表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/582

教訓、一。突然の出世には裏がある。 2

「そしてグイニス王子、セルゲス公です。」


 セルゲス公はリイカ姫の弟王子である。十歳の時に政変により、幽閉されていた。政変を起こした主は叔父であり、叔父が今は国王になっている。王子はセルゲス公の位が与えられたものの、病弱で気が狂ってしまっているという(うわさ)もあった。しばらく幽閉されていたせいらしい。絶世の美女であった母、故リセーナ王妃にそっくりな美少年だという。今は十三歳くらいである。


「可哀想な方ですが、この子…この方の護衛に就くと命がけって話です。大きな声では言えませんけど、例の女性が刺客を放ちまくるって噂ですから。」


 “例の女性”とは今のカルーラ王妃のことだ。王太子である息子の邪魔をする存在として目の敵にしており、セルゲス公を亡き者にしようと毎日計画を立てているという噂だ。


「セルゲス公の護衛はある意味、左遷(させん)って話ですよ。それか、例の女性から何か(ささや)かれてそっちにつくか。二つに一つっていう嫌な選択をしなくてはならなくなりそうです。」


 モナは言ってため息をついた。


「お二人とも敬遠されていますからねえ。リイカ姫の護衛になって北方の部隊に笑われながら、何もできずにぼーっと突っ立っている毎日か、セルゲス公の護衛になって、命がけで休む(ひま)がない毎日か、のどちらかです。

 でも、その中で一番可能性があるのが、セルゲス公ですよ。セルゲス公の位が与えられていますからね。親衛隊が必要なはずです。」


 探索(たんさく)などが得意なモナは結論づけた。


「…そうかもな。でも、どんな方の護衛であろうと、我々のやることは同じだ。誠意を持って、その身辺をお守りすることなんだからな。」


 シークの答えに隊員達がはあっ…。という顔をした。


「…なんだ、その顔は?」

「隊長ってだから、出世できないんっすよー。」

「…なんか、こう……。他人を()落としてでも行くぜ!みたいなガツガツしたやる気っていうか…。そんなのないんですか?」

「お前らな、他人を蹴落としてどうするんだ。」


 心配してくれるのはありがたいが、他人を踏み台にして出世しても意味はない。


「言っても無駄だってー。だって、隊長って精神が年寄りくさいからさ。」

「……。」


 心にぐさっと突き刺さった。今のは痛かった。年寄りくさいって…。


「分かる分かる、なんか、悟った仙人がダメじゃーって言ってるみたいな?」

「ああ、確かに言われてみれば。確かに仙人だよな。普通、あんな嫌がらせされたら怒り心頭だって。でも、受け流しちゃってさ。子供じみてんだろ、マントに落書きって。」


 先日の誰かの嫌がらせについて言っているのだ。何者かがシークのマントに落書きをしてあったのだ。誰なのか想像はついたが、追求しなかった。従兄弟達の誰かだろう。


「分かった、分かった、みんな。心配してくれるのはありがたいが、大丈夫だ。」


 シークが(なだ)めると、隊員達は仕方なさそうに口を閉じた。


「…しかし、隊長。実際問題として、殺されたりしないで下さいよ。」


 モナが真面目な顔で言った。


「殺人事件って親族間や家族間で多いんですよ。」

「…殺人って大げさじゃないか?」


 シークは思わず苦笑する。


「いいや、全然大げさじゃないですよ。はっきり言って悪質です。このままじゃ、隊長、下手したら牢屋に入れられますって。」


 モナはそういう事件の方面に詳しい。除隊したら、公警か民警に入る予定だ。ごく最近まで、国王軍が警察の役割を果たしていたので、事件を担当する詳しい人間も、隊の中に必ず一人か二人はいるようになっていた。


「…そうか、そうか、分かった、気をつけるよ。」


 大げさだと思うので、つい、返事がぞんざいになる。


「あぁ、もう隊長、全然返事に緊張感ないし。信じてないですよね?」

「まあ、気にするなって。」

「気にしますよ、隊長がクビになったら俺達どうしたらいいんですかって、話なんですけど。」


 モナは細かい。どうしても、性格と配属されている理由が探索方だから、仕方ない。

 こうして、部下達が慕ってくれる。確かにもう少し上に行くぞって思った方がいいのかもしれないが…。そうやって、やる気が空回りしてやめていく人を多く見てきただけに、やる気を中の上くらいに保っているつもりだった。


「隊長、ところでいつ頃、陛下に拝謁するんですか?」


 ベイルに聞かれてはたとシークは考え込んだ。


「あれ?そういや、管理長、いつって言わなかったな。まさか、今から!?」


 シークが慌てた時、廊下を慌てて走る音が聞こえてきた。


「おい、ヴァドサ!すまん、迎えが来た!明日かと思ったら、これからだと!」


 扉が勢いよく開いて、管理長が怒鳴った。


「えぇ!」

「大変です、早く着替えないと!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ