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教訓、二十七。隠し事は必ず見つかる。Ⅱ 16

2025/10/31 改

 二人がそんな話をしている間、ベリー医師は気配に気づいて隣室に出て行った。シークが立っている。眠ったと思ったが、眠りが浅く起きたらしい。

 ベリー医師が手で寝台に戻るように指示すると、素直に従った。何かをじっと考え込んでいる。きっと、二人の話を聞いてしまったからだ。


「どうしましたか? 何か用事があったんでしょう?」

「先生、陛下はいつお帰りになるんでしょうか?」

「明後日の予定です。何か気になることでも?」


 シークは首を振った。


「…そうではなく。ただ、私の制服を…正装を準備しておいて欲しいと、誰かに頼もうと思ったんです。せめて陛下がお帰りになる時くらいは、きちんとお見送りしたいので。それに、お帰りになる前に、何かお話をされるかもしれない。」


 ベリー医師は頷いたが、何か違うものをシークの中に感じた。


「…分かりました。本来なら、そんなことが出来る段ではありませんが、伝えておきましょう。私がダメだと判断したら、医務室にいて(もら)いますからね。」


 ベリー医師の言い分にシークは苦笑した。


「はい。分かりました。ありがとうございます、先生。」

「……何を考えているんですか?」


 ベリー医師は、さっきの独り言も聞かれたかと思いながら尋ねた。


「先生。どんなことがあっても、私を信じて下さいますか?」

「なぜですか?」


 シークは天井を見上げながら、考えを固めるように口を開いた。


「…陛下から賜ったご命令を全うするには、一見、相反することをしなくてはならないと思いまして。」

 ベリー医師はぎょっとした。本当にやるつもりなのだ。口約束だ。誰が保証人になるわけでもない。

「本気ですか?」

「本気です。…そうした方が殿下をお守りできます。それに…もう、どうせ、後には戻れません。引くことが出来ないなら、進むしかありません。私と部下達が生き残るには、そうするしかないと思います。」

「何を考えているんですか?どうしたいんです?…何かを決心したんですか?」


 ベリー医師は、シークの決心を確かめるように見つめた。


「…まだ、決心とまではいきませんが。でも…決心というなら、決心です。……はい。陛下は私に駒として使うと言われました。ですから、私は駒になる決心をします。そして、陛下のご命令を遂行するには、時には陛下にも逆らう必要があるのではないかと思うのです。」


 非常に重大な発言だった。下手したら首が飛ぶ。だが、ベリー医師はシークの目を見て、本気だと受け止めた。きっと、王達と話ながら、考えていたのだ。どうすればいいのか。全員が生き残るための手段を。


「…それで、誰の駒になると?陛下ですか? …違うか。陛下にも逆らうのだから。」


 ベリー医師が一人で言って、訂正している間、シークは自分の中の考えを、ゆっくり油を(しぼ)るみたいに言葉にした。


「……先生にだから…お話ししますが…非常に矛盾します。…陛下にご命令を受けて…そして、時には陛下に逆らうのですから。…でも、今日の話の中で、私はそうするしかないと思いました。私は誰の駒にもなりませんし、なれません。なってはいけないと思います。変な言い方ですが…独立した駒になる必要があるかと思います。」


「…なぜですか?」

「……あくまで私が感じたことですが…陛下はおそらく、ご自分をもっとも怖れておられると思います。」


 ベリー医師はシークの言葉に、はっと息を一瞬止めた。


「…陛下は甥でいらっしゃる若様を、息子のように愛していらっしゃると思います。だから、王として…そして、人として時に感情に左右されて、冷酷に若様を殺せと命じる時が来る、そのことを危惧(きぐ)されていらっしゃると思います。…もしかしたら、私の(かん)ですが…陛下は病を得ていらっしゃるのでは?


 そうでなくては、私に“人は病を得ないと一人前にならないという”ということを仰ることはないと思います。そして、陛下は近い将来、必ずその病のせいで、ご自分の判断が狂う時が来ると思われているのでは? だから、突然、私の様子を見に来られたのでは?」


 シークはのんびりしているようで、深く物事を考えて判断しようとしている。真面目で四角四面なようでいて、柔軟性がある。ベリー医師は、やはり彼も隊長に据えられただけあるのだ、と妙に感心した。


「陛下が…あのようなご命令を私に与えられたのは、おそらく、その時に備えてでしょう。ですから、私は陛下がお帰りになる前に、あのご命令が本心か、もう一度、お尋ねしたいんです。」

「…もし、本心だと仰ったら…どうするんですか?」

「お受けした以上、覚悟を持ってご命令を全うします。そうなれば、死んでいられません。以前の私とは、違う行動を取らなくてはならなくなると思います。」


 今までの彼は、忠実に任務を行うために必死だった。だが、今のシークの目は違う。一皮むけたようだった。たとえて言うなら、以前のシークが軍師の助言通りに軍を動かす将だったとしたら、今のシークは自ら考えて軍を動かす将だということだ。

 半日、王と話し続けている間に変わってしまった。王が彼を変えたのだ。


「分かりました。陛下と言葉を交わすために備えるなら、明日はしっかり休んでいて下さい。どうせ、起きてしまったんですし、汗をかいた寝間着を着替えて身支度を調えてから、寝て下さい。」


 シークは苦笑いした。


「すみません。ありがとうございます。」


 そんな所は変わっていない。

 イゴン将軍は分かっていたのだろうか。シークがここまで、できる器だと。ある意味、賭けだったのかもしれない、と思いながらベリー医師はシークを手伝った。

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