表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

297/582

フォーリとサグの内緒話。 3

 しばらくして、ジジジ、とランプの芯が音を立てた後、油が切れて辺りは真っ暗になった。ようやく、シークは草を引く手を止めた。

 空を見上げると、星がたくさん(またた)いている。

(……ああ、天のお星様になりたい。)

 思わずそんなことを思ってしまう。

「あのう。」

「うわぁぁ!」

 てっきりいないと思っていたので、突然、サグから声をかけられて、シークは死ぬかと思うほどびっくりした。本当に心臓が止まりかけた気がする。

「…大丈夫ですか、すみません。さっきはすみませんでした。ですから、思い詰めてそんなこと言わないで下さい。」

 そんなこと?ああ、天のお星様になりたいって思ったことか。と考えて、口から出ていたことに気がついた。物(すご)く決まりが悪い。

「さっきは悪かった。別に馬鹿にしたつもりはなかった。」

 フォーリも謝ってきた。だが、さすがにシークも怒っていた。

「あれのどこが、馬鹿にしてないと?」

 いつもは言わないのに、つい言い返してしまう。

「…馬鹿にしたというか…お前はいつも真面目だ。若様のことを第一に考えてくれるし、助かっている。それに、剣術のことでも一目置いている。それなのに、恋愛とか…そういう方面がとんとだめで、つい、その反応を見たら面白いから、からかっているだけだ。」

「すみません。馬鹿にしているつもりはないんです。私もヴァドサ殿のことを尊敬しています。でも、純粋な少年のようなところがあるので、つい、からかってしまうんです。旦那様も同じです。めったに笑わない旦那様が、おかしそうにされています。

 その、旦那様も馬鹿にしているわけではなくて、その反応がおかしくて、つい、笑ってしまわれるんです。旦那様もヴァドサ殿には一目置かれています。本当のことです。ヴァドサ殿でなくては、殿下をお守りすることは到底出来なかったと、そう言われておりました。」

 シークの機嫌を直そうとフォーリとサグは必死になっている。そこに人の気配がした。

「何やってるんだ?あんまり遅いから、ベイル副隊長達に若様を任せて、様子を見に来た。」

 ベリー医師がランプを持ってやってきた。いじけたようにしゃがみこんでいるシークの姿を見て、ベリー医師は状況が分かったようだった。夜中で静かだから、話していた内容も聞こえたかもしれない。

「……あぁ。当の本人の前で聞かれたらマズい話をしちゃったわけだ。それで、機嫌を直している所というわけだ?」

「…まあ、そんなところです。」

 サグとフォーリが(うなず)いた。

「自業自得だ。自分達で何とかしなさい。」

 ベリー医師は行って、立ち去ろうとする。

「…先生。」

 フォーリとサグは同時に言って、ベリー医師の腕を片方ずつ(つか)んで引き止めた。

「分かったよ。分かったから、手を放しなさい。」

 ベリー医師は言って、シークの前に来ると、肩をぽんぽんと叩いた。

「まあ、シーク君、君もそう落ち込まないで。彼らはニピ族だ。誰にもいろいろ言えないし、鬱憤(うっぷん)もたまるんだよ。あなたを笑いものにして、鬱憤を晴らしているわけだ。まあ、それでまた、任務にちゃんと向かえる気力が出るなら、いいじゃないですか。」

「……でも、私は落ち込みました。かなり落ち込みました。地の底に落ちたと思うくらいです。」

 シークの答えにベリー医師は、フォーリとサグの二人を見やった。

「一体、何の話したの?」

 サグとフォーリは顔を見合わせ、仕方なく口を開いた。

「…その、恋文の話を。」

「…恋文の話…あれね……ぶふっ。」

 その後、ベリー医師は誰よりも大声で笑い出した。必死になって、(がけ)下に転落しないよう踏みとどまったのに、ベリー医師に後ろから()り飛ばされたような気分だ。

「先生、真夜中です、声が(ひび)きます…!」

 サグとフォーリが慌てた。

「先生、ひどいです…。そんなに笑わなくていいじゃないですか…!」

 とうとうシークは立ち上がって、ベリー医師に抗議した。

「だって、あんなに純粋な反応を示されたらね、からかいたくなるよ。無垢(むく)な少年のようにみずみずしい反応だから、可愛いじゃないか。」

 く…何か、天から太い投げやりが落ちてきたのだろうか。

(無垢な少年のようなみずみずしい反応って…。)

「馬鹿にしているんじゃないよ。だって、今だってそうだろう。そんなに怒ったら可愛いもんだよ。フォーリみたいに小憎らしいほどに、鉄面皮でいれば、あんまりからかわれない。でも、敵を多く作るけど。今以上に、敵を作ってもしょうがないから、それでいいんじゃないですかな?可愛い性格の方がいいでしょ。」

 そんなに可愛いを連呼しないで下さい…。

 その時、シークは、はっとした。もしかして、若様はいつも、こんな気持ちになっているのか!?確かに男としては、複雑な気持ちかも知れない。それに若様は童顔なので、つい子供扱いしがちだ。

「どうしたんですか?」

 急に黙ったので、ベリー医師がシークの顔を(のぞ)き込んだ。

「…いえ。」

「いや、何かある。何ですか?」

 ベリー医師とニピ族二人の前で(かく)し事は無理だった。フォーリとサグも、言わないと通してくれそうにない。逃亡は最初っから無理である。

「その…可愛いと言われて気がつきました。若様もこんな気分だったのかと。容姿のことだけでなく、私も子供扱いをしすぎて、傷つけていたかもしれないと思いまして。」

「……ああ、なるほど。」

 ベリー医師が(うなず)いた。フォーリとサグが顔を見合わせている。馬鹿にされたような気分だが、これで若様の気持ちが分かったなら、良しとしよう。もう、いいことにしよう。というか、もういいや。という投げやりな気分にシークはなった。

「戻って寝ます。疲れました。」

「そうですね、寝るべきです。」

 ベリー医師は頷く。

「ところで、もう怒ってないんですか?」

 ベリー医師の確認にシークは頷いた。

「はい。二人は私の部下ではありませんが、部下は上司の悪口を言うものです。悪口とまでいかなくても、なんやかんや言っています。そういうものだと思えば、それくらい、二人は私を近しく思ってくれていることでもあるので、いいことにします。」

「そうですか、いいことですね、そうやって割り切っちゃう、そのご老人気質。」

「……。」

 ご老人気質って…。()められているような気はしない…。

「あ、褒めているんですよ。本当です。悪い老人だと、文句ばっかりで全然、悟りの“さ”の字もないんですから。じゃあ、仙人気質って言い換えようか。」

「そっちの方が、まだましです。」

 毒舌家の先生だから、仕方ないか。褒め言葉だと受け止めておこう。シークはそう思ってランプを拾った。

「火を分けましょうか。」

 火が消えたランプを見て、ベリー医師が言ってくれた。

「それが、油が切れてしまって。」

「そうですか、じゃ、一緒に戻りましょう。フォーリ、もう、若様のところに戻るだろう?丈夫だと言っても、ちゃんと寝なさい。」

「…はい、そのつもりです。」

「じゃあ、二人ともお休み。」

 シークは二人に言って、ベリー医師と医務室に戻った。

 フォーリとサグはそれを見送ってから、お互いに言った。

「結局、私たちはあれで許されたのか?」

「たぶん。」

 二人は確認し合った後、それぞれ戻って寝たのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ