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教訓、三十。目は心の窓。 1

 グイニスはあの日のことを忘れなかった。

 目を閉じれば、シークが(むち)打たれている所が浮かぶ。悲鳴も上げず、しかし、苦しそうに痛みに耐えていた。鞭が振り下ろされるたびに、彼の血が飛んだ。忘れられなくて、叔父のボルピスが帰るや否や医務室に行った。

 だが、シークはベリー医師が処方した薬でぐっすり眠っていた。頭以外の全身に包帯が巻かれて、うつぶせになって胸と腹にクッションを入れて、髪は結んだまま眠っていた。前側にも鞭打たれた傷はあるが、背中ほどではない。

 ベリー医師の忠告を聞かなかったからだ。叔父のボルピスの前で、慕っている様子を見せてはならないと言われていたのに。シークを守りたかったら、そうしないといけないと言われていたのに。

 グイニスが慕ったから、グイニスの代わりにシークが鞭打たれた。親衛隊の隊長を公衆の面前で鞭打つのは、かなり屈辱的な刑罰だと、グイニスの様子を見に来たバムスが教えてくれた。泣き続けて目が真っ赤に()れ上がっていたので、シェリアが心配して氷を運んでくれた。

 ようやく目の腫れが引いたのに、全身が包帯のシークを見るとまた、涙が(あふ)れてきた。そっと枕を抱えて寝息が立っている彼の側に近寄った。

 自害を命じられた時にできた首の傷も()えていなかったのに。

 親衛隊の隊長であるシークを慕ってはならない。

 もっと距離を取らなくてはならない。

 こっそり鬼ごっこと称して訓練してくれたが、きっとそれも叔父の耳に入っていたのだろう。剣も握ってはならないと言われた。剣を握れば、謀反と疑うと。シークは何もしていないのに、シークも巻き込んで謀反が疑われる。姉のリイカにも迷惑がかかる。

(…姉上は…お元気かな。)

 お転婆で気が強くて、でも優しい姉。もう、何年も姉弟は顔を合わせていなかった。十歳の時の事件以来、顔を合わせていない。リイカは十五歳の時からずっと、最前線にいる。ズトッス王国との国境にいる。姉は戦姫さまと国民に呼ばれて親しまれている国の英雄だ。

 それに比べて、自分は何もできない。そして、国民にも可哀想な王子さまだと思われている。

 別にそれでいい、今までならそう思えたのに、なぜか今はそう思えなかった。なぜ、自分はこんなにも何も出来ず、させて(もら)えないのだろう。

 気がついたら、ベリー医師達が部屋に灯りをつけて回っていた。もう、そんな時間だった。いつの間にか夕方になっていた。フォーリは黙ってずっと側にいてくれた。ベイル達もそうだ。黙って…でも、今までより心の距離を取って側にいた。

 当たり前だ。みんなにも聞こえていたはずだ。グイニスが何を叱責されていたかを。なぜ、シークが鞭打たれたかを。

「若様、お食事の時間です。」

 フォーリに言われたが首をふった。お腹なんて空いてない。食事が喉を通らない。

 仕方なく、グイニスがその場にいるままで、ベリー医師がシークを起こした。彼に食事させるためだ。(はり)を打ち、香りの強い精油を()がせると、目を覚ました。

 もぞもぞと固まった体をほぐそうと伸びをしかけ、痛みに(うめ)いている。彼の痛みが治まった所でベリー医師が、シークに何か(ささや)いた。シークが慌てて振り返ろうとして、また、痛みに耐え、ゆっくりグイニスとフォーリの姿を確認していたから、グイニスがいるということを教えたのだろう。

 シークはグイニスをじっと見つめた後、なぜか辛そうにしていた。

 グイニスは自分がどういう風になっているか、分かっていなかった。呆然として人形のように、もしくは抜け殻のようになっていたのだ。フォーリやベリー医師が、出会った最初の頃に近い状態になっているので、とても心配しているということすら、気がついていなかった。


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