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教訓、三十二。交渉は結局、妥協でもある。 2

「それにしても、隊長。」

「うん、何だ?」

 ベイルが神妙な顔つきで口を開いたので、シークも少し身構えて聞き返す。

「さっきは何で、もっと強く言わなかったんですか!?あの人は、領主の使いで来た人ですよ!?はっきり言って、親衛隊の隊長である隊長の方が、上なんですよ、それなのに、あの横柄な態度の使いに言いたい放題言わせて、あれは馬鹿にしているでしょう!何で、言わせていたんですか!?もっと、強く言っても良かったはずです!」

 ベイルの抗議に、みんな忘れていた話の本題を思い出し、一斉に抗議が再開された。

「そうですよ!若様も隊長のことも馬鹿にしています!」

 一斉の抗議に押され気味だったシークだが、これも若様を思うが故であり、そして、シーク自身のことも思ってくれているからの抗議なので、そう思えば嬉しくなり、シークは思わず笑ってしまった。

「なんですか、こっちは真面目に言ってるのに、笑うなんて!」

「そうですよ!」

「はい、すみません。」

 シークは謝って真面目な顔を作ろうとしたが、結局笑ってしまった。

「なんですか、隊長…!」

「悪い、悪かった。ただ、みんなが若様を心配して、そして、私のことも心配してくれていると思えば、嬉しくなって笑ってしまった。」

 みんな一瞬(いっしゅん)ぽかんとして、今度は一斉にため息をついて苦笑した。

「悔しくないんですか、隊長。」

「んー、少しは悔しいがそれより、みんなが心配してくれている方が嬉しい。それに、嫌がらせは分かっていた。レルスリ殿が帰られる前に、そんな話をされていたからな。」

「…分かってたんですか、隊長。」

 ベイルが意外そうに聞いてきた。

「なんだ、教えておいてくれればいいのに。」

 みんながそれぞれ言い出した。

「それにしても、レルスリ殿も分かっていて、そのままってどういうことなんでしょう。」

「あぁ、みんな悪かった、すまん。それと、嫌がらせは我慢するしかない。仕方ないんだ。レルスリ殿には陛下もある程度任せられている。そのレルスリ殿が忍耐するしかない、ということを言われていたということは、陛下も黙認されるということだ。」

 シークの説明にみんな顔を見合わせた。

「でも、若様はセルゲス公ですよ?なんで、あんなに(きび)しくされるのか、分からない。」

 みんな王の若様に対する厳しさを不満に思っている。みんな同情しているのだ。それに、弟みたいに可愛く思い始めているのも分かっていた。

「みんな、いいか。」

 実はシークはフォーリに頼んで、護衛のみんなを集めていた。全員がここにいる。ベイルだけが遅れてきたのだ。

「私も親衛隊に配属されて、この任務に就くまで深く考えたことがなかった。だが、王室に関することは、表だけに見えることだけで判断できないということが分かった。王室に関することだけではないな。

 この世の中にあることは、みんなそうだ。特に(まつりごと)に関わることは、表向きと裏の実態は全然違い、かけ離れていることもある。

 だから、私達が親衛隊で若様…セルゲス公をお守りする任務を続ける以上、口を慎まないといけない。陛下の判断や妃殿下のことなど、決して口にするな。どんなに思うことがあっても、心の中に留めておいてくれ。それが、お前達一人一人と仲間全員を守る事に(つな)がる。頼んだぞ、みんな。

 田舎の屋敷にいて、私達だけという環境ならいざ知らず、たとえばこれから向かう村で、村人がいる前でそんな話はできないし、サプリュに戻ったら、特に気をつけないといけない。サプリュでは絶対に口にするな。下手をすれば若様を巻き込む。それくらい、自分の口に責任感を持って欲しい。」

「はい。」

 全員、真面目に(うなず)いた。

「…隊長、つまり隊長は、そういう話を聞いたってことですか?表と裏が全然違うということを。陛下から何か聞いたんですか?というか、聞いたんですよね?」

 モナが鋭く突っ込んできた。後で突っ込んで聞いてくれればいいものを。そう思いつつ、シークは頷いた。

「そうだな。陛下には、話したら決して許さないって言われた。」

 シークの答えに全員が一瞬、固まった。

「……つまり、首ばっさりってことか。」

 モナは一人言って頷いた。

「当然、国王と二人で話すってなったら、こうなるな。」

 何かモナは納得している。まあ、いいかとシークは思い、苦笑した。

「まあ、だから、みんな覚悟しろよ。新しい療養地に着いたら、馬はみんな返して、一番近くのヒーズの国王軍の宿舎で預かって貰う。」

「隊長、それにしても幼稚じゃないですか?馬を使わせないって。国王軍の兵士は馬を使う権利があるし、支給されるのに。というか馬をきちんと持っていない方が罰せられます。」

 みんな、まだ承服し切れていない。

「若様はセルゲス公ですよ?本当なら上等な馬を用意されて、療養しながら乗馬したっておかしくないのに。」

「ほんと残念です。若様は馬や動物がお好きなのに。」

「まあまあ。馬の世話は大変だ。きっと、新しい所に行ったら、今までみたいに任務だけに集中していていい状態じゃないはずだ。レルスリ殿の予想だと……まあ、大変そうだから、音を上げるなよ。」

「隊長、その“……”の部分は何ですか?」

「何か妙に言葉濁しちゃって、はっきり言って下さいよ。」

 はっきり言い過ぎて、みんなの士気が下がっても嫌だなあとそんなことを思ったので、“……”でごまかしたのだが、余計にだめだったようだ。

「…まあ、そうだな。馬の世話をやってられないくらい田舎に送られて、日々の生活が大変になるだろうということだ。薪割り係とか、井戸の水汲み係とか、班編制しないといけないかもな。ははは。」

 最後は笑って誤魔化す。

「あ、それとたぶん、肥え汲み係も必要だと思うぞ。“芋虫鬼”用の古着が役に立つと思うが、もっと多く用意していった方がよさそうだなぁ。肥え汲み専用に古着が必要だと思う。」

「……。」


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