教訓、三十三。時は得がたくして失い易し。 11
セグは『黒帽子』の男達のからくりに気づく。彼らを出し抜いてシークに会いに行こうとするが……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
セグは大街道を走っていた。
出て来る前、ギークとイーグが男を捕らえたと聞いて、ほっとした。順調に進んでいるようだと思った所で、はっと思い出したことがあった。
国王軍の資料を片っ端から見ては、まとめていた。ずっと書き続けていたのだが、その様子をギークが休憩時間に見に来たことがあった。
「大変だな。まだまだあるのか?」
「まだまだありそうだよ。」
セグが答えるとギークは一冊を取り上げて、パラパラと読み始めた。しばらくして、一カ所を見た後、もう一回、戻って確かめている。それを何回か繰り返している。
「ギーク兄さん、何か変な所ある?」
「…いや、変かどうかは分からないけど、妙だと思ってさ。どうも、同じような時間に同じ人物が現れているんじゃないかと思って。ここの一カ所だけかと思ったが、他にももう一カ所ある。こうして、ざっと見ただけだから、分からないけど。」
指摘された所を見ると、セグも不思議に思った所だった。
「たぶん、書き間違いか何かだと思うよ。古い記録だし。」
「…まあな。今ほど厳格に記録を重視していなかった時代だし。」
ギークも頷いて、話はそれで終わりになった。だが、その後にも何回か似たような記録があった。
セグははっとした。
(…もしかして、書き間違いではない?)
そうだとしたら…。もし、そうだとしたら、別の場所に同じ男だと思った男が現れる可能性があるということだ。
一人はサプリュにいて、もう一人は遠く離れた別の場所に現れる可能性がある。つまり、仮面をして真っ黒い服装をすることによって、姿の異様さに目が行ってしまい、しかも仮面なので、同一人物かどうかなんて分からないということだ。もしかしたら、シークのところに行ったのかもしれない。
(…つまり、二人どころではない可能性もある。三人だろうが四人だろうが増やせるということだ。多すぎればさすがに、おかしいと思われるから、多くても三、四人が限度だろう。)
先ほど、ギークとイーグが一人は捕らえたが、残りはどこにいるのか。伯父のビレスに待機しているように命じられた部屋で一人考えていたが、そこにソド老人がやってきた。
「失礼しますよ。」
「ソドさん、どうしたんですか?」
ソドは困ったように頭をかいた。
「実はさっき、国王軍の人が来ましてね。これをセグ坊ちゃんに渡すように頼まれたんです。ナーク坊ちゃんからだって言っていました。」
セグはソドを見つめた。まさか、ソドだとは思わなかった。実はナークやギーク、イーグとやり取りするときは、暗号を決めてある。文面にしろ伝言にしろ、必ずつけるようにしてあるのだ。
だから、他の人にしてみれば、何を急に変な話をしているんだろうと思う。何の脈絡もない話をしているようにしか思えないからだ。
「…ありがとうございます。」
セグは言ってソドが差し出した手紙を受け取った。
「それじゃあ、失礼します。」
ソドは部屋の外に出て行ったが、すぐに言ってしまったわけではなかった。気配で分かる。ソドに気取られないよう、緊張しながら手紙を開いた。ナークの字に確かに似ている。でも、肝心の暗号文がない。つまり、ナークの呼び出しではない。
これで確実になった。ソドがヴァドサ家の密偵なのだ。
セグは立ち上がり出かける準備を始めた。その音を聞いてソドが立ち去ったのが分かった。つまり、ソドは嘘の呼び出しでセグを外に出したかった。国王軍に行くまでの間で手を下すつもりなのだろう。さすがにヴァドサ家の中でセグを殺すのは分が悪くなったといえるようだ。
当たり前だ。そう思いつつ、セグはもう一度腰を下ろして別の紙に書き置きを書いた。ソドが密偵なら、父のユグスに冊子を渡したことを確実に知っているはずなので、冊子の回収に向かったはずだから、書き置きでも大丈夫だろうという考えがあった。
まだ、他に密偵がいる可能性もあるが、誰かを捜して言づてする時間も惜しいし、何よりセグを絶対外に出すなと、ガルシャにしろケイレにしろビレスから厳命されているので、説得する時間が惜しかったのだ。用事で席を外した今のうちに行くしかない。上手いこと二人とも、仕方なく席を立った。
もし、セグの勘が当たるなら、謎の指令を出している男がもう一人いるはずだ。ただ、裏もかけるかどうかは賭けだ。
セグは用意しておいた偽の冊子を布にくるみ、大切に懐にしまうと急いで外に出た。敵の裏をかいてシークの所まで行けるだろうか。分からないが直接伝えたかった。セグが気づいた危険について。シークに直接会って、謝って、そして、話をしたかった。
子どもの頃のように、何のわだかまりもなく、話をして笑いたかった。無性にそうしたくなったのだ。今、行くしかない。きっと、今、行かなければ一生、話す機会がない。そんな気がして、シークのところに行くことに決めた。
敵が国王軍に行っていると思い、その道を選んでいることを願うしかない。セグは詳しい事情を知らずに、呼ばれて道場に集まっている剣士達に手伝ってもらうことにした。
一度一緒にヴァドサ家を出て貰い、大通りに出た所で彼らにはヴァドサ家に戻って貰う。万一つけられたとしても、後を追うのが難しくなるようにしたのだ。
それを頼むと、訝しげな顔をしつつも暇だったため、数人が承諾してくれた。
星河語
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