表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/582

教訓、五。部下にも魔の手は伸びる。 2

 その時だった。


「大変だ!」


 突然、ベリー医師の声がして二人は上を見上げた。窓の上からベリー医師が身を乗り出している。昼間とは別の建物に移動していた。似ているが別の建物である。


「若様がいなくなった!」


 フォーリの顔色が変わった。


「若様が!?」


 冷静沈着という印象のフォーリが、明らかに狼狽(うろた)えている。


「便所に行って戻ってきたらいなかった!」

(さら)われたのか?」


 フォーリの焦りようにシークの方が慌てた。


(ちょ、ちょっと待ってくれ…!ニピ族は(あるじ)を見失うと慌てるというが、この程度で慌てるというのか!?)


 昔から言われている。ニピ族から主を取ると荒れるという。理性を失って殺しまくり、大惨事になるから、決してニピ族が護衛についている者を殺してはならない、と言われてきた。ニピ族から主を引き離すな、とも言われている。引き離しただけでも惨事になるから、と言われてきた。


「落ち着け、フォーリ。」


 言いながらシークは自分も落ち着かせた。


「もしかしたら、ご自分でどこかに行かれたのかもしれないし、まずは全員で若様を探そう。」


 言った途端、じろり、とフォーリはシークを(にら)んだ。まるで、お前が余計なことを言うから若様がいなくなった、と言わんばかりの視線だ。


(おい、おい、さっき、お前も諭してくれて良かったと言ったよな!?私のせいじゃないぞ、決して!)


「おそらく、ご自分では行ってない。」


 ベリー医師が上から言った。


「下には行っていないそうだ。今、ヴァドサ隊長の部下に確認した。」

「く、昼間の男の仲間か…! やっぱり殺したのはまずかった。」


 いや、だから言っただろうが、殺したらまずいって、シークは心の中でフォーリに文句を言った。でも、口には出さなかった。今、話をつけた所だし、なんせ相手は虎だ。虎に勝ち目はない。

 シークは笛を吹き、緊急招集をかける。すでにベリー医師の様子から察していた部下達が、すぐに用意をして出てきた。


「若様が行方不明だ。三班に分ける。一班五人編成だ。一班はスーガと共にまず、若様がおられた部屋を探し、何か証拠となるものはないか調べろ。どういう経緯で逃走したか、また、(さら)ったのかも含めて調べてくれ。一つも見逃すな。

 残りの班は私やフォーリと共に若様を探す。後、ベイル達にも伝えて…。」

「隊長、すでに行きました。」


 部下の指摘に後ろを振り返ると、もう、フォーリがいなかった。


「若様ー!どちらにおいでですか!」


 叫びながら屋根の上を走って行った。


「……。なぜ、屋根の上を?」

「走りやすいし見通しがきくからですな。カートン家の施設の屋根は走りやすいようにできているし、ニピ族は高いところが好きだから。」


 思いがけず独り言にベリー医師から返事があった。


「私は先にここで部屋の様子をくまなく調べている。何か見落としがあるかもしれない。」


 ニピ族って…本当は実に面倒な生き物なんじゃないか。


「隊長、ニピ族は主がいないと手に負えないって、本当なんですね。」


 部下のジェルミ・カンバ(サリカン人)が実感を込めてしみじみと言う。いや、そこでしみじみと言わなくていい…。


「…フォーリは行ってしまったから、私達で捜索する。」

「隊長、大変です。フェリムがいません。」


 点呼を取っていたモナ・スーガ(サリカン人)が報告した。ベイルを含めて五人は厩舎(きゅうしゃ)の番をしている。交代で食事などをする。さっきまで二人が食事に来ていた。後の三人は厩舎である。


「何?」


 シークは思わず額に拳を当てた。


「じゃあ、残りの二班のうち、一班はフェリムを探せ。バルクス、四人でフェリムを探してくれ。」

「は。」

「隊長、そういえばさっき、便所に行くって言ってました。」

「便所に?でも、それならベリー先生と遭遇(そうぐう)したはずだ。」

「会ってないよ。」


 上から答えが降ってくる。


「みんなも気が付いただろうが、おそらく、フェリムが行方不明なのは若様の失踪と関係があるだろう。気をつけて心してかかれ。決して一人になるな。フェリムは柔術も得意だ。」


 少し間を開けて、言いたくないこともシークは口にした。


「裏切りかも知れないし、もしかしたら、巻き込まれてやられた可能性もある。決して油断するな。分かったな?」


 裏切り、という可能性にみんなに緊張が走り、全員が(きび)しい表情で返事を返した。

 かなりまずいことになった、とシークは心配になった。昼間のこともある。


(どうか、ご無事でいてくれ。)


 シークは部下達を分けて、日暮れで暗くなっていく中を探しに向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ