒れなかった。

「やはり、ヴァドサ流の柔術技はやっかいだな。」

 男はのんきにそんなことを言いながら、男を倒そうと両手が(ふさ)がったセグから片手を抜き、帯から鉄扇を抜いて振り上げた。

「!っっ…!」

 (かば)う間もなかった。なんとか、男から離れようと動いたのが幸いして、急所には入らなかった。だが、背中の激痛にセグは倒れた。激痛に普通に息すらできない。

 (あえ)ぎながら背中を丸まらせた。全身に脂汗が流れている。痛みで涙が流れ、視界がぼやけた。痛みのある箇所から右腕に(しび)れが走る。この痺れがまた強烈だった。

 地面に倒れて喘いでいる間に男がセグを仰向かせ、人々が(おどろ)きながら見ている目の前で懐に手を突っ込み、布に包んだ冊子を取り出した。

 ぼんやりしながら、セグは男がその冊子を懐に入れるのを眺めた。動く左手を挙げて、それを阻止しようと動いた。だが、力なく手が地面に落ちる。少し動くだけで激痛が上半身に走った。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

 いいね、ありがとうございます。

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