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教訓、五。部下にも魔の手は伸びる。 8

 ダロスは若様の代わりに人形を背負って、駅を出た。その後を気づかれないようにフォーリとシークが追う。隊員達もわざと距離を取り、離れて追っている。相手は何かの組織らしいので、見張りがいて罠だと知られないようにするためだ。


 若様は駅でベリー医師と待っている。ベイルと半分の十人が護衛に残った。

 ダロスが馬で暗くなった街道を進んでいると、後ろから馬が追いかけてきた。思わずダロスは身構える。やってきたのか、それとも無関係の人間か。しかし、そこまで考えて普通の人が夜道の街道を馬で走らせることはあまりないことに気が付いた。


 主立った街道筋には灯籠(とうろう)が立っていて、火をつけることになっているが、ついていない道も多い。明かりがあっても、夜道の街道を走らせるのは危険だからだ。

 人を雇ってつけ回らなければならず、管理担当の貴族の懐状況によって変わるのだ。しかも、油代も馬鹿にならない。


 だが、ここはパーセ大街道で国が管理している。つまり、建前上は王室だ。馬車が走る道と馬が走る道に分かれており、もちろん人が歩く歩道もある。事故を防ぐために進む方向が決められており、馬車用の道には道路のすり減りを防ぐため、線路が()かれている。さらに、森の子族のための道を横断するための橋もあちこちに設置されていた。


 他の街道より安全とはいえ、夜道を馬で駆けてくるとなれば慣れた者に限られている。ゆっくり馬を歩かせる。馬車用の道を馬車が数台走っていく。夜になってもパーセ大街道の人通りは絶えることがない。

 後ろから馬が数騎追いついてきた。


「おい、二スクル。」

「!」


 完全にダロスのことだ。ダロスは馬の歩みを止めた。緊張で手に汗をかいている。ダロスは辺りを見回した。隊長のシーク達が来ているのか、分からなくて不安だった。このまま誰も追いついて来れないうちに、背負っているのが人形だとばれたらどうしたらいいのだろう。


「止まるな、歩け。」


 ダロスの隣に来た男に促され、ダロスは仕方なく馬を歩かせる。すると、先ほど通り過ぎた一台の馬車が少し行った所で止まっていた。停車する時は専用の路肩があり、そこで停車できるようになっている。


 きっとあの馬車に若様を乗せろと言われるはずだ。もう、ばれるのは時間の問題である。乗せる際に気づかれるに違いないから、その時にどういう風に相手を捕らえるか考えていた。一応、金を渡してくる男をダロスが柔術技で捕らえることになっているが、もしかしたら、先日接触してきた男ではないかもしれない。暗くて顔がよく分からないのだ。


「馬車に乗せる前に金を渡してくれないか。ここまで来たのだから逃げない。」


 ダロスが言うと、隣を歩かせていた男が(うなず)き、一人の男が近づいてきた。金を渡そうとする男を捕らえるかと身構える。

 だが、その前に馬車の前に到達した。


「乗せろ。」


 言われて仕方なくダロスは帯を取って、人形を外すと隣の男に投げつけた。


「!騙したな!」

「悪いな!」


 ダロスは言いながら、隣の男に手を伸ばした。袖を捕まえ引き下ろそうとする。別の男が剣を抜いてきた。だが、この男は捕まえたい。馬車の御者が客車の上に登り、(むち)を振り上げたのが見えた。


 ビュッ、と空を切る音がした。

 ドン、と何かが当たる音と共に御者の男がうずくまり、馬車の客車の上から落ちた。矢が当たったのだ。


 男達が後ろを振り返った。矢は別の剣を抜いた男に当たった。さらにもう一人にも当たる。これで三人が倒れ、残りはここに二人しかいない。だが、矢が当たった男達も死んでいるわけではなかった。まだ、生きている。


 ダロスは肝心の男の服の(そで)を引き、一緒に落馬した。この男はなんとしても、捕らえるのだ。だが、もう一人の男が加勢する。剣が道路脇の灯篭の光に反射して光った。斬られる寸前に横から剣が差し入れられ、(さば)かれる。シークだった。

 シークがダロスを狙った剣を受け流し、逆に男に攻撃を仕掛ける。剣が自分の体の一部であるかのように、自在に動く。数度打ち合った後、男の剣が飛ばされた。


「行け!」


 自分達が不利だと判断した、ダロスが捕らえようとしている男が命じ、シークが(とら)える前に、その男は馬に飛び乗った。だが、乗った所を素早く矢で射られて落馬した。矢を射っているのはフォーリだ。ダロスはその男と揉み合った。シークが急いで加勢に走ってくる。


 その時、ゴーッという異音に一同は振り返った。思わず見極めようと、暗がりの向こうを凝視(ぎょうし)する。

 音の正体は馬車だった。後ろから馬車が走ってくる。物(すご)い早さに危険を感じる。


「危ない、下がれ!」


 フォーリの声が聞こえた。


「フェリム、下がれ!早く!」


 シークの命に仕方なくダロスは従った。いつの間にか、戦っている間に線路上に出ていたから、下がるしかなかったのだ。


 その間に射られた男達が立ち上がり、走り出した。ダロスが捕らえようとしていた男も走り出す。停車していた馬車に飛び乗る。そして、停車用の車線に入ってきても速度をほとんど落とさない、走ってきた馬車が到達する前に走り出した。線路になっている分、滑らかに馬車が走り、衝突(しょうとつ)事故を起こした時の破壊力も(すさ)まじい。


 走ってきた馬車は少しだけ速度を落としたが、結局、停車せずに、また走行用の車線に戻って走って行

く。ぎりぎりで衝突を回避した。もし、あのまま突っ込んでいれば大事故になっていただろう。そして、自分達が関わっているとなれば、若様が問題に巻き込まれてしまったに違いなかった。


 シークはそうならずに済んで心底ほっとした。


「結局逃げられてしまいました。申し訳ありません。」


 ダロスはがっくり肩を落としている。


「確かに何かの組織のようだな。」


 フォーリがやってきた。鞍に弓を戻した。鞍につけられるようになっている。弓もかなりの腕前だ。シークは感心してしまった。


「すまない、取り逃がした。」


 シークは謝罪した。


「事故になるよりましだ。事故になって若様が関わっていると知られたら、大事になってしまう。」


 フォーリも同じ考えだった。


「すみません。私のせいで…。」


 ダロスはフォーリに謝る。


「若様がお許しになったから、私がどうこう言うことではない。だが、二回目はない。もし、もう一度、こんなことがあったら許さない。若様がどう仰ろうと私が手を下す。」


 ピシャリとフォーリは告げた。


「分かった。ありがたい、目を(つむ)ってくれて。」


 シークからも礼を言う。フォーリはそれには答えずに馬の(きびす)を返した。


「帰る。」


 そっけない一言を言って、さっさと馬を走らせていった。シークはため息をついた。


「…たぶん、フォーリは本当はお前を許してはいないと思う。ニピ族は(あるじ)に害を加える者を許さないからな。だが、若様のお気持ちを()んで…そして、親衛隊だという私達の立場を考えてそうしてくれたんだ。フォーリじゃないが二度はない。もし、二度目があったらフォーリじゃなく、私がお前を斬る。

 本来なら除隊だが、若様のご意向で隊に残るんだからな。」


「…はい。」


 ダロスは肩を落としたまま(うなず)いた。


「じゃ、帰るか。早く行こう。」


 シークはダロスの肩を叩いた。


「はい…。」


 ダロスは涙声で頷いた。

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