教訓、二十七。隠し事は必ず見つかる。Ⅱ 15
2025/10/31 改
そこで鼻をかんでいるモナに、ロルが言う。
「隊長って、よく馬に話しかけてる。おれと同じだって嬉しかったなぁ。」
「家には母親がいた。隊長は生真面目に挨拶して、びっくりすることを言った。休みの間、俺を自分の家で預かるって。」
モナがロルの話を無視して続けても、ロルは気を悪くした様子もなく聞いている。
「馬場もあるし、問題ないって。そして、挨拶もすんだから出て行こうとしたら、父親が怒鳴り込んできた。俺には分かってた。俺の両親は美人局をしてんだ。だから、俺は怒鳴り返して、結局、親子三人で怒鳴り合いの大喧嘩さ。
さすがに母親は、隊長が丁寧に挨拶にきたもんだから…それに隊長は顔も悪くないだろ。だから、気に入って静かに返そうとしてたんだ。父親はそれも気に入らない。
隊長が知らない罵詈雑言が飛び交う、非常に下品な言葉の羅列の大喧嘩を、隊長はびっくりしてただひたすら聞いてた。
最後に親たちが十八番を言い出した。母親の『お前なんか産むんじゃなかった。』っていうのと、父親の『なんでこんなヤツを種付けしたんだろうな。』という言葉を聞いて、隊長がいきなり立ち上がった。
俺にはいつも、子どもの頃から言われ慣れてる言葉だった。でも、隊長は怒って、『そんな言い方をしないで下さい…!モナはあなた達を両親だと思っているから、私を今日、ここに連れてきたんです!あなた達には役に立たない息子かもしれませんが、私にとっては大切な部下で、機転も利いて役に立つ人材です!生まれてきたことを否定するような言い方をしないで下さい!』って怒鳴った。
俺は…涙が出た。聞き慣れてるはずだったのに。隊長の言葉が凄く嬉しくて胸にしみた。泣いてる俺に隊長は『お前が出て行きたくなるまで、私の隊にいればいい。お前の居場所はそこにある。』そう言ってくれた。」
モナは涙を拭いて鼻水もかんだ。
「…モナ。ごめん。前にお前の出身のことを馬鹿にした。ごめん。」
ロルが謝った。
「いいさ。俺だってお前が田舎出身だって馬鹿にしてた。おあいこだ。」
「なんだ、そうだったのか。それで、馬は盗まれなかったのか?」
「それが、盗まれてなかった。正確には盗もうとしてたんだけど、盗めなかったというのが正しい。ブムが俺の馬まで盗まれないようにしてた。繋がなかったのは、ブムが自由に動いて身を守れるようにするためだったらしい。盗もうとしても暴れてできなかったんだ。勝手に走って行くし、俺の馬も後をついていくだろ。
家から出てきたらいないから、てっきり盗まれたと思ったけど、隊長が口笛吹いたら二頭とも戻ってきて、あの時はびっくりした。隊長は『よしよしお利口さんだったな。』ってブムに言って、当然のように乗ってさ。お前も乗れって言うから、びっくりしたまま乗って隊長の家に世話になった。」
「…そっか。じゃあ、お前が隊長のことで怒るの分かったよ。なあ…。お前、それじゃあ、帰る家ないんだろ。毎回、隊長んちで世話になってんのか?」
「毎回じゃない。知り合いになった乗り合い馬車の御者に頼んだりして、なんとか馬の都合をつけてる。後は友達の家に行ったりして。できない時だけ、部屋借りて住んでる。俺の家があった地域を考えれば、ほかの地域の治安の悪さなんて、毛の生えたようなもんだから、全然気にならないしな。」
ふーん、とロルは考えている。
「なあ、今度の休みになったら、おれの家に来る? 来てもいいよ。」
ロルの発言にモナが目を丸くする。
「…遠慮する。せっかくだけど、お前の家、遠いだろ。」
「…うん。田舎だって馬鹿にしてんのか?」
ロルが少し怒って言う。
「違う。俺がサプリュにいるのは、何かあったらすぐに動いて隊長を助けるためだ。」
「じゃあ、おれも家に帰らない。」
「何、馬鹿なこと言ってんだ。お前は俺と事情が違うだろうが。お前はちゃんと家に帰って、家族に無事な姿を見せろ。そうでなくても、死にかけたんだからな。」
今までモナがこんなに誰かを心配する姿を見せたことはなかった。




