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ヴァドサ家の騒動 3

「審問官。」

 ギークが前に出て、何か言いそうなのを抑え、ナークが前に出て口を開いた。ナークがそんなことをするのは珍しい。いつも、後から行くような性格だからだ。だから、ギークも(こら)えた。ナークはシーク以下イーグまでの四人の中で、一番、戦略的に考える人である。

「もし、従兄弟達の証言について確かめたいのであれば、私達の証言だけでなく、当家に赴き、家族全員、そして、一族、道場関係者も含めて全員の証言を得るべきでしょう。その上で、従兄弟達の証言が正しいかどうかを判断するべきです。」

「ふむ…。しかし、家族である。かばいだてする可能性があるので、証言として取り上げることはできない。」

「審問官、矛盾しています。もし、家族であるという理由で、証言として取り上げることができないのであれば、従兄弟達の話も証言として取り上げるべきではありません。」

「しかし、それはできない。事情があるのだ。」

 審問官の態度に、最初からシークを犯人に仕立て上げるための謀略だと確信したナークは、さらに追求した。

「審問官。確認しますが、もしかして従兄弟達は兄が親衛隊に任命された後、事件について黙っていられないので、告発するという内部告発の形で訴えたのではありませんか。だから、従兄弟達の証言については取り上げるが、当家の家族の証言については、取り上げるわけにはいかないということですか?

 もし、そういうことであるならば、審問官が担当すること自体が公平性を欠いています。審問官が従兄のリーグスと同期で仲が良いことは、私達も知っています。他の第三者に調べて頂くことを望みます。」

 ナークが言うと、明らかに審問官達の機嫌が悪くなった。

「それはできん。」

「なぜですか?」

「とにかく、できん。」

「正当な理由がない限り、却下できないはずです。審問官と訴えた者同士が知り合いだった場合、審問官を代えるように定められています。審問官を代えて頂くための手続きをします。」

 ナークの言うことはもっともで正しかった。

「逮捕するぞ。」

 審問官が言った。その言葉に三人は耳を疑った。

「何を言っているんですか?職権の乱用です。明らかに。」

 後ろでギークをイーグが必死になって押さえ込んでいた。飛びかかったりしないように。めったに怒らないナークでも、怒りで声が震えそうだった。

「ヴァドサ・ナーク、これ以上言ったら、貴様から逮捕すると言っている。」

「お前…!!」

 とうとうギークが怒鳴った。

「逮捕する理由はなんですか?」

「そんなもん、後からどうとでもなる。これ以上言ったら、貴様達の兄だけでなく、貴様らも面倒なことになるぞ。もし、何だったら全員、逮捕してもいい。」

「な!卑怯だぞ!!ふざけるなあ!!」

 ギークが吠えた。

「私はヴァドサ・シークが嫌いだ。お前達もな。どんな奴らにも公平で平等だと?ふざけるな。」

 審問官の一人が吐き捨てた。もう、審問官としての面すら被る気が無くなったらしい。そう理解したギークは、我慢の限界が来て鼻で笑った。

「あんた。ヨム審問官殿。私は知ってるぞ。あんた男色だろ。男が好きだ。別にそのことについて、どうこういうつもりはない。

 あんたがシーク兄さんを嫌いなのは、シーク兄さんに迫ったのに、鈍感だから全く気づかれなくて、素通りされたからだろ。その上、腹いせに寝込みを(おそ)ったのに、返り討ちにあって肩関節を外されて、剣を持てなくなった。しかも、シーク兄さんは眠ったままだった。ほうほうのていで逃げ出したって(うわさ)だよな。」

 ヨムの顔色が変わった。

「で、でたらめを言うな…!愚弄(ぐろう)する気か…!!」

「その通りだ…!ふざけたことを言っていると、本当に三人とも逮捕するぞ…!」

「へーぇ?やるつもりなんだな?お前達に頼んできたのは、分家のヴァドサ家の連中だぞ。こっちは本家だ。分かってるんだろうな?」

 シークは真面目で絶対に、家の名前を笠に着ることはないが、ギークはこういう時には使う。

「クグ審問官殿、あんたの右頬のかすり傷の跡についても知ってる。ならず者とやりあってできた傷なんかじゃない。シーク兄さんの寝込みを襲っても、眠ったまま返り討ちにするというんで、本当かどうか確かめるのが流行ったことがある。」

 ナークとイーグは後ろでため息をついた。妙なことが流行したものである。しかも、本人は全く知らない。寝ているからだ。実はその現場はナークとイーグも目撃した。なぜか、シークには、そんな妙な特技があるのだ。弟達も知らなくてびっくりしたが、敏感に殺気があるかどうか感じ取るようである。

「あんたの傷も、その時にできたものだ。あまりにシーク兄さんが返り討ちにして、大勢が全身の至る所の関節を外されたり、壊されたり、斬りつけられたりしたんで問題になり、本当に眠っているか、私達三人は上官と一緒に確認した。当然、シーク兄さんは本当に寝てた。

 その時に、怪我した人間の名簿を目にした。あんたの名前もしっかりあったな。」

「……見間違いだ。嘘を言うと、逮捕する。もう、三人とも隔離しておいてもいい。」

「一体、何の権限でそのようなことをするのだ?」

 兄弟達が抗議する前に、部屋の扉が開いて声がした。入ってきたのは、西方将軍のイゴン将軍だ。(きび)しい顔で審問官達を(にら)みつける。

「そもそも、君達二人がこの件について、審問すること事態が間違っている。その上、過去の出来事による私怨(しえん)の可能性を指摘され、逮捕を口にするとは、職権の乱用以外の何ものでも無い。」

 ヨムとクグは震え上がったが、それでもヨムは開き直った。

「しかし、申し訳ありませんが、将軍、私達のことを言えないのではありませんか?将軍も関係者に当たるのでは?」

 すると、静かにイゴン将軍は二人を見やった。

「この件について、調べるのはお前達ではない。国王軍の審問官が調べるのではなく、バムス・レルスリ殿が調べることになった。ヴァドサ家は国王軍に大勢が入隊している。そのため、軍内の審問機関では公正に調べることが出来ないというのが、その理由だ。」

 ヨムとクグの顔色がどす黒くなった。もしかしたら、二人で適当にシークの罪を作った後、嫌疑だけで証拠はなかったと適当に終わるつもりだったのだろうか。シークの親衛隊の任が解かれればいいだろうと、そういう考えで。

「…し、しかし、なぜ、軍に関係の無いレルスリ殿がお調べになるのでしょうか?」

 クグの質問にイゴン将軍は、厳しい顔のまま告げた。

「理由は先ほど言ったが、さらに言うならばヴァドサ・シークは、親衛隊に配属になり、任地に赴いた。王族の身辺警護に当たる者なので、陛下が関係者をお呼びになり、レルスリ殿に真相を調べるようにお命じになった。」

 イゴン将軍の言葉に、二人の審問官だけでなく、ギーク達三人も青ざめた。とんでもない問題に発展しているが、兄弟達には一筋の光明でもあった。もしかしたら、シークの冤罪(えんざい)を晴らすことができるかもしれない。

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