教訓、三十三。時は得難くして失い易し。 2
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そんなにむずかしくありません。本当です!魔法は出てきませんけど……!
さらに転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
あっという間に、約束の期日が迫っていた。
「ナーク兄さん、これ。」
軍師・戦略部門の資料室で、セグはナークに資料を渡した。二人はせっせと資料を集めてまとめていた。
「ナーク兄さん。」
「何だ?」
「許してくれてありがとう。」
作業している手を止めて、ナークは右横のセグを見やった。
「シーク兄さんと仲直りしてから言え。」
「うん、分かってるさ。それに…手伝ってくれてありがとう。」
「何を今さら。お前のこんな作業、手伝えるの私くらいしかいないだろ。ギーク兄さんはどちらかというと肉体派だし、イーグは飽きっぽいというか、一応やってても適当だしな。シーク兄さんだけがまめに手伝えるだろうけど、今はいないから私しかいない。」
ナークは手元の資料を書き写した。
「ナーク兄さんのおかげで、どんどんはかどるよ。」
二人はしばらく黙々と作業した。
「ナーク兄さん。」
「何だ、今日はよく喋るな。」
「ごめん。でも、もし…仮に私に何かあったら、ナーク兄さんにこの作業を引き継いで欲しいんだ。」
ナークは作業の手を止めてセグを見つめた。
「お前…。死ぬつもりか?やめろ。みんなで話し合っただろ。一人が犠牲になるような真似はしないと。父上、母上、ギーク兄さん、イーグ、そしてレルスリ殿も交えて話し合って決めた。ヴァドサ家みんなで乗り越えるって。」
セグはうつむいた。
「分かってる。でも、期日が迫ってきたら…不安なんだ。本当に上手く行くのかって。怖い。まさか、母上が自ら突破口を開いてくれるとは思わなかった。」
実はチャルナはユグスと離縁すると言い出した。嫁いでからずっと、自分はヴァドサ家になじめず、一人取り残された気分だった。もう、我慢の限界が来た。だから、離縁すると言ったのだ。自分一人が出て行くから、子供達はおいていく。そう言って、ユグスやビレスとの話し合いもすんなり終わった。
ただ、シークの結婚式が終わってから、離縁するということに決まった。
そして、チャルナは自分の身辺の整理を始めた。チャルナが捨てようとしていた物の中に古びた日誌のような物があった。何気なく拾ったセグだったが、一応、回収しておいた。後で眺めていた時、ふと気がついた。暗号が混じっていることに。
慌てて最初から読み直すと、全て暗号で家の名前と人の名前が書いてあった。どういうことか分からなかったが、セグは内心で確信した。これはあの男が言っていた、謎の組織黒帽子の先祖代々の密偵だと。その名前が書いてあるのだろう。
念のため弟のドリスに頼んで、その書物について母に確認して貰った。
「母上、この古びた日誌のような書物はなんですか?こんな物を母上がお持ちなんて意外ですね。」
「そんな本、私の物ではありません。なぜか混じっていたの。ちょうど良いから捨てて燃やしてしまおうと思っていた所です。」
「母上、いらないなら貰っておきます。なんか分からないけど、後で役に立つかもしれないし。」
「お前がいいなら、いいわ。」
こうして、ドリスは確認して、隠れて様子を伺っていたセグに手渡した。
「助かった。」
冊子を懐の中にしまい、行こうとしたセグの服の袖をドリスはつかんだ。
「セグ兄さん。最近、変だ。どうしたんだよ?最近、私達を避けてる。そして、ずっと本家の方にばかり行ってる。父上のことだって、そうだ。伯父上は私達に相談もなく、父上を本家の方で療養させている。伯父上は総領だ。相談はなくてもいい。でも、せめて後でその理由くらい教えてくれもいいのに、絶対に教えてくれない。
しかも、前からかかっていたゴーズ先生を代えて。ゴーズ先生は長年、ヴァドサ家とよしみがあるのに、相談もなく勝手にカートン家の医者に変えたと言って、かんかんになって怒っていた。
セグ兄さん、どうしたんだよ?おかしい。なんで私達には教えてくれないんだ?せめて、弟の私にも教えてくれないのか?何か隠しているだろ?陛下とバムス・レルスリが来た日、あの日から変だ。セグ兄さんは次の日、母上と言い合ってた。その後から、ずっと変だ。」
確かに変だとドリスだって気づくだろう。でも、どうやって説明したらいい?母が父を殺そうとしているから、毒を盛っている形跡があるから、本家の方に父を移し、医者も代えたのだと。
「……父上が本家にいるから、そこにいるだけだ。」
「嘘だ。違うだろ。他に理由があるだろ…!答えろよ…!セグ兄さんは母上を捨てるつもりなのか…確かに、母上はこんなだけど、でも、母は母だ…!出て行こうとしているのに、誰も止めない!みんな、薄情だ…!伯父上もみんな、結局、母上がルマカダ家の出身だから、受け入れたくないんだろ…!」
「黙れ、ドリス!!何が薄情だ!」
セグは怒鳴った。
「なんだよ…!!」
ドリスが胸ぐらを掴んできて、お互いにつかみ合った。
「お前達、何をしているの!?」
二人の怒鳴り合いに母のチャルナが走ってきた。だが、二人は無視した。
「ドリス、お前は何も分かっていない!薄情なのは、母上の方だ!!母上が何をしたのか、伯父上と父上が、どれほど苦悩しているのか、何も、何も、分かっていない…!
あの、伯父上が!総領で厳しい顔しかしらない伯父上が、泣いていたんだぞ!!どれほどのことを、母上がシーク兄さんに対してしたのか、お前は知らないんだ!」
「だから、教えろって言ってんだろうが!!言えよ、一人で悩んでないで!!こっちは、セグ兄さんが自殺でもするんじゃないかって、思うほど暗い表情しているくせに、なんで 何も言わないんだよ!!」
「言えるか!!言えないから、悩むんだろうが!!分かってるか、私達がシーク兄さんに対して、どれほどのことをしたのかを!!シーク兄さんは死ぬ所だったんだぞ!!レルスリ殿の前で自分は死ぬと言って、短刀抜いて頸動脈に当てたって!慌てて宥めて、ニピ族に武器を抑えさせたって、そう言ってた!
分かってたはずだ!シーク兄さんの性格を考えたら、そんな疑いをかけられたら、自害するって言い出すって!それなのに、私達は事件をねつ造して、嘘をついた!陛下の前でも嘘をついた!どれほどのことをしたのか、分かっているのか!」
星河語
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
ブックマークありがとうございます!!




