シェリアの祝儀 6
一度、シークは侍女の助言通り、みんなの所に祝儀を持って行った。
「隊長、どうでしたか?」
「無事に戻ってきたな。く…。」
何か言おうとしたウィットがロモルに頭をはたかれている。可哀想に。結構痛かっただろう。
「それで、隊長、何もなかったですか?」
女性に対する接し方の指導役、トゥインがずいと腕を組んで目の前に立った。
「……あー、そういえば、ノンプディ殿が転びそうになって、つい、助けてしまった。」
一瞬、トゥインを始めモナや、部下達一同は目を点にした直後に、
「何やってんですか!」
と一斉に抗議した。
「仕方ない。服が棚に引っかかってしまったんだから。その後、ノンプディ殿に今のは、たとえ、ベブフフ殿でも助けたのかと聞かれて、そうだと答えたら妙に黙ってしまい、その後に結婚祝いを言われた。」
すると、トゥインも微妙な表情になった。他の隊員達も『あー……。』という表情で黙り込む。
「それで、祝儀を頂いた。」
すると、ベイルが不安そうな表情になった。
「隊長、大丈夫ですか?大金じゃないんですか?」
「それが、若様はセルゲス公だから、それなりに整えるように、こんこんと説明された。陛下に命じられるということは、そういうことでもあるらしい。もう、私がどうこう言う段階ではないようだ。」
みんなもびっくりしているが、納得した表情を浮かべた。
「なるほど、そういうことなんですね。遠い親戚が陛下の弟君のグルワム公の親衛隊になったことがあったんですけど、隊長が結婚していたから良かった、っていう話を聞いたことがあったんです。どうしてかな、と思っていたんですが、そういうことだったのか。」
イワナプ流のジラーが言って、頷いた。
「子どもの頃の話だったから、全然分かってなかったんですけど。隊長が結婚してなかったら、結婚するとき、大がかりになって大変になるってことだったんですね。でも、名誉なことでもあるから、口に出して実は迷惑だなんて言えないし。」
やっぱりジラーは、最後に余計なことを言ってしまう。
「隊長、さっさと結婚しておけば良かったのに。」
ウィットが言った。それは、シーク自身が一番思ったが。それなりに気は使うが、こんなにお金も気も使わなくて済んだだろう。ただ、アミラにはいつ寡婦になるか心配をかけるが…。しかし、それはこれからも同じだと思い直す。
「…隊長、しかし、それ、どうするんですか?持って歩いたら物騒ですよ。誰か、魔が差して盗むかもしれないし。」
「あ、それ、俺も思いました。なければ、思わないのに、金ってあると魔が差すものなんですよね。旅館の使用人が盗むかもしれないし。」
ベイルの指摘にモナも同意した。
「俺の家は物騒な地区にあったから、ほんと、金の魔力を知ってます。隊長、俺に魔が差さないうちにしまった方が無難ですよ。」
モナが冗談めかして注意した。
「分かっている。新しい療養地に到着する前に、叔父か誰かに来て貰って渡すつもりだ。こんな大金、持っていたら心配になって、おちおち眠ってもいられないしな。」
シークは軽く笑って、みんなも笑う。
「じゃ、これ仕舞ってくる。」
シークは歩き出したが、床の小さな段差につまずいて、若様用に預かった封筒を落とした。
(あ、しまった…。)
と思ったが、目ざとくモナが拾い上げた。
「隊長ー?これ、何ですか?」
仕方ないので、苦笑いして白状する。
「それは若様用に預かった金だ。何でも、ノンプディ殿の話によると、ベブフフ殿は若様に支給されるはずの資金を横領するんだそうだ。だから、あらかじめ必要な資金を渡して下さった。」
みんなの目が点になった。
「はあ!?」
「何だって!?」
「なんてがめつい!」
一斉に大騒ぎになる。
「でも、陛下もそれをご存じだから、あんまり羽振り良すぎないように、だからといって、若様の生活が苦しくならないように、うまいこと調整しろと言われてな。」
今度もまた、みんなは目を白黒させて驚いた。
「陛下もご存じで、好きに横領させる……。ひどいな。」
「八大貴族は悪いって噂だったけど、こうなってくると、何か仕方ないような気もしてくる…。」
「ちなみに今のベブフフ殿が横領する話は、他言無用の話だから、誰にも言うなよ。」
みんな一斉にシークを睨むように凝視した。
「何で言ってんですか、隊長!だめじゃないですか!」
「だって、落としちゃったから、説明しないと納得しないだろうなって思った。」
シークが頭をかくと、みんなため息をついた。
「分かりました。これ以上、何かヘマして中身ぶちまけたりしないうちに、それ仕舞ってきて下さい。」
「ほんとだな、隊長って妙な所でドジだからさー、使用人が大勢いる所で転んで、しかも木箱の蓋が開いて、中身をばらばらまき散らしそうだ。しかも、階段なんかでやってしまって、階下に全部落ちていくっていう。そういう所を想像できそう。」
ずいぶんな言われようだ。しかし、全く否定できない所が痛い。
「分かった、ずいぶん信用がないし、早く仕舞うことにする。」
「それがいいです。」
みんなが頷いた。
「隊長、こういうのは、しっかり懐に押し込んでおかないと。普通、もっと奥に入れておくでしょう。」
あっと思った時には、モナがシークの懐に手を突っ込んで、さっき拾った封筒を押し込んだ。もう一つの封筒に気がついたはずだが、モナは何も言わずに手を戻した。
「ロモル、一緒に隊長を見張ろう。探索の技術を隠すのに利用した方がいいはずだ。」
ロモルを呼んで、そんなことを言う。みんな納得する。
「確かにそれいいな。」
「しっかり見張れよ。」




