教訓、二十七。隠し事は必ず見つかる。Ⅱ 14
2025/10/30 改
合図した相手はモナとロルだった。ロルはなぜか仮死状態から復活した後、シークより早く回復している。シークがまだ毒の後遺症を引きずっている…もう一回別の毒を食べたせいもあるが、とにかく、後遺症が長引いている一方で、ロルはどんどん良くなっていた。それでも、まだ以前のように走ったりはできないが、元気になっているのは確かだ。
ロモルはシークが王とギルムと話している間に、任務の都合でモナと代わっていた。代わろうとしている時に、妙な話…シークは“行きすぎた悪ふざけ”だと思っている話などが聞こえてきて、ロモルとモナは頭を抱えた。ロルは隣でずっと、ひっそり静養しているので、まる聞こえだった。
「……隊長って…おれより鈍かったんだなぁ。おれだってジンナにあれは言い訳だから、気をつけろって注意されたのに。誰も言ってあげなかったのかなぁ。闇討ちの練習じゃないって。」
ロルはのんきに感想を述べた。その横でモナとロモルはため息をつく。
「ほんとだよ、ロルの言うとおり。しっかりしてそうだから、誰も言わなかったんだろうな。というか、完全にずれているわけでもないし。なんか、まあいいやっていう、感じになってしまうんだよな、隊長と話してると。俺もそうなんだけど。」
「……結局、陛下もイゴン将軍も指摘しなかったし。だから、隊長は、どこかずれたまま…。」
モナとロモルは言っていたが、いつまでも聞き耳を立てている訳にもいかず、ロモルは任務に向かった。
そうして交代し、今に至る。
「……先生、先生だったらどっちを選びますか?」
モナは隣室でベリー医師に尋ねた。
「…このまま、あまり回復させないでシェリア・ノンプディに差し出しちゃうのと、回復させて命がけの任務に戻すのと。どっちを選びますか?シェリア・ノンプディに差し出しちゃえば、命を狙われないで済みます。」
「…モナの言っている意味が分からない。そんなことを選ぶ理由が分からない。」
ロルが口をはさんだ。
「…今は黙ってろよ。」
モナが言うと、ロルは少しムッとした様子で言い返した。
「ダメだ。シェリア・ノンプディにあげるって、そんなことしたら隊長は…隊長の気持ちはどうなるんだ…! 任務に戻りたいって言ってるのに…。」
「しーっ。まあ、落ち着きなさい。仮の話なんだから。でも、ロル君の言うとおりだ。君も分かってるんだろうけど。ただ、聞きたかっただけだろう?」
モナはベリー医師の言葉に頷いた。
「頭いいと、余計なことにまで気を回さなくちゃいけなくて、面倒だね。」
「…先生。」
モナに抗議の目を向けられて、ベリー医師は苦笑した。
「分かったよ、悪かった。それにね、この件については、任務に戻る以外の道はない。陛下はヴァドサ隊長を彼女にあげるつもりは毛頭ない。君なら分かっているだろう。その意味を。
ヴァドサ隊長は偉ぶらないけど、名家だから陛下は彼の性格を見に来た。おそらく、彼でなかったら陛下に気に入られなかっただろうと思うよ。ヴァドサ家も危なかったかもしれない。」
ベリー医師の言葉を聞いて、モナはうなだれた。
「……俺は隊長に死んで貰いたくない。」
うつむいたままモナが泣き出したので、ロルもベリー医師もびっくりした。
「…モナ、お前、隊長にそんなに恩義があるのか? 恩があるのは知ってる。おれもあるけど。でも、おれより恩義があるって思ってるんだな。」
「…初めてだった。大事な部下で役に立つ人材だって言ってくれた人。俺の家はろくでもない、犯罪で生計立ててるような両親だ。俺は、それが嫌で国王軍に入った。だから、犯罪を一緒にして生活費を稼ごうとしない俺を、家族も街中の連中も、ただの穀潰しとしか見なかった。いつも、つまはじきにされてた。
子どもの頃から分かってた。犯罪を犯すから、決して上に上がれないって。だから、決してそんなことをするものかって思ってた。
俺がそんな考えができたのは、近所に変わり者の手習いの先生がいて、その先生に読み書きを教わったせいもあると思う。ほとんど生徒がいなくて、習ってるの俺くらい。しかも、授業料は握り飯一個とか。
でも、その先生はそれでも教えてくれた。よれよれの身なりでさ。抜けたかったら、同じ事をするなって言われて。石にかじりついてでもするな、国王軍に入って抜け出せって助言して貰って、俺はそれを目指して、本当に実行した。
そんな俺が隊長の隊に配属されて…、初めての休みの日、馬をどうするか考えあぐねて…隊長に家に帰れない、帰るところがないから馬をどうしたらいいか、相談した。」
ベリー医師が差し出した懐紙でモナは涙を拭いた。訓練兵には馬は与えられないが、どこかの隊に配属されると馬も一緒に与えられる。
「隊長は、俺の話を黙って聞いた後、驚愕発言をした。俺の家に行くって。最初は止めようとした。でも、サプリュ出身の隊員達の家には挨拶に行ってるって言うし、それ以外の出身の隊員達の家族には、手紙を書いて持たせてるって言うんだ。俺はびっくりした。
仕方なく、俺は家に案内した。国王軍でも、決められた猛者揃いの部隊だけが見回りに行く、危険な場所だ。下手したら馬を盗まれるって、俺は心配した。何より隊長は育ちがいい。鼻がきく連中が隊長に何かしないか、心配だった。剣術が強いって言っても、弱点があるのは分かってるし。
だから、途中で帰るって言わないかなって期待したけど、隊長は俺の家までやってきてしまった。もう、家には長く帰ってなかった。軍に入ってからは縁を切ったつもりだったから。
当然、国王軍の制服を着た二人が馬に乗って行くんだ。街の連中は殺気立った。国王軍に入った裏切り者のモナが帰ったって、街中に連絡が行ってるのが分かった。
俺は馬が盗まれるって言ったけど、隊長は大丈夫だと言って、ブムにお利口さんにしてろ連れて行かれるなよって、言い聞かせて…無駄だって思った。人間が盗むんだ。周りの連中が悪いんだって。たぶん、他の街の連中もそう思っただろうさ。」
モナは手で涙を拭って鼻水をすすった。




