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教訓、二十七。隠し事は必ず見つかる。Ⅱ 12

2025/10/29 改

 ボルピスは昨日、フォーリと話したことを思い出した。ヴァドサ家は…というか父のビレスは、分かっているはずだ。シークの才がいかに抜きん出ているかを。

 だから、一見、冷遇しているようにしか見えない態度を取っているのだ。そして、本当はイナーン家と取り決めを結ぶくらい、そうしに行くくらい、息子を大事にしている。


 それは、シークの他の兄弟達、従兄弟達には伝わっている。いや、いかに才能があるか、自分達も剣術を習っているのだから、当然分かる。長老達の教え方でも、なんとなく分かっているだろう。自分と比べていかに才能があるか、分かっているから妬む。


 その上、人間性も器量も良ければなおさらだ。年頃の若者達だったら、女性に好かれるということでも妬むだろう。しかも、モテている当の本人は気づいていないのだから、余計に腹立たしいはずだ。

 だが、何も説明されない当の本人にしてみれば、なぜなのか、全く理由が分からず途方に暮れている。


「父に冷遇される本意について、考えたことはあるのか? 単純に冷遇することはないだろう。必ず理由があるのだ。」


 シークは王に指摘されて、なぜなのか考えても分からないと思ったが、フォーリが剣術試合の出場を父が許してくれないのは、相手がイナーン家で、シークが殺されないようにするためではないか、と教えてくれたことを思い出した。


 そして、ボルピス王と話をしているうちに、若様をただ単純に地方に追いやっている訳ではないことも理解した。サプリュにいれば、どうしても心も体調も調わないのに、何かと表に出されることも多くなる。ゆっくり静養もできない。


 地方にいれば、少しでも王宮の窮屈(きゅうくつ)さから解放され、ゆっくり静養できるのではないか、という配慮(はいりょ)があることに気づいたのだ。


「……私には…理解できない…何かがあるのだろうとは思います。ですが、私にはそれが何なのか、まだ分かりません。ただ、以前よりは父にも考えがあるのだということを、受け止められるようになりました。」


 ボルピスはシークを見ながら、これだけ受け止められればましな方だと分かっていた。人間はなかなか自分のことについては、分かっていない。まして、子どもの頃からの心のしこりなどは、なかなか払拭(ふっしょく)できない。


「人はおおよそ、己のことについて分かっていないものだ。もしかしたら、お前が妬まれているのは、従兄弟達が好意を寄せている娘が、お前のことが好きだったからという可能性もあるのだぞ。」


 ボルピスのたとえにシークは目を丸くして聞いている。思ってもみなかったようで、なぜ、考えつかないのかとこっちの方が疑問だ。もしかしたら、あまりに長老に教えを受けすぎて、異性に関することまで年寄りみたいになってしまったのかもしれない、とボルピスは考えた。


「お前は己のことが全く分かっておらんな。」


 とりあえず、王がそう言った所で、シークはバムスに言われたことを思い出した。


「…レルスリ殿にも…同じ事を言われました。私は自分のことが分かっていないと。」

「ほう…。バムスは何と言った?」

「みんな私のように崇高(すうこう)な精神をしていないと言われ…私は大げさな言い方だと思いました。すると、みんなが私のようだったら、痴情(ちじょう)のもつれによる殺人も起きないと言われてしまいました。」


 シークは今も、このバムスの言葉が分からないでいた。言葉の意味事態は分かる。だが、本当に自分に当てはまる話なのか、よく分からないのだ。

 いつも、分からないことがあったら、一つ下のギークに聞いていた。ギークは弟であるが、親友でもあった。今は聞くことができない。ギークはどう答えるだろうか。まずは、笑われるだろう。


「なるほどな。」


 王は言った後、おかしそうに笑った。


「バムスらしい言い方だ。」


 笑い終わってから、困っているシークを見て、ため息をつく。


「…よく考えることだ。いや、お前自身、本当は気づいているのかもしれん。だが、気づかないフリをしているのか、目を背けているのか、不遜(ふそん)になってはならぬと本能的にさけているのか、よく分からんが、お前自身、少しは自慢になると思う部分が何かしら一つはあるだろう。


 自分ではちょっとしたことかもしれんが、他者から見ればとんでもないことだったりする。お前がそういう点であまりに無自覚だと、かえって相手にしてみれば、腹立たしくなるだろう。お前の父がそうしたと分かっていても、なぜ、自分で気づかないのか不満に思う者もいておかしくないだろうな。」


 何やら、王はもうすでに、シークがなぜ従兄弟達から妬まれているのか、分かっている様子だった。だから、よく考えれば分かる話だと繰り返し言っているのだ。ボルピスの言葉で、ようやくシークはもしかしたら、ということに思い至った。


 何回か見れば、相手の手筋がなんとなく見えてきてしまうことである。大抵五回も見れば何とかなる。ニピの舞もなんとかなった。


 シークにしてみれば、本当になんとかなっているだけの感覚なので、特別な才能だとは思っていなかった。どうやら、他の人は五回見てもなんとかならないらしい、ことくらいは薄々気づいていたので、ほとんど誰にも言っていない。知っているのはギークと他二人の弟達くらいのものだ。

 この間、ニピ族と対戦することになって、本当にうっかり口を滑らせてしまったが、面倒なことになったので、うっかり滑らせてはいけないと肝に銘じていた。


「思い当たることがあったようだな。」


 王はシークの表情を見て頷いた。


「不和を解消する手がかりを掴んだようだし、とにかく不和を解消せよ。先ほども言ったが、できなければ即座に罰する。」

「…はい。お気遣い感謝致します。」


 シークはようやく礼を述べた。


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