バムス・レルスリの顔 6
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。
ただ、転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
店主は思わず彼の目を吸い寄せられるように見つめた。
「黒帽子の目的…彼らの目的は内戦です。」
「!」
店主は目を丸くしたが、バムスは冗談を言っている様子はない。
「そのために、セルゲス公の命を狙っていると?」
「そうです。あなたなら、お分かりでしょう。」
「…確かに彼がいることで、前政権の者達が不満を飲み込んでいることは事実。王太子が従弟を弟のように可愛がっていて、今も王太子の座を返すと公言している。それがあるのでセルゲス公派は、生きている限りいつかは王位をと考えている。
もし、死ねば将来の希望が絶たれて、適当な王族を擁立して、実力行使に行く可能性がある。
適当な王族と言えば、今上国王の子供達になる。他の有力な候補となる王族は…レルスリ殿、あなたが抹殺しましたからな。」
「……抹殺とは言いがかりです。陛下に対して兵を起こすと言い、実際に用意をしていたので、誅されたまで。」
「妙に手回しが良かったように記憶していますが…。まあ、いいでしょう。しかし、あなたが助けを求めていると、どうやって分かるんでしょう。身分を証明する物がなければ、無理ですな。たとえば、このサミアスなどは分かりますが、他の代理人となると…。」
「あなたの懸念はもっともです。全ての代理人とは言いません。サミアスか私のニピ族達のいずれかと、ヴァドサ家の人達です。」
店主はまじまじとバムスを眺めた。
「ヴァドサ家の者ですと?」
「はい。特にセグ殿が一番、来る可能性が高い。後はシーク殿の弟達でしょうか。誰がくるか分からないので、ヴァドサ家の者としています。ヴァドサ家ならあなた達も分かるでしょうし、身分もはっきりしています。」
「……。」
店主はじっと返事を待っているバムスを眺めた。美しいが油断ならない相手である。
「分かりました。いいでしょう。私もレルスリ殿が窮地に陥るとは思いませんが、もし、そうなったらそうなったで興味がある。どんな窮地があなたを襲うのか…。」
そう言った後、店主はバムスの反応を見るため、サリカタ王国では禁句になっている事件を口にした。前国王ウムグ王と今のボルピス王、二人揃って人々に噂することを固く禁じた。今では知らない人も増えた事件だ。
「およそ二十年ほど前、あなたがまだ二十歳そこそこくらいだった頃、ロロゼ王国での事件を思い出しますな。和平交渉に行った先で…。」
ガキンッ、と音がして店主の目の前に火花が散った。
最後まで言う前にサミアスが問答無用で鉄扇を振り下ろし、店主の護衛の剣士がそれを防いだのだ。
「旦那様を侮辱するのは許さない。」
サミアスが殺気も露わに獣のように唸った。
「サミアス。下がりなさい。」
「……。」
サミアスは黙ったまま、剣士と睨み合っていたが、もう一度、バムスに名前を呼ばれて仕方なく引いた。
「私の護衛が失礼致しました。」
「いいえ。私がわざと言ったのです。あなたの反応を見るために。」
店主は言って、腹をくくった。
「いいですか。黒帽子を相手にするなら、一つ教えておきましょう。彼らは昔のことをほじくり返すのが好きです。特に誰かの傷となっているような事件が使われます。
あなたのロロゼ王国での事件は、近隣諸国を巻き込んだ大事件だった。あなたは完全な被害者ですが、しかし、こういう見方もある。全てあなたの策略だったのではないかと。」
「……。」
バムスは淡々としているように見えた。だが、店主は確信していた。サミアスの反応から、バムスにとっても心の傷となっている事件だと。だから、確認も踏まえてバムスに言った。
「あなたの策略だったにせよ、そうでなかったにせよ、あの事件は黒帽子がほじくり返して、あなたをもう一度傷つけるにふさわしい事件です。ちょっと、お耳をお貸し下さい。」
そう言って、店主はある情報を告げた。案の定、近くで見れば淡々としているように見えたバムスが、動揺したのが分かった。明るい茶色の瞳が一瞬、揺らいだ。呼吸も少し乱れた。その後、目を軽く伏せて戸惑いも含んだ苦しそうな表情を浮かべた。
もし、バムスが女性だったら、店主は抱きしめてしまったかもしれない。傷ついたのが分かったので、慰めたくなったのだ。断っておくが、店主は別に男性が好きなわけではない。普通に女性が好きである。だが、そんな表情をされると、途端に妖しさが増す。
「…旦那様。」
サミアスが心配そうに声をかけた。
「心配ない、サミアス。」
バムスは吹っ切ったように顔を上げ、にこやかに笑みを浮かべる。
(…そうか。奴の笑みは全て仮面か。弱点を悟られないようにするための。)
バムスの弱点を確信した店主は納得した。考えてみれば、王の甥王子と似たような経験の持ち主だ。だから、さっきバムスはセルゲス公の命で、都のサプリュの安泰を買うような真似はしないとはっきり断言し、怒っていたのだ。
人が羨むような美貌は持って生まれない方がいい。それが、マウダで生きている店主の考えだった。
(お前達に同情する。利用し尽くされるぞ、黒帽子に。)
店主は思いながら、バムスの短刀と『流水』を取り替えるために剣を取りに行かせた。
それにしても、黒帽子とマウダに繋がりがあると考え、そして、マウダと黒帽子が同じ組織ではないことを確認して、手を結ぶことを提案してくるバムスは大した奴だ。あまりに大胆なので、少し手伝ってもいいかと思う。マウダは黒帽子の下部組織ではないのだ。それを分からせないといけない。
少し煮え湯を飲め、と店主は黒帽子に対して思ったのだった。
星河語
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