教訓、三十三。時は得難くして失い易し。 3
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そんなに難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
ただ、転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
セグの言葉を聞いて、ドリスの腕が下がった。掴んでいた胸ぐらから手を放す。
「……それは。分かってる。公になったら、重罪だってことは。でも、なぜか事件は公にならず、嘘をついた私達にお咎めはなかった。だから、曖昧な感じで流れてしまって、それはそれでいいかって思っていたのは、そうだけど。」
「曖昧な感じになったのは、レルスリ殿のおかげだ!!もし、公になっていたら、どうなっていたか!厳罰に処すと息巻いていた陛下を、宥めて大事にならないように、レルスリ殿がして下さったんだ!
もし、公になっていたら、ヴァドサ家もルマカダ家も、何よりシーク兄さんも、そして、私達も大変なことになってた!!
私達は今頃、処刑されてるか、牢屋に入っているんだぞ!!こんな風に話なんて、している暇はなかった!ヴァドサ家も名家の名が地に落ちたと言われただろうし、ルマカダ家がヴァドサ家を嵌めたとか、言われることになっただろう!
私達は、どれほどのことをしたのか、もっと反省するべきだ!罪に問われなかったから、良かったと安穏としている場合じゃない!陛下が先日来られた意味を分かっているのか!陛下は直接、罰を免除してもいいのか、確認しに来られたんだぞ!ヴァドサ家の家風にしろ、どういう家か見に来られたんだ!
そんなことも分かってないのか!母上のことを顧みない伯父上が薄情だと!?母上の方が薄情だ!シーク兄さんの出世を止めるためだけに、やってはいけないことをしてる!シーク兄さんの命を奪おうとしたんだぞ!伯父上に斬り殺されてもおかしくないのに、伯父上はそうしなかった!!」
つい、口が滑った瞬間、ドリスの顔色がさっと青ざめた。
「……嘘だ。嘘に決まってる!母上はそこまでしない!」
「してる!嘘じゃない!事件のねつ造だって、母上は知っていた…!むしろ、もっと公になるようにするべきだと口を出した…!お前だって、分かってるだろうが!」
「…でも、母上は一人で孤独だ、だから、そんなことをして…!」
セグの正論に言い返せなくなったドリスは、そんなことを言い出した。
「何が孤独だ…!父上は母上を大切にしてた…!父上を顧みなかったのは、母上の方だ!母上の方が、先に父上を捨てた!」
「やめなさい、二人とも!」
その時、母のチャルナが二人の間に入ってきた。
「分かりました、どうせ、全てわたしが悪いんでしょう!なんとでも言いなさい、セグ!でも、弟に当たるのはお門違いです!」
チャルナの声に、セグは急に気持ちが冷静になっていくのを感じた。
「母上。お門違いではありません。私達はシーク兄さんを嵌めるために行動した。間違いない。母上。離縁してヴァドサ家を出て行く時まで、これ以上、何も問題を起こさないで下さい。私は母上に何も望みませんが、これだけは頼みます。これ以上、私を失望させないで下さい。」
「セグ!親に向かって何てことを言うの!」
「先に失望させたのは母上です。」
「お前は誤解しているのよ…!わたしはずっと、ルマカダ家出身だというので、肩身の狭い思いをしてきた…!今だってそうよ!みんなわたしが悪いと言う!みんなして、わたしを責め立てる!」
「母上。それは違います。ヴァドサ家になじめるよう、努力を怠ったのは母上です。ルマカダ家だということで鼻にかけ、威張り散らしていた。それが威厳を保つことだと勘違いしていた。子どもの頃から、母上が威張り散らしているのが嫌でした。」
「何を言っているの、ルマカダ家の威信を示すためよ…!わたしが示さないと、誰が示すというの…!」
「母上。そこからして、間違っています。なぜ、ヴァドサ家に嫁に来て、ヴァドサ家の中でルマカダ家の威信を示さないといけないんですか?仲良くすればいいでしょう。なぜ、伯母上に張り合っていたんですか?伯母上は総領の妻ですよ?」
チャルナは思いがけないことを言われたかのように、きょとんとした。分かっていなかったのだ。嫁に来てからずっと。いや、分かろうとしなかったのだろう。ケイレに張り合いたい気持ちが先走って。
「母上、もし母上が、郷に入ったら郷に従えという諺を理解していたら、自然とルマカダ家の威信は示せたはずです。
母上の不満は分かっています。伯父上と結婚できなかったからでしょう。母上は勝手に総領の妻になれると思い込んでいた。でも、実際には違うと分かり、母上は大騒ぎした。ヴァドサ家の方もびっくりして、婚約はせずにこの結婚は縁がなかったことで、終わらせようとした。
でも、ルマカダ家のお祖父さまやお祖母さまがヴァドサ家に泣きついて、こんな娘だから誰も嫁のもらい手がない、総領の嫁でなくてもいい、とにかく誰かが結婚してくれと頼み込んだ。
それで、父上が母上と結婚することになった。ヴァドサ家でも母上が婚約式の席で大騒ぎしたのを見たので、躊躇していたのに、父上は予定通り、自分が結婚すると申し出た。
でも、お祖父さまとお祖母さまは、母上に総領と結婚できるようになったと偽った。ところが、本当は違った。ルマカダ家のお祖父さまとお祖母さまが、母上に嘘をついたのが、そもそもの原因です。
でも、だからいって、受け入れてくれようとしている相手を深く傷つける真似はよくありませんでした。さらに、伯母上がヴァドサ流の高弟子の道場主の娘とはいえ、ルマカダ家に劣ると馬鹿にして、シーク兄さんに目をつけて、いじめ続けたのは大人のすることではありません。」
セグは、きょとんとした後、セグが一連の流れを知っていることに驚愕している母に、さらに言った。
「母上。ヴァドサ家が自分を受け入れてくれなかったと文句を言う前に、自分がしてきたことを振り返って下さい。自分のことを棚に上げるとは、まさに母上のことです。一人、孤独なのがなんですか?自業自得です。」
セグは呆然としているチャルナとドリスを後に残して立ち去った。
星河語
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