表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

354/582

教訓、三十三。時は得難くして失い易し。 7

 話が展開し始めます。いよいよ、謎の組織黒帽子の密偵が姿を現します。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 ユグスがため息をついた時、誰かが静かに部屋の前に立った。

「失礼致します。」

 引き戸を開けて入ってきたのは、古い使用人のソド老人だった。彼は馬のことから庭のことまで、何でも任せられる信用ある使用人だ。

「おや、ソドさん、お久しぶりです。」

「ユグスさん、お久しぶりでございますな。」

 老人は穏やかに笑いながら、茶の乗った盆を運んできた。

「わざわざソドさんが、お茶を持ってきたんですか?」

「ユグスさんがこちらにいると聞いたもんで。めっきりお会いできる時間が減ってしまいましたからな。お茶係を代わって(もら)ってきたんですよ。」

「そうでしたか。」

 ソドは寝台の横の台に茶を置くと、戻って引き戸を閉めた。

「お元気でしたか?」

 ユグスは懐かしくなって、ソドに尋ねた。子供の頃からいる使用人だ。彼が結婚する時、兄弟達とお金を出し合って、彼に祝いの品を用意して贈った。食器を用意して贈ったのだが、とても喜んでくれた。

「ええ。元気でした。ユグスさんの方はお元気で…。いや、元気かと聞く方が馬鹿ですな。ご病気なのに。気が利かなくて、すみません。」

 ソドは寝台の横の椅子に座り、頭をかいた。

「気にしないで下さい。」

「ところで、何を読んでいるのですか?」

「ああ、これですか?」

 ユグスは冊子を持ち上げて見せながら、苦笑する。

「セグが解読して欲しいと言ってきてですね。でも、さっぱり分からないんです。解読なんてできないと言ったんですが、見るだけでも見てみて欲しいと言って置いていったもので。」

「セグ坊ちゃんがですか?」

 そう言って、ソドは目を輝かせてのぞき込んだ。

「どれどれ。どんな(むずか)しいものを?」

 ソドはのぞき込んだものの、すぐに眉根を寄せた。

「確かに、これはさっぱり分かりませんなあ。セグ坊ちゃんは昔から頭のよい子でしたから。シーク坊ちゃんと二人、旦那様の書斎で居眠りしたりしていて、可愛らしかったのを今でもはっきり覚えていますよ。」

 二人は顔を見合わせて笑った。

「ユグスさん、これ私が借りてもいいですか?」

 思いがけないことを言われて、ユグスは困惑した。

「しかし…セグが預けていったということは、仕事に使うのかと。」

「いや、ちゃんとお返ししますから。大丈夫ですよ。何かとっかかりがつかめそうな気がしてきてですね。考えてみようと思ったのです。」

 妙にしつこく言ってくるソドに対し、ユグスはますます困惑した。

「ですが、誰にも貸すなと言われています。ここで一緒に考えましょう。」

「…そう時間もないのです。ですから、お借りしようと思ったので。」

「忙しいのでしょう。無理しないで下さい。大丈夫ですから。」

「そう言わず、貸して下さい。」

 ユグスが渡そうとしないのを見て、ソドが(いら)ついた様子を見せた。

「…ソドさん、どうしたんです?」

 ユグスはソドの様子が変なので、冊子を布団の中にしまった。何かおかしい。いつものソドではない。

「時間が無い。早く貸しなさい。」

「ソドさん、どうしたんですか?いつものソドさんではありません。何かあったんですか?」

「息子が死んでもいいのか!」

 いきなりソドが大声を出し、ユグスはソドを凝視(ぎょうし)した。

「…息子がって、セグのことか?一体、何を言っている?ソドさん、あなたは一体、何の話をしている?」

「時間が無い。悪いが今のあなたなら、私の敵ではない。」

「!ソドさん、何をするんですか!?」

 ソドが布団の中の冊子を(うば)おうとしてきたので、ユグスは奪われまいと抵抗した。

 その時、すーっと引き戸が開かれた。後ろの様子が見えるユグスは、思わず入ってきた男を凝視し、ソドはその気配にはっと後ろを振り返った。男は真っ黒のマントを目深に被っていた。懐に静かに手を入れて出し、何かを投げてきた。

 パンッ、と隣室の引き戸が開かれると同時に扇子が投げられ、男が投げた武器は弾かれて床に落ちた。その瞬間(しゅんかん)に男は逃げた。部屋の外では「追え…!」というエンスの声と複数の足音が響いた。

「今のはソドさん、あなたに向けられていた。あなたを口止めしようとした。口封じだ。」

 隣室から出てきたのはビレスだ。さらに、追うように命じていたエンスも入ってきた。

「兄上…エンス兄さん。これは一体?」

 不安になったユグスが尋ねると、二人の兄は困ったように顔を見合わせた。

「すまない、ユグス。お前は病だ。あまり心配をかけると体に良くないと言われて、お前には黙っていた。本当はお前に一番、関係があるのに。」

 ビレスの言葉にユグスは不安になった。

「もしかして、セグが渡していったこれと何か関係が?」

 布団の中に隠して、ソドに渡すまいとした冊子を出して見せた。ソドは今、ビレスとエンスの登場に大人しく黙って座っている。(あきら)めた様子だった。

「そうだ。関係がある。実は謎の組織の男がセグに接触してきた。その男が言うには、昔からヴァドサ家には、その組織の密偵がいるらしい。そして、セグはその冊子を発見した。おそらく、密偵が隠していた重要な何かだと察したセグは、わざとお前に渡し、密偵が取り返そうとやってきた所を捕らえるように作戦を立てた。」

「…わざと?」

 ユグスは聞き返した後、苦笑した。

「なるほど。どうりで、分からなくてもいいわけだ。私はまんまと(おとり)に使われたというわけだな?」

「すまない、お前にも内緒にして。」

 ビレスとエンスは謝った。

「兄さん達、謝らなくていい。セグらしくて、それにあの子が賢いことが証明されて嬉しいだけ。…でも、本当にソドさんが?」

 ユグスは床に座り込んでいるソドを見つめた。

「私達も意外だった。誰が現れるのか、全くの謎だった。」

「まさか、あなたが密偵だったとは思わなかった。先祖代々、当家に仕えてくれているあなたが…というか、あなたの家がと言うべきなのか。」

 エンスとビレスが言うと、ソドはため息をついた。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ