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教訓、二十八。王と叔父は違う。 4

2025/11/5 改

 そして、バムスの指摘にさすが目の付け所が違うとギルムは思う。


「…確かにそれはそうです。シークは健康面に問題がなく、真面目で人柄も誠実です。どんな者に対しても(おく)することがなく、公平に平等に扱います。


 ですから、シークを嫌う者は嫌っています。身分が低くても手柄を立てれば認め、身分が高くても間違いは間違いとはっきりしていますから。


 ただ、ガチガチに()り固まったような真面目とも違うのです。時に柔軟に対応します。過ちも二、三度までなら目をつぶります。しかも、何が過ちだったのか、過ちを犯した者に考えさせる。それで、今後、どのように改善するべきかを、時に一緒に考える。分からなかったら一緒に悩んで、誰か適当な人物に相談する。


 隊長としてのシークを数年見てきましたが、一番、隊員がまとまっています。ですから、推薦しました。」


「確か…ヴァドサ殿は三年間教官をして、二十三、二十四歳の二年間、将軍の下で秘書をしてますね。その時に副隊長のルマカダ殿も一緒に、秘書の補佐をさせている。


 そもそも、彼が十七歳で訓練が終わった時点から、将軍の配下であるレル・ブーリーグ隊長の元に配属させています。二年間、ブーリーグ隊長の元にいた後は、雑務全般を扱う事務官達の手伝いを一年間させています。


 私が何を言いたいのかというと、将軍は彼を最初から将来的に重要な部分で使うための人材として、育成していたようにしか思えません。


 そのために、最初の二年を(きび)しいことで有名な隊長の下に配属させ、その後は裏方の仕事を覚えさせ、そして、人に教える教官の仕事を三年間させ、そして、今度は将軍の下で秘書という重要な仕事を二年間させ、そして、隊長にしてサプリュに配属し、さらに大街道の警備も順番に何度もさせた。


 彼を隊長にする前に、大街道の警備を順番に持ち回りにさせることにしたのも、大勢に見回りをさせると同時に、ヴァドサ殿に自然に警備させて、よく覚えさせるためだったのではないかと思うのです。


 彼はサプリュ配属でなくてはならなかった。なぜなら、ヴァドサ家の本家の五男で、しかも剣術の腕から人柄まで全て整っていれば、将来的に親衛隊に配属ということも、念頭にあったはずです。サプリュを徹底的に覚えさせたのも、将来的なことを念頭に置いているからでしょう?


 なんせ、ヴァドサ家は王の命令なしに、サプリュで武装できる唯一の家なのですから。しかも、城壁の一部が私有の敷地内を通っている。その部分の城壁の守備と管理はヴァドサ家が行っているわけです。

 将軍も陛下と同じ危惧(きぐ)を持っているのですね?だから、ヴァドサ家出身である彼を殿下の護衛にした。将来のために備えて。」


 普通の人だったら、何を分かっていることを繰り返し言うのだと笑い飛ばせるが、バムスでは無理だった。


「違いますか、将軍。セルゲス公殿下は王太子殿下と比べて、圧倒的に不利です。そのセルゲス公殿下にサプリュで圧倒的に力を持っている、十剣術のヴァドサ殿を護衛につけた。これで、力の均衡が取れたと見ていますか? 少なくとも、すぐに殺されるということにはならないと考えたはずです。」


 ギルムはどう答えるか思案して、思わず苦笑してしまった。


「…さすが、レルスリ殿です。ただ、私は単純に王位継承権の高いセルゲス公殿下が、暗殺されてはならない、それだけで動きました。そこまで先々のことを考えたわけではありません。


 しかし、レルスリ殿のご指摘通り、サプリュで力のある、ヴァドサ家の子息ならば、簡単に敵に回すことはできず、躊躇(ちゅうちょ)するだろうと思ったのは事実です。ただ、そのシークでさえも殺そうとするとは。他の家の者ならば、もっと簡単に殺したのでしょう。」


「……その点については分かりません。」


 バムスはギルムに伝える。


「毒の前には、寝込みを七人がかりで(おそ)っています。それでも、殺せなかったから毒にした。大街道の事件の時もそうでしたが、私には躊躇している様子を感じられません。」

「…やはり、その謎の組織ですか?全てに関与しているとお考えで?」


 ギルムに質問にバムスは(うなず)いた。


「はい、おそらく。謎の組織は、この国が大混乱に陥っても構わない…むしろ、そうなって欲しいような…そんな気さえするのです。彼らの目的は…もしや、内戦では?」

「だから、陛下は内戦を阻止せよと厳命(げんめい)なさったと? シークは彼らにとって…なぜか計画を混乱させる天敵のようなものだと感じられたから、陛下はそのような命令を出されたということですか?」


 ギルムの言葉は、バムスには新鮮だった。国王がシークに命令を出した理由がそうだとは、思わなかったのだ。


「…天敵ですか。なるほど。もしかしたら…そうなのかもしれない。陛下はそれを見抜かれていた。とにかく、陛下は何事かをご存じです。何かご存じだから、内戦を阻止せよという命令を出されたのでしょう。」

「…しかし、一体、彼らは何者なのでしょう? まさか、宮廷内の側室の使いと名乗る者が接触を図ろうとするとは。全部が同じ組織にしては…統一が図られていないような気もするのですが…。」


 ギルムの指摘にバムスは考え込んだ。


「確かに…。その指摘はもっともです。ただ…私の思うに彼らは、どこかに一枚()んではいるが、行動を起こした全ての人は、その組織が全部を管理しているとは思っていないのではないか…ということです。


 つまり、私が言いたいのは、別々に行動を起こしたつもりでいるが、全部、謎の組織が裏で関与して管理している可能性がある、ということです。そして、大街道と先日の毒と襲撃(しゅうげき)の事件では、謎の組織が大々的に表に出た事件だった。そういうことなのかと、私は今のところ理解しています。」


 なるほど、とギルムは頷いた。


「とにかく…ヴァドサ殿は彼らにとって、誤算中の誤算だったことに間違いありません。大街道の事件、寝込みを(おそ)った事件、そして、今回。三回目も失敗して、三度目の正直にならなかったので、大いに戸惑っているでしょう。このまま、将軍のご指摘通り、ヴァドサ殿が彼らにとっての天敵になればいいのですが。」


 バムスはラスーカとブラークが関与していると知っていながら、ギルムには黙ったままその話をした。二人の表情は苦い。

 シェリアが静かに立ち上がった。その顔色は本当に悪かった。


「…わたくしはお先に失礼致しますわ。気分が優れませんの。」


 バムスはサミアスに、人払いしていたため退室していた彼女の侍女達を呼んでこさせた。彼女が退室し、ギルムも立ち上がった。


「それでは、私も失礼致します。できれば、シークと寝る前に話をしたいですし…ベリー先生のお許しが出るか分かりませんが。」

「それはどうか分かりませんね。ベリー先生は(きび)しいですから。」


 二人は苦笑いし、ギルムはラスーカとブラークにも儀礼上、挨拶を述べて退室した。

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