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ヴァドサ家の騒動 8

 だが、さっきからみんな、気になっていた。どう聞いても、王はシークと会っている。そうとしか聞こえない。会って話をしているようなのだ。それ自体が(おどろ)きだ。

「ヴァドサ夫人。母にしてみれば、辛い話だろう。だが、すまぬ。私はそんな状態のシークを(むち)打った。」

「!」

 家族全員、思わず王を凝視(ぎょうし)した。その(そろ)った動きにバムスはこっそり、笑いをかみ殺した。

「もちろん、理由はある。あれは自分が正しいと思ったら、頑固に言い張る。一歩も動かぬし、私相手でも引かぬ。口では怖れながらと言いながら、全く怖れておらん。その上、フラフラしているくせに、この私から言質を取りおった。」

 家族全員、同時に青ざめた。そして、次の瞬間(しゅんかん)、同時に「あの馬鹿が!」というような苦々しげな表情を浮かべた。

「私もシークの体調を考え、何回ほどなら耐えられるか聞いたのだが、罰なのだからできるだけ多く叩くべきだとか言ってな。カートン家の宮廷医も、グイニスのニピ族の護衛も、みんな今のお前達のような顔をしておったぞ。」

 王は苦笑した。

「まあ、シークが引かなかっただけではないが。あの場にいた者達を罰しようと思ったが、罰することができる適当な人材もいなかったのでな。最も全員の気の引き締めができる人材を選んで叩いた。」

 王の目線が鋭くなり、ビレスを始め家族は背中に戦慄(せんりつ)が走る。気づいたのだ。王がわざわざ「罰した。」と言った理由を。つまり、ヴァドサ家も気を引き締めなくてはいけないのだ。

「お前達も(うわさ)で聞いていただろう。家族としてはやきもきしたはずだ。特にヴァドサ夫人は気が気でなかっただろう。シェリアがシークに懸想(けそう)して追い回しているという噂を、聞いたはずだ。」

 それはその通りだった。シェリアが権力でシークをものにしたとかしないとか、そんな噂も流れていて、家族はみんなシークがそんなことをするわけがないと思っていた。婚約者のアミラも、真面目なシークが美女だからといって、簡単になびくわけがないと信じていた。

「…聞いたことがなかったのか?」

 黙り込んでいる家族の様子を見て、王が心配そうに聞き返した。

「いいえ、そうではなく聞いたのですが、本当にそんなことになったのか、にわかには信じ(がた)かったのです。シークは真面目な子です。相手が貴族の女性だからといって、簡単にそのような関係にはならないと家族はみな、思っています。」

 口下手な夫に代わり、ケイレが答えた。

「やはり、そうであろうな。だが、噂は真実だ。本当にシェリアはシークに()れている。そして、事情はあったものの、シェリアは二度ほどシークをものにした。そうだな、バムス?」

 突然、話を振られたバムスは困ったように苦笑し、家族はみんな仰天してバムスを凝視した。そこにいる家族全員の目が落ちそうなほど、見開かれている。

「陛下、どこまで話しても良いのでしょうか?」

「お前に任せる。」

 王はその辺の話をバムスに丸投げした。

「事情を説明しないといけませんが…シーク殿に対する連続強姦事件のねつ造の真偽を確かめるため、彼が本当にそんな人間か確かめるべく、私がシェリア殿に頼んで、そうして貰ったのです。」

 バムスは(おどろ)いている家族に説明を始めた。

「そういうことで、シェリア殿は言うことを聞かねば、彼も含めて二十名全員をクビにすると脅し、酒と薬を飲ませました。嫌だと言えば、彼の部下、副隊長を始め、気に入った者から順番に連れて行くという脅しをかけたので、シーク殿は言うことを聞かざるを得なかったのです。」

 みんなの目が点になっている。それは言うことを聞かざるを得ないというか…。そこまでするのかと驚いていた。

「それで分かったことは、シーク殿は真面目で誠実な人だった。事件はねつ造だと分かりました。

 その上、(ねや)でも彼は紳士だったので、シェリア殿は彼に惚れたのです。いわば、権力に物を言わされて貞操を奪われたわけですが、彼はシェリア殿に対して力で何かしようともしなかったし、仕返しを企むこともなかった。それで、シェリア殿はシーク殿にぞっこんに。」

 そこにいる親子はぽかんとして、バムスの話を聞いていた。

「シェリア殿が誰かに惚れている姿を見るのは、初めてのことです。私も大変驚きました。ことあるごとにシーク殿に言い寄り、彼を困らせていました。」

 バムスはシークとよく似た表情で驚いている家族、特にビレスと三兄弟達の表情を見るのが面白くなり、もう少し話して聞かせてみることにした。

「そういえば、シーク殿が寝込みを七人がかりで(おそ)われたことがありましてね。」

 ケイレはずっと両手を口元に当てていた。ビレスと三人の息子達はそっくりの顔で、目を白黒させている。少しずつ違うのだが、なんとなく似ている。それが、驚いた表情の時にそっくりな顔つきになるのだ。

「全員返り討ちにしたので、部屋中が血の海になっていました。カートン家の先生によると、深く眠らされる香を()かれていたようですが、かえって妙に覚醒し、その後、意識を失ったようです。

 シーク殿が目覚めた後、シェリア殿は彼の元に行き、彼の部下達の目の前で口づけしたそうです。」

 家族は息を呑んで驚いた後、シェリアの話を聞いて困り切ったような、苦い表情になった。

「だから、余計に陛下はシーク殿を鞭打ったのです。シェリア殿が彼を無理矢理にでも、物にしてしまえば、ノンプディ家とヴァドサ家の結びつきができてしまう。十剣術を取り込もうとする貴族や議員の動きが活発になってしまいます。」

「そういうことだ。」 

 しばらく黙っていた王が口を挟んだ。

「私はサプリュに戻った後、貴族や議員達に十剣術を政に取り込まぬよう、通達を出した。それでも、しばらくはやまぬであろうし、これからも続くだろう。お前達は決して取り込まれるな。ヴァドサ家はこれからも、何があっても中立を保て。」

「はっ。」


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