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ヴァドサ家の騒動 10

「さて、そういうことだから、今度機会があったら、グイニスをサプリュに呼び戻す。その時に正式にセルゲス公に任じ、シークを正式に親衛隊に任命する。その後、祝言を挙げるように命じてあるから、そのようにするように。」

 王は言った後、ナルダンを呼んだ。

「あれを。」

 言わなくてもナルダンは、(うやうや)しく布に包まれた木箱を差し出した。王はそれを一目見ると、ビレスの前に置くように手で指示する。ナルダンがビレスの前に箱を置いた。

「祝儀だ。受け取れ。」

 一瞬、驚いて目を丸くしたビレスだったが、慌てて頭を下げた。

「陛下、怖れながら、頂くわけには参りません。」

「ふむ、そう言うと思った。だが、受け取れ。これは、シークに対する褒美でもある。任務とはいえ、普通の者だったら、投げ出してもおかしくないほど短期間に次々と狙われたというのに、命がけでグイニスを守り続けた。だから、祝儀という形で褒美を取らす。受け取りなさい。命令だ。」

 きっと高額だろうと思いつつ、ビレスは仕方なく口を開いた。

「はっ、それではありがたく頂戴(ちょういだい)つかまつります。」

「ふむ。それから、ナルダン。あれを。」

 ナルダンは懐から、布にくるまった封筒を取り出し、ビレスの前に差し出した。

「私は初めてヴァドサ家に来たが、話に聞くとおり、古い建物が多い。あちこちがたが来ているようだ。

 それは、私の大叔父にあたるリッゲス公の屋敷の建て替えに使う予定だった、全ての物だ。もう、木材から全て建てるだけにしてあった。

 だが、建て替える前に大叔父が昨年亡くなってな。覚えているだろう。その材料がそっくり残っている。

 それをすべてやる。結婚式までに直さなければならない所は全て直せ。大工なんかも全てすぐに手配できる。結婚式に間に合わなかったからといって、途中で工事をやめるでないぞ。きちんと全て整えよ。」

 ビレスはびっくりしすぎて、すぐに言葉が出てこなかった。

「……し、しかし陛下。本来ならば王宮で使用すべき物です。それを我らが頂くなど…。」

「黙れ…!」

 王の目が鋭くなる。

「本当に親子(そろ)ってくそ真面目な。黙って受け取れとさっきから、申しておろう。お前がそんなだから、息子もあんななのだ。

 とにかく、適当に使うべき所がないから、ちょうどよい。そうでないと、せっかく用意した材料が全て無駄になる。大工達もせっかく一流を集めたのに、無駄になるではないか。後はバムスに任せる。バムスに聞いて屋敷の修理を進めよ。」

「はい、承知致しました。」

 ビレスの返事に、王は満足げに頷くと立ち上がった。

「さて、せっかくだから、ヴァドサ流の剣術を見学したいのだが。よいか?」

 よいかも何もない。王が見学に来るなど前代未聞の事件だ。光栄なことである。大急ぎで準備しなくてはならない。

「はい、それではただいま、準備して参ります。しばしお待ち頂けますか?」

「ふむ。バムスとここで待っておる。」

 ビレス達家族は深々と頭を下げると、大急ぎで準備しに走って行った。ところが、受け取ったはずの祝儀が全て置いてある。

「まったく。あれ達親子は肝心の所で抜けておるな。」

 もし、バムスの恋文の件がなければ、ケイレがしっかりしていただろう。だが、あれでケイレも動揺していたため、家族で忘れてしまったのだった。

「それにしても、さっきのはやり過ぎだったのではないか?」

 ボルピスがからかうように言うと、バムスは苦笑した。

「ですから、陛下、悪ふざけが過ぎると最初に申し上げたではありませんか。」

 するとボルピスはニヤリとした。

「まあな。まったくお前にかかれば、落とせない女はいないのではないか?」

 ボルピスは言っておいて気がついた。

「女だけではなかったか。男もだったな。」

 バムスは困ったように微笑む。

「陛下、お言葉が過ぎます。」

「何が過ぎるだ。まあいい。この件は任せたぞ。」

「はい。」

 しばらく待った後、呼ばれて二人は武道場に行ったが、そこでビレスに忘れていった祝儀を手渡した。ビレスはいたく恐縮したが、大勢の前で渡したので、内外に王ボルピスがヴァドサ家に出入りした事実が広まるだろう。

 こうして、久しぶりにボルピスは外出を楽しみ、帰って行った。

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