バムス・レルスリの顔 3
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。
ただ、転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
バムス・レルスリ氏、穏やかな貴公子のように見えますが、なかなかにしたたかな方ですね。
「分かりました。ところで、取引の前に一つ確認させて頂きたい。我々に何を要求なさるおつもりで?」
「…そうですね。」
バムスは軽く右手を握って顎に当てて、中空を見つめるように考え始めた。つまり、何を要求するかは未定のまま、とりあえずマウダに貸しを作りに来たのだ。
それに気づいた店主は苦々しく思いながらも、見た目以上に骨太なバムスをある程度評価し始めていた。
(なんていう奴だ。異性関係が派手だという噂でかき消されるが、実際にはただの優男じゃない。)
内心で店主は呆れつつも感心した。店主には彼が浮かべる微笑みよりも、そういう考え事をしている時の表情の方が、危ないように思えた。表情と言動の落差が大きく、驚かされてしまう。そういう所に彼の本当の魅力があるような気がした。
「その貸しの要求について答える前に、私も確認したいことがあるのです。」
しばらく考えた末にバムスは答えた。人を待たせて考え事をしているが、全く自分の調子を崩そうとしない。早くしなければと思わないようだ。
「…確認ですか?いいでしょう。」
どうぞ、と店主は手でバムスを促す。
「黒帽子とマウダ、ニピ族とマウダ、一体、どのような関係なのですか?」
がたっと音がして、店主の護衛が姿を現した。同時にサミアスが鉄扇を抜いて構える。店主は手を上げて護衛を下がらせた。
「構わん。」
「ですが…。」
「いいから、引け。」
店主の護衛は渋々引き下がる。
「ニピ族とマウダの関係については、その護衛に聞いた方が早いのではありませんか?」
「それが…言葉を濁して教えてくれません。それで、あなたなら何か教えて下さるかと思いまして。」
「もう、あなたの発言には驚きません。色々とよくご存じだ。それで、どうして黒帽子とマウダが関係あると思われたのでしょう?」
「どうも、情報をいろいろと調べた結果、黒帽子とマウダは関係があるようです。黒帽子の依頼をむげに断れなかったのか、そういう行動をしている様子でしたので。仲間なのですか?私はてっきり、黒帽子とマウダは関係の無い別の組織なのだと思っていましたが、見当違いだったのでしょうか。」
店主はくくく、と笑った。
「いいえ。見当違いではありません。全くもって正しい。別の組織ですが、ちょっと込み入った事情があって、無視も出来ないというところ。
しかし、これ以上いけば、一応同盟関係のようなものが決裂して、衝突する事態になるかもしれません。私達は彼らの下部組織ではない。下部組織扱いされるのは、我慢なりませんからな。」
店主はわざと内部情報をバムスに教えた。これで尻込みするかどうか…。尻込みすればそれまでの男だ。
「ああ、良かった。」
バムスはほっとしたように笑う。
「実は同じ組織だと言われたら、どうしようかとドキドキしていました。それで、ニピ族との関係はどうなんですか?」
すると、サミアスが落ち着かなくもぞもぞと動いた。めったにニピ族が落ち着かなく動くなんてしない。
「……実に簡単な理由ですな。」
店主はサミアスを見上げながら、呆れたように口を開いた。
「面倒だからです。本当に面倒な輩ですからな。」
はあっ…とどこか馬鹿にしたような様子で店主はため息をついた。
「…そんなに面倒だと言わなくてもいいではないか…!」
突然、サミアスが怒りだしたので、バムスはびっくりして彼を振り返って見上げた。
「愚弄しおって…!!」
「ふん、本当ではないか。ほら、お前の旦那様がびっくりしておられるぞ。」
店主に指摘され、サミアスははっとした。
「は…申し訳ございません、旦那様。」
「そんなに怒ることなのか?」
旦那様であるバムスに困ったように聞き返され、サミアスは口ごもった。
「単純です。昔、マウダが間違ってニピ族が護衛についている者を攫ったことがあった。そうしたら、怒り狂って大勢を殺し、大惨事になった。そんなことが二、三回も続き、お互いに契約を結んだという次第。
ニピ族が護衛についている者は攫わない。そして、そっちもこっちの家業について、横やりを入れない。邪魔もしないと。」
「ああ、そういうことですか。何かもっとよほど重大なことが隠されているのかと。」
思わずポロッと出たバムスの本音を聞いて、サミアスは後ろでうっと胸を押さえる。それを見た店主はさらに、くっと笑った。
「実は彼らが怒るのには理由があるのですよ。こっちにしてみれば、言いがかりみたいな理由なのですがね。」
「何ですか?」
「主君を選ぶ基準について、とやかく言われることに繋がると思うようなんです。」
頭の切れるバムスだが、さすがにニピ族の思考が読めなくて首を傾げた。
「普通、繋がらないでしょう。」
店主は面白そうにサミアスを見上げた。
「でも、お前らが悪いのだ。ニピ族であるお前らが容姿の整った者ばかりを主君に選ぶから、マウダが間違って攫う事態が生じる。面食いだからそうなる。」
一瞬、目を見開いたバムスだが、次には思わず笑っていた。
「!だ、旦那様…!く、お前が余計なことを言うから…!誤解されるではないか…!決して、顔だけで主君を選んでいるわけではない…!それだけで選んでいるような口ぶりで話をするな!」
「ほら、“顔だけで”ときた。どこが違う?」
「く、貴様…!揚げ足を取るな!」
星河語
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