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ヴァドサ家で起きた事件Ⅱ 2

 シークのことを言われて、セグは涙がこみ上げてきた。

「…はい。分かっています。私は…シーク兄さんに取り返しのつかないことをしました。もう…嫌です。もう、シーク兄さんに対して、そんなことはしたくない。」

「本当に重大な事件でした。陛下は激怒なさり、シーク殿の隊二十名全員を抹殺せよと命じられた。」

 セグは心臓が痛くなるほど、ぎょっとしてバムスを見つめた。そこまで深刻な状況だったとは知らなかった。というか、分かっていなかった。

「彼は自分に疑いがかかっていると分かり、自害して身の潔白を示そうとしました。そして、自分一人の命で部下達全員の命を助けて欲しいと願い出ました。」

 息が出来なかった。分かっていたはずだ。シークならそうすると。なぜ、自分はあの時、嘘を言ってしまったのだろう。涙が膝の上に絶え間なく落ちていく。拭うことさえできなかった。

「でも、結果的にあなたが彼を助けたのです。あなたが、こうして私と個人的に面談した時、陛下の前で嘘をついたと話した。震えながら真っ青になって、泣きながら嘘をついたと答えました。あなたの様子から、それが本当のことだと感じました。ですから、シーク殿の濡れ衣を晴らせました。」

 もし、晴らせなかったら…シークはこの世にいない。死んでいなくて良かった。殺してしまう所だった。従兄を殺す、その計画に加担していたのだ。なんて非道なことをしたのだろう。非情で…恩知らずだ。世話になったというのに。

 それ以前に大好きな兄同然の人なのに。一番、気が合って一緒にいる時間も長かったのに。

 セグは悲しみのあまり、息が出来なくなって目の前が回った。

 気がついたら、部屋に横になっていた。

「気がついたようです。」

 バムスの護衛のサミアスの声がした。

「横になっていて下さい。」

 起き上がろうとすると、バムスの声が聞こえた。座布団を枕にして、額には水で濡らした手巾を乗せてあった。

「あなたが心から反省しているのは分かりました。目は痛くありませんか?」

 バムスが枕元に座って聞いてきた。悲しくて胸は痛いが目は痛くない。頭は少し痛いが。

「いいえ。目は痛くありません。胸は痛いですし頭も少し痛いですが。」

「血の混じった涙を流していたので、気になりました。悲しみが深いと血の涙を流すことがあるそうです。」

 泣きすぎると頭がぼーっとするが、今はそんな感じがしていた。

「ただ…聞いて下さい。反省しているからといって、そのままでいいわけではありません。罪は償わないといけません。」

 それは言われなくても分かっていた。

「はい…。そのつもりです。」

 バムスはじっとセグの表情を見つめていた。どういう考えか見極めようとしているようだった。

「どういうことを考えていますか?」

「私は…母の行動を怪しみ、母が…ヴァドサ家の家宝の刀剣を質に売りに出したことを突き止めました。」

 セグの発言に、見下ろしているバムスの表情が難しくなった。サミアスもやや驚いた様子を見せた。

「母が…シーク兄さんが十七の時、剣士狩りに遭いましたが、母の差し金だったようです。それで、母の物を調べた結果、剣を売りに出していました。でも…それはシーク兄さんが親衛隊になって任地に行った後で、シーク兄さんの嫌疑が晴れてからです。」

 セグはそこで息を吸った。

「母は一体、何をするためにお金を必要としているのか、分かりません。」

 嘘をついた。

「今日は…その質屋に行きました。そうした所、剣はルマカダの祖母が買い戻していて、無事に戻っていることが確認できました。実は、母の部屋に売ったはずの剣がしまわれていて、不思議に思っていたんです。

 でも、母は家宝だからと言って、遠慮するような人ではありません。ですから、謎が解けました。でも、お金の使い道までは分かりません。母に聞いても、私に言うはずもないでしょう。」

「何という質屋なのですか?」

「うさぴょん質屋です。」

 ふざけた名前に一瞬、バムスが目をしばたたかせた。

「…うさぴょん質屋ですか?」

「はい。ふざけた名前でしたが、まっとうに商売をしている様子でした。剣のことも調べてくれて、助かりました。

 実は帰る前に騒動に巻き込まれてしまったんです。」

「騒動ですか?」

「はい。帰ろうとしたら、チンピラのような風情の者達に絡まれたんです。しかも、国王軍を途中でやめた者が、訓練兵時代同期だった者だったんです。その男がシーク兄さんのことを…みんなで笑いものにするので、私はつい、かっとなって怒鳴って全員倒してしまいました。

 彼らはさらに文句を言おうとしていましたが、店の奥から出てきた用心棒に恐れをなして逃げていきました。

 その後、店の主人が興奮している私が落ち着けるように、客間に案内してくれてお茶まで出してくれたのですが…なぜか、お茶を飲んだら、その後、眠ってしまって。起こされた時は夕方でした。それで、遅くなってしまったんです。本当は質屋の後に軍に行って、調べ物をしようと思っていたのに。」

 バムスはじっとセグの話を聞いていた。

「そうですか。何を調べようとしていたんです?」

 セグはうっかり、余計なことをこぼしてしまった事に気がついた。

「……その。昔の記録とかいろいろです。」


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