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ヴァドサ家の騒動 5

 こうして、イゴン将軍に連れられて、三人は王と謁見した。そこには、八大貴族の筆頭バムス・レルスリもいた。多くの女性と浮名を流していることで有名だが、実際に目にすると確かに端正な顔の人で年齢が不詳だった。とても若々しい。物(すご)く美男子だと言えば、他に別の人の名前が挙がるだろう。しかし、彼は落ち着いた(たたず)まいで、女性が心を(うば)われる理由は分かる気がした。いかにも貴公子という雰囲気を(まと)っている。

 その端正な顔に、今は(きび)しい表情を浮かべている。

 王はと言えば、眉間に(しわ)を寄せ、全身から怒りの気を発しているように見える。もし、こっちも従兄弟達のシークに対する讒言(ざんげん)を聞いて、怒りに満ちていなければ、とてもじゃないが顔を合わせられなかっただろう。それくらい、王の迫力が(すさ)まじかった。

 王は当然、シークの連続強姦事件のことについて聞いてきたし、普段の生活から、性格まで事細かに聞いてきた。三人は必死になって、シークのことを弁明した。このままでは全くの濡れ衣で、失職する可能性が高いし、牢に入れられてしまう。

 しばらく、やり取りを黙って聞いていたバムスが静かに立ち上がり、王に三人に質問する許可を取った。

「確認したいのですが、ここに来る前に審問官に審問されていたそうですね。どんな審問官ですか?」

 審問官について聞かれるとは思わず、三人は顔を見合わせたが、ナークが代表で説明した。従兄のリーグスと知り合いの上、ギークが言っていた内容も全て。

 王とバムスと謁見した後、三人は別室にいるように命じられた。

 やがて、家に帰っていいと言われ、呼び出しを受けるまでは出勤しないように命じられる。

 呆然と帰路についた三人は、はらわたが煮えくりかえるほど、怒りに満ちていた。三人が帰宅した時、従兄弟達はまだ帰宅していなかった。一度、ヴァドサ家の大門をくぐってから、それぞれの家に帰るので、必ず分かる。

 帰宅した後、すぐに殴り込みに行くというギークを宥め、母のケイレも呼んで父の書斎に赴き、事件のことを話した。

 当然、両親の目も点になった。

「…シークが、あの子がそんなことをするわけないでしょう!」

 ケイレが悲鳴を上げるように叫んだ。

「…まさか、チャルナさんがそこまでするとは…!わたし、話に行きます!」

「待ちなさい!お前まで焦ってどうする?」

「父上、これでも、まだシーク兄さんに対して厳しくして、叔母上には、リーグス兄さん達には(とが)めもしないんですか!」

 我慢も限界に来ているギークが、父のビレスに対して(いきどお)った。

「ギーク、黙りなさい。」

 少し落ち着きを取り戻したケイレがたしなめる。

「これは、家での確執がどうのという話ではない。もう、陛下の耳に入り、レルスリ殿が調べることになっている。つまり、私達が出る幕はないということだ。次元が違う話だ。チャルナにもリーグス達にも話を聞かねばならないし、一族でどうするか決める必要がある。」

「父上は、シーク兄さんのことを信じてないんですか!」

 ギークはビレスを(にら)みつけた。

「ギーク。私だってシークがそんなことをするわけがないと信じている。だが、私はヴァドサ家の総領だ。一方の話だけで判断するわけにはいかない。その上、今回の事件は、レルスリ殿がどう判断なさるかによって、決まる話だ。」

 冷静に父に返されて、ギークは拳を握りしめた。

「…本当に、父上はどうして…シーク兄さんのことになると、こうも薄情に冷たい態度でいられるんですか?もっと、慌ててもいい事件なのに、シーク兄さんが可哀想です!」

「ギーク…!黙りなさい!」

 ケイレが怒鳴った。

「お前達の父が、怒っているように見えないからといって、薄情だと決めつけてはいけません。本当は怒っています。でも、総領という立場では、冷静でないといけないのです。」

「……分かりました。母上。父上、申し訳ありません。」

 とりあえずギークは謝罪したが、憮然(ぶぜん)としたままだ。

「一つ質問ですが、父上。」

 ナークが言った。

「何だ?」

「レルスリ殿の判断を待たなくても、叔母上達に話を聞くくらいしてもいいのではありませんか?それに…レルスリ殿がシーク兄さんに対して、きちんと判断される方かどうか分かりませんし。」

 ビレスは黙って聞いていたが、イーグの方に視線を移した。

「お前はどう思った?」

 じっと黙っていたイーグは、慌てて顔を上げた。

「…どうって……。罠に()められている感じしかしませんでした。シーク兄さんが、親衛隊候補に挙がった時点で、休みの申請したんだなって思いました。そうでないと、あんなに都合良く北の任地から帰って来れない。変です、あれ。前々から準備していたにしても、何か大々的すぎるっていうか。誰か裏で手伝っている人、いるのかなって。」

「そうか…。ナーク。お前の心配は分かるが、レルスリ殿は公正な方だと聞いている。自分と親しいからといって、罪を犯した者を無罪放免にすることはないそうだ。」

 総領なので、何か聞いているとしか思えないビレスの言葉に、兄弟達は黙るしかなかった。

「つまり、レルスリ殿の判断を待って、それから叔母上達のことを話し合いで決めるということですか?」

 ナークの確認にビレスは頷いた。

「そうだ。腹立たしくても、レルスリ殿の判断が出るまでは、チャルナ達に会いに行くのを禁じる。もし、家であっても刃傷沙汰になった場合、シークの処遇に影響が出るかもしれない。分かったな?」

 兄弟達は仕方なく(うなず)いた。

「分かりました。」

「分かっていると思うが、誰にも話すな。結果が出るまでは。」

 父のビレスに口止めされて、三人はとりあえず退室した。実際に、父の言うとおりだったので、シークのために三人は誰にも何も言わずに耐えた。


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