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バムス・レルスリの顔 2

「全く、これだからニピ族は。現状を言っただけですぞ。実際に(うるわ)しいご容姿のレルスリ殿だ。(さら)われそうになってもおかしくないですな。」

「男達の根城に連れて行かれました。マウダに売る前に服を脱げと言われて、呆然と彼らを眺めていた所、助けられました。」

「ふむ。助けたのは、その後ろの護衛ですか?」

「そうです。その当時、サミアスはまだ私の護衛になるか決めかねていたそうですが、私が攫われたと知らせを聞いて、助けに走ってきてくれました。彼とはそれ以来の縁です。それで、『流水』は買い戻し出来ないのですか?」

「……困りましたな。それは今回の目玉商品なので、ないと困ります。それに匹敵するような目玉商品がないと。」

 そう言って、バムスをじっと見つめる。つまり、それに匹敵する物々交換なら応じるということだ。

「そうですか…。やはり、そういうことですね。」

 バムスは少し考える素振りを見せた後、懐に手を差し入れ、持ってきていた短刀を取り出した。

「旦那様…。本当にそれを手放されるおつもりですか?」

 後ろからサミアスが止めにかかる。

「サミアス、仕方ない。」

「ですが、めったに手に入れられない貴重な品です。武器としても優れたものです。」

 サミアスの反応に、ほう、と店主がその短刀に目を向ける。(かげ)で店主の護衛をしている者も興味をそそられた様子だ。天下のレルスリ家である。一体、どんな物を持ってきたのか、注目が集まる。実際に安物を持ってくるわけにはいかない。特にこういう裏の者と取引をする時には。

「“虹の金”配合の短刀です。私が危なっかしい子供だったので、祖母が心配して作らせて持たせてくれました。怪我をする前までは、それなりに剣術も頑張っていましたので。」

 “虹の金”は特殊な金属で、非常に価値がある。作られる温度によって七色に変わるため、虹、そして、()びないので金と似ているから、金の特性があるということで虹の金と呼ばれている。武器に合金として配合すると、鉄でさえ切れるようになる。

 作るには許可が必要で、実質コネや金がないと作ることはできない。出回る場合は相当の高額になる。闇で取引される場合は尚更のことだ。

「“虹の金”ですと!?」

「そうです。」

 バムスはにっこりして、短刀を(さや)から抜いて見せた。光に照らすと薄い黄緑色に輝いた。

「これは…。触ってもよろしいので?」

「どうぞ。」

 店主はマウダではなく、質屋の店主の顔のまま、(おどろ)いた様子で短刀を受け取り、光に照らした。

「…ふむ。見事だ。まさしく“虹の金”の短刀です。」

 気がつけば店主の護衛も陰から身を乗り出して見つめていた。剣士ならば誰でも喉から手が出る程、欲しい代物だ。

「これを本当に交換すると?」

「はい。」

「旦那様…!…それは、亡きお祖母さまの形見ではありませんか。」

 サミアスが思わずといった様子で声を上げた。慌てて咳払いしてごまかしている。

「サミアス。これも必要な投資だ。これで、マウダに貸しを作れるのならば、安いものではないか。…それに、亡きお祖母さまも人助けに使うなら許して下さる。」

 バムスがにっこりして言うと、途端に店主が短刀を鞘に収め、床に置いてすっとバムスの方に押し返した。

「我々に貸しを作ると?それに、亡きお祖母さまの形見となれば、受け取りにくい物ですな。」

「はい。貸しです。それに、祖母のことは気になさらなくていいですよ。」

 店主は腕組みをして、バムスをじっと観察している。

「おかしいですな。物々交換のはずですがな。」

「何を言いますか。この短刀は『流水』を買い戻してもおつりが来ます。そのおつり分を考えれば、かなりの貸しになると思いますが。しかも、私が持っていた短刀で“虹の金”配合ときている。貸しになるではありませんか。」

「……。にこやかに痛いところを突いてきますな。もう少し安い物はないのでしょうか?」

「まさか、安い物を要求されるとは思いませんでした。しかし、この短刀だと百スクルはくだらないと思いますが。」

「!」

 百スクルといえば、かなりの大金だ。確かにそれくらいの(もうけ)けは見込めるだろう。思わず店主はごくりと唾を飲み考え込んだ。この話に乗るかどうか。

「……分かりました。仕方ありません。百スクル以上の儲けが出るでしょうが、出直して別の刀剣など売れる物を捜してきます。二度手間にはなりますが、出直しましょう。サミアスの言うとおり、祖母の形見ですし。」

 バムスが短刀に手をかけ、取り上げようとした瞬間(しゅんかん)、店主が手を伸ばしてそれを引き止めた。

「いやいや、案外気が短いお方なのですな。もう少し考えさせて頂いても…。」

「こう見えても忙しいのです。やることがたくさんあるので、お(いとま)させて頂こうかと思いまして。」

「…つまり、今を逃せばこの短刀を売る機会は二度と無いということですか?」

「ええ、そうです。」

 店主はため息をついた。


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